|
はじめに神は天と地とを創造された。
地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は「光あれ」と言われた。 すると光があった。
神はまた言われた、「フィルムあれ」。 神はそのフィルムを見て、良しとされた。第一日である。
神はまた言われた、「売れ残りですまん。撮れるもんなら撮ってみろ。」....... 第70年である。
おなじみ私的素敵頁 / Shiteki Suteki Pay のコーナー。
些細なコトでも書いておけば地球上で年間3人ぐらい誰かが見つけて役にたつかもしれないシリーズ。
どうでもよさそうなコダワリが楽しい鉄カメラシリーズ。地味にやってます。
今回はフィルム放置は何年許されるか? あ、いや、古いフィルムは撮影可能なのか? 可能だとしたら何年ぐらい?
50年前のフィルムと70年前のフィルムを実写した結果を掲載しています。
ネットで探せば何でも出てくるこの御時世。それを読んでわかったつもりになっていないか?
どこのブログも元ネタは同じでコピペしただけじゃないか?
自分の手と目で確かめるシリーズ。地味に好評です。
当時としては珍しい16mm フィルムを用いたパノラマカメラ VISCAWIDE-16 (ビスカワイド16)
東京の大森にあった太洋工機株式会社が製造(ネット上には太陽とか大洋とか光機などの表記が見られますが全て誤植です)。
1961年9月発売 当時の定価 8400円
私の知る限りでは国際的にみても16mmフィルムのパノラマカメラはこれが唯一だと思います。
初期型/前期型はシャッター速度が High、Slow、STOP の3セレクター。後期型は HighとSlowの2セレクター。
ここで撮影に使ったのは初期(前期)タイプです。
レンズは国際的に優れた描写で知られる富岡光学器械製造所による TOMIOKA Lausar 2.5cm F3.5
※ ウクライナの映画監督から取扱説明書のリクエストがあったので追加掲載します(2020年7月11日)
VISCAWIDE16 USER MANUAL P-0 P-12 P-34 P-56 P-78 P-910 P-1112 P-1314 P-15
レンズの直後に縦の溝(スリット)があり、水平に120度首を振って撮影します。電池もモーターも使っていないのにすごいなぁ!
シャッター速度は H(High 、1/ 300秒)と S(Slow、1/60秒)の2つのみ。
スイング機構は機械式時計のようなゼンマイバネとゴム製のプーリー(ローラー)とガバナを組み合わせたもの(#よくできてる!)。
シャッター速度は2つで充分。こまかい露出設定は絞りで調整ですな。
16mmカメラとしてはサイズが大きかったこともあり、数千台しか売れなかったと言われています。
お店のデッドストック(売れ残りともいふね)らしき本体と元箱、フィルム、取扱説明書、ケースをまとめて入手しました。
入手してすぐに自分で整備して使える状態にしました。
過去にも同機種を数台入手しましたが、致命的に壊れて治せないものがけっこうあります。マトモに動作する個体は貴重です。
フィルムは赤い小箱に銀紙に包まれた状態。小箱には感度や撮影可能枚数の記載はありません。う〜〜む。
取扱説明書を読むと ASA 100 を基準としているのでそうなのでしょうね。
実際に撮ってみたら約75cmのフィルムに10枚写っていました。カメラのカウンタも10まで。
晴天の昼間。とにかく古いフィルムは感度が落ちており最大限に光を入れて撮るのが鉄則なので、絞りは開放F3.5 SLOWシャッター1/60秒 で撮りました。
コ〜〜〜ッ! という首振り音と共に軽快にシャッターが切れます。帰宅して早速現像します。
結果は御覧のとおり。暗めの露出ですが多少の画像処理で鑑賞可能になりました。住宅街の手前は畑なので暗いのはやむおえず。
よく見るとカビらしきものやシミや露光漏れのようなものが多数見られます。
フィルムは銀紙に包まれていましたが密閉されておらず、感光乳剤はまだ生きているものの温湿度変化に伴うカビの影響が大きいことがわかります。
ちなみにフィルム幅は16mmですが風景はおよそ 1cm x 5cm のサイズで写っています。
たしかにパノラマですな。
一般的な35mm(135型)フィルムでなくてモウシワケナイのですが、個人的に16mmカメラに入れ込んでいるので 2例目も16mmカメラです。
これはアメリカ サンフランシスコのウエッティカー社のマイクロ16ブランドのフィルムです。
Whittaker Micro 16 というカメラ向けに販売されていました。純正フィルムということですが、たぶん中身は Kodak でしょうか。
箱に1949年の使用期限が刻印されており、それによると製造されたのは2年前か3年前の1947年頃のハズです。
明確な年月日が入っているので検証に値すると思います。カメラはといえば極厚の金属ボディといい、上からのぞき込むファインダーといい、いかにもアメリカ製という作り。
それは専用のフィルムカートリッジ(マガジン)を必要とします。しかもフィルムはダブルパーフォレーション(両目/両穴)。
当時はカラーや白黒のフィルムが Micro16 純正カートリッジに入った状態で販売されていました。マミヤ16やミノルタ16と同様ですな。
撮影したら同封の紙小袋にフィルムを入れて元箱に収め、箱の裏面に切手を貼ってポストに入れると宛名は印刷されているのでウエッティカー社の現像所に届き、現像されて手元に戻ってくるのでした。だから当時のフィルムは現像代も含んでいたのですね。
海外のオークションにカリフォルニア州のカメラ店からフィルムだけ4個セット(カラー3個、白黒ネガ1個)が出品されていたもので、未使用フィルム(#もちろん売れ残り)を45ドルから25ドルに値切って買いました。
ホントはフィルムが欲しかったのではなくて金属製のカートリッジが欲しかったのですが。
※ じつは、ドイツの16mmカメラ MEC16 でナゼか米国のMicro 16 のカートリッジが使えるのです。
むしろドイツMEC純正カートリッジよりも Micro16のカートリッジのほうが安定してフィルム給送します(経験的に)。
4箱とも未使用で使用期限はすべて1949年のスタンプがあります。
ざっくり70年前のフィルムです。
アメリカの製品らしく、写真の撮り方をコミックで解説してあります。
日中にフィルムを出すな、1m以内で撮るな、晴れた日以外は撮るな、 室内で撮るな、慌てず(氷で頭を冷やして)ブレずに撮れ ....
カラーフィルムの1つを分解したところ金属マガジンの中には 30cm の長さのフィルムが入っていました。
パッケージには14枚撮影できると書いてあります。
カラーフィルムは自家現像が難しいので(液温管理が厄介なので)白黒ネガフィルムを試すことにしました。
それで、MIcro16を撮影に使うと絞りの構造的にどうやら暗い。しかも不慣れなカメラでレンズや機構の調子も確認不充分。
あれこれ思案したところ、使い慣れて確実な動作をするドイツの16mm両目カメラ MEC 16 SB で撮影することにしました。
F2.0 1/30秒 にて撮影 快晴
D-76 (1+1) 20℃ 8分現像 5分定着...
結果は? といえば、現像後のフィルムは御覧のとおり乳剤のハガレを伴いつつ真っ暗でしたが、慎重にスキャンしたところ像をとらえることに成功。
70年前のフィルムはかろうじて生きていました。..... いや、ほとんど死んでいました。
保管状態に関していえば、さきのビスカワイドと同様でカートリッジに収納されてアルミ箔で包んであるのみ。
密閉してあるわけではないので、やはりカビやら感度低下やら感光ムラなどは随所に見られます。確実に劣化は見られます。
50年経過と70年経過のフィルム、あくまで一例ですが上記の結果です。
果たして実用的と呼べるか? 特殊な効果を演出するにはいいかもしれません。
肖像写真には面白いカモ。誰を撮っても島津斉彬に写ります。
● 今日のPAY
ウエッティカー社のMicro16ブランドのフィルムは説明のなかで25ドル(約3000円)と書いていますので、ビスカワイドについてのペイを書いておきます。
じつは 本体2台、元箱、フィルム2個、取扱説明書、ケースをまとめて購入。
本体2台、元箱、フィルム2個、取扱説明書、ケース ¥12700
※ カメラ本体は2台とも整備しましたが片方は使える状態には戻らず部品取りになりました
70年前のフィルムはほとんど化石で使用は困難、50年前ならカビさえ控えめならなんとか使える。そんな感じでしょうか。
じつは50年前のフィルムは fomapanも試しています。
さらに30年前、15年前のフィルムはどうか?
以下に追加情報として書いておきます。
私が過去に撮影した数々のオールドフィルムで撮影した結果などを含めて考えると、
経年で確実に現れるのは「感度低下」であり、密閉していない場合、保管履歴を顕著に出るのがカビである、ということです。
チェコの16mm白黒ネガ 両目 ISO100 は使用期限が1978年で2019年に撮影して現像しましたが(約50年経過)完全に真っ黒で像は出ませんでした。
缶入りながらもテープで密閉されていなかったのでカビが広範囲に生じていました。
たんにチェコのフィルムは根性が無いのか? 単純に品質の問題か?
だいぶ前にクレーンホームページで掲載した富士フィルム の16mm マイクロフィルム MICLE F4 も古いフィルムです。
白黒 ネガ パーフォレーション無し ISO100です。2018年から複数の16mmスチルカメラで撮影し続けているワタクシのお気に入り。
およそ30年を経て感度は ISO25 程度に落ちていますが、ビニルテープで缶を密閉してあったせいか
実写結果は繊細で階調も非常に豊かです。とても16mmフィルムとは思えない描写。
さすがマイクロフィルム? 劣化どころか熟成したウイスキーのような味すら感じます。
コダックの映画用フィルムではよく知られたダブルエックスですが、これは白黒のネガフィルムであってリバーサルではありません。
型番は 7222 2R つまり16mmの両目です。デイライトでは ISO250 400feet(120m)の缶入りで布テープ封印されていました。
売主によると どうやら常温保存で15年を経過しているようですが、実際に撮影してみると ISO200ぐらいでしょうか。感度低下はほぼ起こっていません。
缶のラベルから調査したところ2004年か2005年頃の製造かもしれません。
このフィルムを入手したことにより、ダブルパーフォレーション(両目)フィルムが製造中止になってから出番の無くなったかに思えた両穴フィルムカメラが私の手元で大活躍しています。
よっぽど劣悪な環境で保管されていない限り、白黒ネガフィルムは15年経過したぐらいではほとんど劣化しないようです。
古楽器ならぬ古フィルムの世界。
思えば16mmフィルムの白黒ネガの場合は自家現像が容易なので、頑張っていろんなフィルムを集めたのです(製造中止の恐怖心もあり)。
ここに掲載以外にもいくつか試しています。まだ試していない古フィルムもありますのでいずれ追加できればと思います。
フィルムの保管において冷蔵庫は高温に対しては有効ですがテープで密閉した缶には温度の影響はさほどでも無いのかもしれません。
テープ封印等で密閉に近い状態にして高温にさらされていなければ20年ぐらいはフツーに使えるのかもしれません。
徐々に感度低下が進行し、25年とか
30年を超えたあたりから保管状態の影響が顕著に現れるのかもしれません。
個人的には自家現像が前提ですので、リバーサルフィルム(ポジフィルム)等は未検証です。
2021年6月20日記事追加
現像直後に見てワカル判別。古いフィルム2巻を同時に現像したときの写真を紹介しておきます。
現像して定着を終えたあと、水洗いするのですが、生きているフィルムは像が黒くなり、よく見ると透明感もあります。
しかし、死んだフィルムは元々の乳剤の色が残っています。現像しきれなかったようです。
製造時のフィルムベースの乳剤の色はメーカーやモデルで異なりますが、いかにも透明感が無いので判別できます。
※ どちらも 現像は コダック エクストール Kodak XTOL 1+1 24℃ 9分 1コマ4.37mm×3.28mm
しかしそれでも、全く撮れていないのか? いちおう毎回あきらめずにスキャンまでやってみることにしています。
そしたら、なんとか写っているカットもありました。必死に画像処理してやっと見られる感じですが ....。
Film Photography Project のダブルエイト CINE 8 ASA400 はデッドストックの詰め直しだったのですね。
期待してたのにガッカリ。新品じゃなかったのです。ざっと50年以上前の製造でしょう。
しかし、苦情が出たのか、その後 CINE 8 ASA400 はパッケージが緑色から赤色になりました。
ひょっとして、今度こそ新品なのかな? どなたか情報モトム!
【参考】
・カラーネガフィルムの現像の記事も書いてみました 本編
・黒白ネガフィルムの現像の記事も書いてみました 本編 補足編
本分記事:2020年1月19日 2021年6月20日追加
■ 私的素敵頁に戻る