カポタスト製作ちょ〜入門:歴史



カポタストの起源

 カポタストの歴史は古く、G.B.Doniが、その著書Annotazioni(1640年)の中でこの語を初めて使用したとされています。また、18 世紀の中期には真鍮製のクリップカポが存在したようです(ストックホルム楽器博物館より)。その頃のカポはペーパークリップのようなC型(D型の端部が開放した構造)に真鍮板を曲げた単純な構造で、いわば薄いブレスレットのようなものでした。上図のような木製にペグを備えたカポタストが登場するのは18世紀末のスペイン(通説ではカポはスペインで発明されたとされている)。しかし、ほぼ同時代にイギリスでもイングリッシュギターに T型のカポタスト(指板からネックの裏側まで穴をあけて蝶ネジで締める構造)が使われていたことを考えれば正確な由来を確定するのは困難かと思います。いずれにせよ、いちどに弦を押さえるという単純なしくみです。しかしカポタストは単純な原理でありながらも1850年のジェームズ・アシュボーン以来、固定する構造や素材の工夫に関して今日までに約130件もの特許が申請されてきたのです。なかには滑稽ともいえる「ヘンテコ・カポ」も数多くありました。私のように必要以上にカポにこだわり、魅力に取りつかれたしょ〜もない..... おっと、素晴らしい人々の歴史をそこにみることができます。現在市販されているカポだけでも、ひとたびネットで検索すれば様々なしくみと原理をみることができます。おそらく、これだけ単純な目的のために真剣に多角的なとりくみがなされた例も歴史的に珍しいと思います。

参考: カポタストは国によってスペルと呼び方が多少異なりますが、私の経験でいえば、現在では「カポ(Capo)」で国際的に通用します。

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スペイン語
cejilla または capodastro
ポルトガル語
capo または capotasto
イタリア語
capotasto


カポタストの入手

 スパニッシュスタイルのカポタストは基本的に手作りであるため、プラスチック製や金属製の工場生産カポに比べると価格はどうしても高くなってしまいます。現代においてモダンなカポ、つまりクリップ式やゴムベルト式のカポタストはデパートの楽器売り場でも見かけるほど身近になっており、耐久性や装着性能、価格においても非常に高いレベルの製品を目にすることができます。むしろそれらは現代の消費文化にならって、合成樹脂とメッキの集大成ともいうべき合理主義に基づく量産工業製品の典型的な姿でもあります。そんななかで、あえて合理性を排除して手作りの「味」を求める、それが当サイト・当コーナーのコンセプトであるわけです。手作りにして非合理的で面倒で、手間がかかって、意味の無さそうなウンチクを並べて作ったあげく、結局は世界中の5人ぐらいにしか感動していただけない。それでこそ本懐であります。

クランプ式やクリップ式、ネジ留め式などのモダンなカポタストと違って、スペイン式カポタスト(スペカポ)では木製ボディにガットを巻いて木ペグで締め上げるというのが基本構造。19世紀からすでに使われてきたヒストリカルなカポです。アリガタイことに現代においてもスペカポは入手可能です。ちゃんと味のわかる人達がいるんですねぇ。スペインではいまでも製造されており、日本にも輸入されています。なかには高級手工品として高価なものもあります。まぁ、木製のハンドメイドといっても市販のカポは実際にはパートのおばちゃんがセッセと流れ作業で作っているのでしょうけど(笑)、手間がかかることに変わりはありません。今日、インターネット上で探せば木製のスペイン式カポは4000円ぐらいからギター専門店等で購入することができます。税や送料などを含めると実質5000円とか6000円ぐらいかな? 但し、国内だと種類は限られます。海外でも扱っていることがありますが、イザ購入となると送料や手数料を支払う必要もあり、あまり経済的ではありません。デザインという点でも、なかなか素敵なものを見つけることは困難です。どうせなら人とは違ったステキな逸品を手に入れたいのが人常というもの。

そこで、自作という選択肢も挙げられます。クレーンホームページは楽器製作のホームページなのでやたらと手作りを奨めてしまいますが、カポタストもがんばれば自作が可能です。ただ、ちゃんとしたカポタストを作るには道具を揃える必要があり、そのためにまずお金がかかります。しかもその道具の使い方を習得する必要もあるのです。まぁ、こまかいところにこだわらないのであれば(ホントはこんなものだからこそこだわって欲しいのではありますが)、ホームセンターの材料で作ることも可能です。難関はペグの巻き上げ部分で、穴をリーマで開けてテーパをつけねばなりません。ペグは市販のヴァイオリン用で代用することもできます(厳密にいえばカポのペグはそれ専用であるのでVnペグを流用するとちぐはぐ感が出ます)。

もし身近にヴァイオリンや古楽器といった木ペグを使った楽器を製作する工房があれば、カポ製作を相談するのもいいかもしれません。ただ、思った以上に手間がかかるものです。手間・コスト的に断られるかもしれません。あとは交渉次第でしょうか....。私も製作したカポをこのクレーンホームページでお分けしていますが、常に提供できるとも限らず、注文を受けているわけでもないので領布には限度があります。どうしてもこんなスペカポが欲しい!という方は御相談ください。場合によっては製作できるかもしれません。ただ、特殊なものにコダワル傾向がありますが.....。

参考: 世界中を探してもカポタスト作りのホームページは見あたらず、人がやらないのであれば私がやろうと思い立ち、参考になればと思いこのページを立ち上げました。一見するとくだらないようなことに命を懸ける(←どうでもいいことが気になる人なのだ)、そんな狭くて濃いカテゴリは私の得意分野ですな。

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