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コロナウイルスをアルコール消毒するのだと言いながら夜中にワインとビールをあおり、レアなアイテムを見つけたかと思えば脊椎反射でマウスの人差し指が下がっている。数日後「お届け物です」にびっくりする。 宅配のお兄さんは「またカメラですよ」とあきれ返る。壊れたものを修理するのも良い勉強なのだと自己弁護しては開き直る。まったく反省しない。学習しない。
それが「私的素敵頁 / Shiteki Suteki Pay」のコーナー。
些細なコトでも書いておけば地球上で年間3人ぐらい誰かが見つけて役にたつかもしれないシリーズ。なかでも地味に好評なのが、めんどくさくて楽しい鉄カメラシリーズです。
※ 過去の参考記事:以前にもMAMIYA16 や MEC16SB片目改造 など 16ミリ映画フィルムを使うスチルカメラ(静止画の写真)の記事を書いていますが、今回は同じ16mm白黒ネガフィルムを使って映画(動画/ムービー /シネマ)を撮るお話です。いつものように個人の備忘録なので間違っても真剣に読んではいけません。
発売年:1930年代(この個体はおそらく1940年頃)
メーカー:アメリカ International Projector Corporation (NY, USA)
本体サイズ:12cm x 16cm x 3cm 音楽CDとほぼ同じサイズで厚みが3cm
重量:975g フィルムカートリッジ含まず
レンズ:ILEX CINEMAT 1inch(標準25mm)F3.5
点調節:固定焦点 たぶん3m程度
撮影速度(fps):16コマ/秒 〜 12コマ/秒 ※コマ撮りも可能
シャッター速度:約1/30秒に相当 ※掻き下げ爪はシングル
絞り:F3.5 から F16
露出:マニュアル(手動)
シャッター:金属筒首振り方式
使用フィルム:16mm幅の両目及び片目フィルム ※穴がないと使えない
フィルムマガジン:専用カートリッジ 最大50Foot(約15m) ※16fpsなら2分 12fpsなら2分半撮影可能
フィルム装填:当時はカートリッジに充填され販売されていたが現在はダークバッグで手作業で好きなだけ詰める
巻き上げ:ゼンマイバネ式 ※最大20回転(半39.5ひねり)で70秒間駆動
ファインダー1:ワイヤフレーム格納式スポーツファインダー
ファインダー2:単純ミラー式(左右逆像)
フィルタ:無し
フィルム露光サイズ:10x14mm (スタンダード16またはレギュラー16と同等)
フィルムカウンター:減算式 最大50フィート 装填後にフィルムの長さをダイヤルを回してセットする
■ なぜ、このカメラなのか?
私は16mmスチルカメラが好きで長年撮ってきましたが、時々思うことがありまして ...
「このフィルムは本来は映画用なんだよね。映画(動画)をちょっとだけ撮ってみたいなぁ ... 。」
しかし、「ちょっとだけ」というのが引っ掛かる。
なにしろ16mm映画はプロの業界では1秒間に24コマ撮影するのです(家庭用でも1秒間に16コマ!) え〜〜〜〜〜〜っ!
スチルカメラ MAMIYA 16 に24コマ分のフィルムを詰めてお出掛けすると、一日かけて撮り終わるフィルムの長さ。
つまり静止画写真撮影で一日楽しめるのに、動画のシネマは1秒で終わる ..... ガ〜〜〜ン!
シネマってなんてゼイタクなんだろう。
絶対私には 無理!無理!無理!無理! ムーリー!
長年そう思い続けていたのであります(#貧乏時代が長かったからね)。フィルム代もたいへんなことになりますが、現像代も高い。
しかも完成品を上映するにはさらにお金がかかります。さらにフィルムからデジタルに変換(テレシネといふ)するのにもお金がかかる。
そこで見つけたこのカメラ。カートリッジ式のため、自分でフィルムを詰めれば、たったの50cm(数秒間)でも映画が撮れます。コレダ! ヒラメイタ。
短いフィルムで撮って現像を自分でやって、スキャンや動画作成や編集やテレシネも自分でやれば低コストで楽しめるんじゃないか?!
しかもでっかくなくて小振りなのがイイ。
■ 撮影して現像・編集してみました
2019年12月22日の夕方。
白黒16mmネガフィルム(ORWO ISO400 片目)をダークバッグで1.5mぐらい切ってフィルムマガジンに入れる。
冬なので日の入りが早く、午後3時を過ぎて小雨なので薄暗い。
絞りは開放の F3.5 で撮影。シャッター速度はコマ設定が当時の家庭用標準の 16コマ /秒 であるので露出は1/30秒程度。
暗いので絞り込めないうえに、標準とはいえ25mmレンズは望遠気味で撮りにくい?
(16mmシネマカメラではライカ判/35mm判の換算で約3倍の75mmに相当します)。
駅のホームから電車が過ぎ去るほんの数秒間。あっというまに撮影終了。え? もうオシマイ!?
いちおう3回撮影できました(1回4秒で約50cmを消費するので3回の撮影で150cm)。
自分で現像しました。MAMIYA 16 や minolta16 のようなスチルカメラ用のJOBO製現像リールで2m現像可能。
今回の現像は Kodak Xtol 1+1希釈 20℃ にて9分30秒。
安いフィルムスキャナ(1万円ぐらい)で4コマづつスキャン。
PhotoShop(画像処理ソフト)で43枚の1コマごとの静止画ファイルを作成。
最後にiMovieを使って43枚の画像を1枚づつ取り込み、1コマを 0.1秒づつ並べてコマ撮りアニメを作成しました。
完成した動画プロジェクトは .mp4 2.5MB で書き出しました。
たったの4秒間ですが、最初の試みとしては大満足。予想していたとおりに再生できました。
長時間の作品作りをするのであればフィルムをどんどんつなぐだけですからね。手間暇はかかりますが充分に可能です。
新宿行きの小田急線。
狙いどおり、フィルムの傷やチリも写り込んでいます。スキャン時にあえてチリなどは完全に除去しませんでした。
フィルムの穴(パーフォレーション)の位置は一定ですが、画像は上下に揺動しています。
現像したフィルムを見てわかったのですが、撮影時にカメラのシャッター機能が安定しないのが原因のようです。
家庭用の廉価モデルですからね。
でも、それがかえってフィルム撮影の臨場感があります(#かなり暴れてるけど)。
※その後、何度か動かすうちに安定してきました。
Simplex Pockette は一般的なシネマカメラと同様にシングルショット(コマ撮り)が可能です。それも問題無く機能しています。
このシネカメラは1940年頃の製造と思われ、約80年経過しています。自分で少し整備しました。
付属していた2個のフィルムマガジンには1942年4月3日のスタンプと1941年5月3日のスタンプがありました。
フタには LOADED WITH KODAK FILM THIS MAGAZINE IS THE PROPERTY OF KODAK と印刷されていたのでコダック社と提携していたことがわかります。
今回はフィルム感度が ISO400 ですが、当時は ISO 10 ぐらいが標準なので明るい場所でしか撮れなかったでしょう。
天気の良い日に家族でサンドイッチ持ってハイキングに出掛けて撮影したのであろうか。そんなことを思い巡らすのも楽しい。
なんともアナログというか、それでも誰が見てもちゃんと動画になっていて、個人的にはレトロで昭和な感じが嬉しくてワクワクします ....
● 今日のPAY
シンプレックスポケット本体は5000円ぐらいから売られています。ただ、古いものなのでたいていは状態不明。
そして何より専用のフィルムマガジンが必要。これが安くないのです。
MAMIYA 16 のときにも説明しましたが専用フィルムカートリッジはときにカメラ本体よりも高いことがあります。
今回は2個のカートリッジ付きで状態が良さそうだったのでフンパツ。
売主の希望 GBP99ポンド(約14000円)を11000円で交渉して手打ち。シャン!シャン!
届いて軽く整備してレンズをクリーニングしたらかなり綺麗。撮影に影響しそうなカビもクモリも無し。ヨカッタ。
もう一台、同じモデルでわずかに時代が後のレンズも異なるものを300円で入手。これは構造を知りメンテナンスするうえでたいへん役に立ちました。
Simplex Pockette + Film Magazine(eBAYにて) ¥11000
Simplex Pockette ジャンク部品取り用(ヤフオクにて) ¥300
■ おぼえがき / 注意点など
・シャッター速度:撮影速度が16コマ/秒でも12コマ/秒でも同じ約1/30秒としてよし。
シネマカメラではシャッター速度に相当するのが撮影速度(fps)。16コマ/秒としても露出計算ではシャッター速度は 1/16秒にはならない。
たいていその2倍の 1/30秒程度。メーカーや構造やシャッター角度可変モデルなどによってもかなり異なる。
・使用フィルム:Simplex Pockette は16mm幅の両目及び片目フィルムの両方が使える(掻き下げ爪が1本なので)。
1921年(大正10年)コダック社がシネコダックとして小型映画の規格「16mmフィルム」を発表して以来、16mmフィルムは国際的に両目(ダブルパーフォレーション)が標準。
片目(シングルパーフォレーション)は1960年代にSuper16規格として登場。
しかし、たいていの16mmシネカメラは掻き下げ爪が1本/シングルの構造だと両目も片目も両方使用できることが多い。
掻き下げ爪が2本/ダブルだと両目のフィルムしか使えない。
・レンズは固定?:Simplex Pockette はレンズとボディが硬くて他の個体から移植はできないと思ったらスクリューマウントで外せるらしい。但し、初期モデルを含めて全ての個体がスクリューマウントかどうかは未確認。
・専用カートリッジへのフィルム装填:乳剤面をシャッター側に、片目フィルムなら掻き下げ爪(溝)側に穴がくるようにセットする。
撮る前に何度か練習したほうがいい。
・ミラー式ファインダー:当時のアメリカの16mmスチルカメラ Micro16 と同じ仕組み。
単純に凸レンズから入った光を鏡のように仕上げた金属板で反射しているだけなので、左右が逆なうえにレンズ近くから見ても結像せず20cm以上(いや、もっと!)離して見たときに像が得られる。フレーミング用ではあるけれど、ほとんど役に立たない。ボディ側面の針金のスポーツファインダーのほうがよっぽどマシ。
もちろんパララックスは自分の感で補正しなければならない。家庭用モデルではあるけれどけっこうめんどく .... あ、いや、奥深くて楽しい。
・スプリングモーター駆動:電池も電気モーターも使わずゴミも排気も出ないゼンマイ式。
素晴らしい。古時計と同じ仕組みだがこのモデルは2個のゼンマイを持つ。最大20回転(半39ひねり)で70秒間駆動可能だが終盤では速度が落ちるので実質60秒程度と考える。古い時代のシネマカメラはゼンマイ式なのもワタクシが好きな理由のひとつです。
世界中で様々な16mmシネカメラが作られましたが、厚さ3cmという超薄型なのはシンプレックスだけだと思います。たいていは弁当箱のような「箱型」でした。2個の巨大なゼンマイが全重量の6割を占めていると思われるので、これを外して手動クランクのみで撮影できるようにしたら面白いカモしれません… 。
■ フィルムシネマへの思い
スチルカメラの撮影現場から見た「ちょっとだけ連続撮影したら動画になるんだろうなぁ ... 」が実現しました。
最初は古い機械なので上手くいくとは思っておらず、一発でそこそこの動画になったのは、ちょっと驚きつつも満足、満足、満足学園なのでありました ... 。
スチルと違ってシネマの撮影はシャッター速度がスチルの場合の1/2倍から1/3倍に暗くなる機種があるので、初めて撮るときにはプチ悩みます。
しかし、使用フィルムが白黒のネガであれば多少の露出の間違いなんぞラチチュードという慈悲深い神様がお救いになり、アッサリ完成してしまいます。ポジ(リバーサル)フィルムと違って気楽に撮れます。かなり補正も効きます。
ちょっと病みつきになりそうなワタクシでありました .....
動画を撮るならスチルで表現できないものを撮りたい .... ふだんは動画の必要を感じることはほとんど無い .....。
去年(2019年10月)、令和天皇の即位記念パレードがありまして、都内の権田原まで観覧に出掛けたのです。
じつは、そのときに 8mm フィルムでシネマ撮影するつもりでした(26年前のご成婚パレードを観覧できなかったので)。
事前に夏から準備していたのに、ダブル8のフィルムが入手できず、いや、Fomapan という白黒ポジの両目フィルムが唯一入手できるのですが、日本で唯一現像をやっているお店に電話して確認したところ、現像すると乳剤が剥がれてしまうのだそうな。さすがチェコのフィルム。失敗しても現像代4000円はかかります。
やむおえず、即位パレードはフィルムでの撮影を断念してデジカメで撮影したのでした(mp4版)。
8mmといっても私は白黒で撮りたいのよ。だから世間で現在でも愛好家が多い Super8 とか全く興味が無いワケですよ。
だいたいシングル8とかスーパー8の時代はマガジン式のポジカラーフィルムであるし、乾電池とモーターで動かします。なによりカメラがプラスチックでカッコワルイものがほとんど(あくまで私個人の好みですが)。
昔ながらの鉄カメラなのか、新時代プラスチックカメラなのかというダブル8とシングル8のデザインの違いはその時代の違いでもありますな。
ダブル8時代の8mmカメラのデザインと世界観こそが私の目指すシネマ(そう信じて疑わない)。
結局 ... 手元にはやたら程度が良くて出番の無い二台の8ミリカメラが書斎のオブジェになってしまいました。 .... Bell&Howell 134 と Agfa MOVEX 88L
ちょっと悔しい。
このまま2019年も終わりか ... と思っていたら、私の昔の教え子が今年2020年の東京オリンピックの聖火ランナーに選ばれまして。
おお! チャンス再来。動くものが撮れる。権田原のカタキを小金井で討つ。
さっそくフィルムとカメラを入手することにしました(16mm白黒ネガフィルムはそこそこ保管があるし)。今度は16mmシネマでいこう!
妙なスペイン人から両目の16mm白黒ネガフィルム ISO250 400フィート(120m)を3巻購入。ついでにアメリカ ニュージャージー州からも種類の異なる16mm白黒両目ネガフィルム ISO200 100フィート(30.5m)を2巻入手。
16mmフィルム映画といえば使用するカメラはアリフレックスが業界標準ですが、モーター駆動の業務用なので除外。時代感というかデザインとしてはレフレックスになる前の昔の BOLEX H16 もいいなぁ。でも、「ちょっと撮ってみたい」という気軽な値段ではないのですな。両者とも。
やっぱり静止画と違って動画はハードルが高い? いやいや、探せば他にもあるさ .....
そこで見つけたのが Simplex Pockette なのでありました ...
■ 今後の課題
今回の結果からみるとシンプレックスポケットの小型軽量は素晴らしいのですが、画像のゆらぎや固定焦点ゆえのボンヤリ感が特徴的 ....
どこを撮っても海底都市に写る
25MB MP4形式 4.9MB mov形式
試行錯誤の結果、フィルム入手・シネカメラ入手と修理調整・撮影・現像・スキャン・動画作成・編集・テレシネ・Webサイト掲載まで全て自分一人で作業できることに自信が持てたので、もう少しやってみようと思います。
じつは、すでに他の16mmシネカメラをいくつか入手して撮影中なので、また改めて記事を追加で書きたいと思います。
● 資料:関連サイト
・Wikipedia 小型映画
・Wikipedia 8mm映画
・Wikipedia 16mmフィルム
記事:2020年2月6日
● 補足:関連サイト
※ フラットベッドスキャナとLEDトレースパネルを使ってスキャンする場合はガラス板で押さえないほうが良い場合があります。スキャナのメーカーやモデルによっては焦点がガラス面ピッタリではなく、ガラス面よりやや浮いた上面であったりするからです。
記事追記:2020年4月14日
● 追記:ダブルエイト(DOUBLE-8 / ダブル8)のフィルム復活!
2019年現在においてダブル8のフィルムを使う8mmシネマは絶望的でした。カメラは100円ぐらいでヤフオクに大量に出ていました。また、シネカメラがいくら元気でもフィルムが無いので役目は与えられませんでした。この状況はざっくり個人的にいえば数十年間続いたのです。ところが、2018年頃からダブル8のフィルムを製造・販売しようという運動が国際的に盛んになり、2020年にはモノクロリバーサルフィルム、白黒ネガフィルム、そしてそれらの感度違いの製品などが新品として販売されるようになりました。ここしばらくのあいだに状況は急変したようです。こんな時代が来るとは信じられません。今まで半世紀以上にわたって肩身の狭い思いをしてきたダブルエイトのシネマカメラが今こそ活躍の出番を与えられたのであります。手元のベル・ハウエル 134(Bell&Howell 134)が半世紀ぶりに目覚めます。
ダブルエイト万歳!
Film Photography Project 8mmフィルム ダブル8(Double-8)
2021年6月21日 記事追加
現像直後に見てワカル判別。古いフィルム2巻を同時に現像したときの写真を紹介しておきます。
現像して定着を終えたあと、水洗いするのですが、生きているフィルムは像が黒くなり、よく見ると透明感もあります。
しかし、死んだフィルムは元々の乳剤の色が残っています。現像しきれなかったようです。
製造時のフィルムベースの乳剤の色はメーカーやモデルで異なりますが、いかにも透明感が無いので判別できます。
※ どちらも 現像は コダック エクストール Kodak XTOL 1+1 24℃ 9分 1コマ4.37mm×3.28mm
しかしそれでも、全く撮れていないのか? いちおう毎回あきらめずにスキャンまでやってみることにしています。
そしたら、なんとか写っているカットもありました。必死に画像処理してやっと見られる感じですが ....。
Film Photography Project のダブルエイト CINE 8 ASA400 はデッドストックの詰め直しだったのですね。
期待してたのにガッカリ。新品じゃなかったのです。ざっと50年以上前の製造でしょう。
しかし、苦情が出たのか、その後 CINE 8 ASA400 はパッケージが緑色から赤色になりました。
ひょっとして、今度こそ新品なのかな? どなたか情報モトム!
記事追記:2020年6月27日
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