Guitar (c.1800 / France )
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フランス19世紀初頭の6単弦ギター(1800年頃)

 

私の製作した楽器を紹介するコーナーです。ここでは私の製作したフランス6単弦ギターのレプリカを御紹介しましょう。

1800年頃と記していますが正確にいえば1700年代末期〜1800年代初期にこういったスタイルのギターが多く製作されており、いわゆるラコート以前のフランスの6単弦ギターのひとつの代表的なスタイルといえるでしょう。具体的にはブリッジはブレイス・マスやバスティアン・フィルズやMarchalがこういった一文字の装飾ブリッジです。いずれも1800年前後のパリにによく見られる様式。ミルクールでもJoseph-Philippe などはやはり一文字のブリッジなのです。同時代にLupotやPetitJean, Marqis, Lajoue, Didier,BERNARD, Thouvenelなどの製作家も活躍していましたがそれらはブリッジ両端のムスターシェが樹木状(パセリ状)であるほか構造上のいくつかの異なる傾向が見られます。次の写真でブリッジのスタイルを比較くだされっ....。

 

そして、私が修復して少し前に売却したフランスのギターが、まさしく今回製作のお手本になった楽器です(写真)。一般的な19世紀ギターよりも若干小柄で全体のフォルムが非常に美しく、19世紀〜現代に至るまで希にみる優れたセンスの1挺といえるでしょう。無銘の楽器でサインやラベルは残っていませんが、当クレーンホームページのコーナー「19世紀ギターの世界」でも紹介しているように当時は著名な工房であっても販売取引の都合などからあえて銘を記さない楽器は多く存在したのです。使われている木材も素晴らしいもので(良い木材とは単純に木目が綺麗にならんでいるという意味ではありません)、音色も良く音量も充分でよく歌います。楽器の修復と製作に携わる一人としてこういった楽器に接することはシアワセだと感じます、ウンウン、ホント..... 。この時代にはとりわけ美しいフォルムの楽器が多いように思います(私の思い込みかな?)。後期のラコートなどのゴツさと比べると線がしなやか、かつメリハリがあります。

さて、話が長くなりそうなので今回製作した楽器の製作工程を以下にざっと紹介していくことにしましょう........

 


前編

製作の流れ

細部の解説は今まで他のギターで紹介しているのでポイントをおさえながら「抜粋」ということで手短に説明したいと思います。他の楽器の製作記事をあわせて御覧いただくのもよいでしょう。

お手本となる楽器の寸法を測り、モールド(木型)を作り..... と、このあたりのプロセスはいつもと同じで手慣れたものです。木材はストックのなかから独特な杢を持つものを選抜。といっても今回使用するのは4セット分しか手元にない貴重な杢材なので寸法の許す限り、ギリギリに木取りします(以下写真参照っ!)。ビンディングやヒールに隠れる部分は多少難があっても問題ありません。事実、当時のギターの修理を行っていると木材を無駄なく使うためにわざわざ板の表裏や上下を逆に使ったものも多く見かけます。約5mm厚のメイプルを2mm程度まで調整して使います。現時点では私はドラムサンダーが買えないので手作業です、このように杢がきついと板厚の調整だけでも一日仕事..... ふぅ.... 。「モッタイナイ、モッタイナイ..... 」と念じながらホントにギリギリに木取りしてるんです......。写真右下の端材もちゃんとあとで楽器に使います。

 

型紙を起こし、同時代の同じスタイルの楽器などを比較・検証しながら記録を付け、裏板と木型を切り出します。過去に修復した多くのギターの資料が役立つわけです。樹皮に近いしらた(白太)部分に少しかかっていますが強度的には問題なく、まぁ、むしろオシャレということで....。
今回使用するのは、かの「もくもく」から入手したメイプル。端材も立派な材料です、小さな木材は小さな楽器に使えばヨロシイ。そうすれば捨てる木材はおのずと少なくなります。ああ、モッタイナイ、モッタイナイ..... 。

写真 

 

木型と側面板、そしてブロック。トラ杢の出た材はベンディングするときに凹凸が出やすく、慎重に作業します。

写真

 

 

じつは今回製作しているギターは3年前から作り始めたものです。お手本の楽器を修復しながら、同時に採寸しながらコピー楽器も同時に製作していたのです。そしてまた、このときは各種の楽器をそれぞれ部分的に同時に作ってもいます。あれこれ試行しつつ時間をかけて作ります。気がついたら3年が経過.......。

 

はい、.......... いつものガリバー状態にあります。木型に組んだままスプールクランプをかけてます。ブックマッチのセンターには黒檀のようなスペーサを挟む場合と挟まない場合とがあります。

写真

とうわけで箱になりました〜〜!

写真

 

さて次はネックと指板まわりの作業です。一般的なモダンクラシックギターやアコギではノコで切れ目をいれてT型断面のフレットを打ちますが、私の場合はバーフレットを使うことが多いのでフレットの溝も1箇所づつルータで彫ります。面倒な作業でお金も時間もかかりますが仕上がりと音のことを考えるとやはりバーフレットの魅力には代え難いと思います。

写真

 

 

.........と言ってるあいだにネックとボディが合体! ジョイント部分はどこもニカワを使います。あ、.......... そういえば私の考案した「TSULTRA Q's Pot(グルーポット)」を見てニカワ鍋と気付かなかった人も以前ありましたが、たしかに市販のニカワ鍋はとてもデッカイものが多いんですね。私はおちょこサイズの耐熱ガラス容器なのでニカワ原料も少量づつ使っており、なかなか減らなくて経済的ですし、ベンディングアイロン流用なので温度管理もらくです。1999年以来、何度か当サイトでも紹介していますが、重宝しているのであらためてここにも紹介しておきます。お手元にベンディングアイロンをお持ちの片なら針金ガイドときゅうすとジャム瓶(または市販の焼プリン容器)で簡単に作れますから、ぜひ試してみてはどうでしょう? やっぱりニカワっていいですよ。

 

 

フレットは合金比率とサイズ指定の特注品のバーフレット。T型断面のフレットも19世紀にはありましたが、この時代のこのテのタイプは基本的に「バーフレット」なのです。この部品、象牙やシルバーなどが素材として挙げられますがいずれも非常に高価です.......が、私は積極的に使ってギターを作ります。国内外を問わず世間の19世紀ギター(修復品、コピー共に)には何でもかんでもT型フレットが打たれたものが見受けられますが歴史に忠実なコピーの楽器ではぜひともコダワリたいところです(消費者が気付かず指摘もしないから製作家は手抜きをするのです)。
あと、だいぶ前にも書きましたがこの時代のギターでは必ずしも12平均律でフレット位置が打たれていない楽器も多いのです。ブリッジ位置やこまかい部分のセッティングも含めて奇妙なフレッチングのギターも時として見られます。

写真

 

 

 ボディ周囲をとりまくビンディングの行程です。はじめにボディをルータとノミでざっと落としておきます。黒檀板を糸鋸盤で切りだして適切な寸法のビンディング材を作ります。これまた必ずしもこの時代のビンディングは黒檀とは限らずペアや柑橘系果樹を染めたものも地域や製作家によっては見られます。 ベンディングアイロンで曲げてボディに接着します。旗ガネやロングクランプを使い、2日間かけて前後上下のビンディングを接着します。裏板側のビンディングはパフリングを持たないので隙間なくキッチリ接着するには神経を使います.... それ以前に私の作業がたんにのろいのですが..... 。

 

写真

 

 

 ペグとヘッドのペグ穴を加工する行程です。糸巻き(ペグ)は木ペグ、別名フリクションペグですな。ツマミ部分の形状も様々ですがフランスのものはタマネギやニンニクの断面状のものをよく見かけます。貝や象牙でつまみ部分の両面を装飾したものも多くあります。テーパを合わせヘッドを削って形状を整えて再塗装します。ヘッド側は木工ドリルで下穴を開けてリーマでペグに合うように調整します。初期摩耗を計算してやや浅めに合わせておきます。

写真

 

エンドピンやボタン類はまとめて作っておきます。ペグやストリングピンなど、作れるものは木工旋盤で回して削ればいいのですがコピー製作となるとなかなか当時の形状を再現するのは手間のかかる作業です。材料も黒檀、象牙、獣骨、ツゲ、果樹など、たいてい木工旋盤を設置したときにはまとめていくつものタイプを作ってしまいます。やるなら一度に......というわけです。後片付けがタイヘンなんだもん...... 。

写真

 

 

続いてパーフリングの作業です。ボディに巻いたビンディングに沿って表面板周囲に黒白黒の帯を挟みます。溝を黒い充填材で埋めて表面板レベル以上のものを除去すればできあがり。口でいうのは簡単! 手を動かしてはじめて難しさと楽しさがワカルのです、フフフフ...... 。難しいのはフラッシュボード周辺のつなぎ部分でしょうか。キッチリ隙間無く調整しながらの作業です。必ずしも45度カットではなくあくまで自然な仕上がりを目指せば結果はうまくいきます。..... で、12フレットを装着したら苦労して綺麗に仕上げたつなぎ目が隠れちゃったりします(笑)。

 

 

ボディはおおむね組立作業を終えたのでブリッジ製作です。黒檀のブランクから適切な寸法を糸鋸盤で切り出し、ドリルで弦穴を開けます。糸やスケールを使ってブリッジ位置を決定します。

写真

 

 


 後編

 

さて、製作についての後編です。
ボディの基本部分はほとんど作り終えてきたので、ここいらで装飾部品を作ります。まぁ、いつもなら先に装飾部品を作ってしまうことも多いのですが今回は製作工程の最後に作ることになりました。当時のギターのブリッジ両脇の水平対向エンジンのごとき装飾ですが、写真を撮影しておき、イラストレータの下絵として配置、それをベジェでトレースします。プリンターに実寸で印刷しておき、御覧のように木工旋盤のガイドに糊付けして削ります。こうすれば忠実に再現できるのです。

 

この時代には表面板の塗装はごく薄く少量で、側面と裏板に濃く厚めの塗装をよく見かけます。もしくは薄い塗装膜であってもメイプルの木地が濃色であったりします。濃い色の付いた塗料、もしくは染めたあとに薄い塗装、などが考えられます。今回は顔料を数色ミックスして下地の染めを行い、その上からクリア層をなします。

 

 

こちらは裏板の染め作業の途中です。工房内の照明とデジカメのホワイトバランス、そしてみなさんのモニタのカラーバランス.... 微妙な色合いほど発色を忠実に見せるのは難しくなります。ま..... 最終的な色合いは展示会などで現物を自分の目で見るのがいちばんでしょう。ホームページ掲載の写真の色に関しては目安程度に考えてください。

 

 

表面板にブリッジ装飾を接着します。ブリッジ形状にマスキングして表面板全体を塗装します。

 

ひとつ忘れてました。フラッシュボードの表面板と指板さかいめのフレットを打ちます。もちろんバーフレット。この部分はのちにトラブルが起こりやすいので入念に作業します。

 

ヒールのキャップは象牙。このヒール部分の形状・サイズも当時はじつに様々なものがありました。

 

ふぅ.....  ガット弦を張ってナットや指板、サドルなど細部の調整、そして試奏しながら最終的なチェックを経て完成です。述べ500時間ぐらいかかったでしょうか。こうやって深夜(というより早朝)に完成の祝杯を工房で独りかみしめます....... もちろんいつものお気に入り、ベルギー・ビールのヒューガルデン・ホワイト。

おかげさまで2004年秋の名古屋の展示会でもたくさんのお客さんに試奏いただき好評でした。今回はボディのシェイプがとくに特徴的なフレンチですので、足を止めて質問頂いた方のなかにはデザイナもいらして濃い話ができて嬉しかったです。なかなか楽器の美しさを専門的に厳しく評価される機会が少ないのですが、グラフィックデザイナやインダストリアルデザイナ、あるいは広くモノづくりのデザインに携わる方々の御意見を広く求めています。次の展示会にぜひ現物を御覧ください。

 

現状では平均テンション5.3kgという弱めの張力で弦を張ってありますが、力強い鳴り方をします。裏板と横板はやや厚めで剛性が高く、こういったギターでは中低音域に粘りと力があります。この楽器は2005年2月19日(土)・20(日)に東京(府中市)で開催されるTOKYO ハンドクラフトギターフェスに出展しました。

 

弦長635mm
表面板:ヨーロピアンスプルース
裏板・側面板:メイプル
指板:本黒檀
ブリッジ及び装飾:本黒檀
フレット:バーフレット(高域は黒檀)
ビンディング:黒檀
ストラップピン:ツゲ(ボデイ底部と裏上下の3カ所)
弦:ガット(羊腸)弦 平均テンション5.3kg

 

【完成写真】

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by Makoto Tsuruta, TOKYO JAPAN.

 

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