21世紀 コンセプトモデル

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クレーンホームページ : Makoto Tsuruta
Ver1.1.2


はじめに

さて、当クレーンホームページでは21世紀のはじまりを祝して? コンセプトモデルを開発することにしました。開発というとカッコイイけどホントは「あんなギターがあったらいいな」とか「こんな楽器が欲しい」といったぐあいに本能のおもむくままに好き放題煩悩を盛り込んで作る楽器、といっても過言ではありません。名付けて「思いつき煩悩満載モデル」なのです。

みなさんは「東京モーターショー」って御存知ですか? 車好きの方なら一度は出向いたこともあるでしょう。「東京モーターショー」といいながら千葉県で開催されることもあるわけですが、かつて私も何度か訪ねたことがあります。ものすごい人がやってきて(黒山のひとだかりで、それこそまとめてそこいらじゅうの人間をトラックに積んで東京湾の埋め立てに使ってやろうかと思うほど)、国内外の自動車メーカーの新作を観覧したりコンパニオンのお姉さんと記念撮影したり(こっちが主な目的の輩も多い?)といった催しであります。で、.........そんな中に「コンセプトカー」なるものが展示されてたりするんですよ。つまりその自動車メーカーが「こんな車が将来あったらいいね」とか「これこそが21世紀のクルマです」みたいな意気込みで作った特別なクルマ(考えようによっては実験的な煩悩集結モデル)です。まあ、なかにはハイブリッド・カーのように実際に数年後に量産・市販されるものもあるのですが「夢のクルマ」ということで来場客を楽しませてくれるのです。夢があっていいですねぇ。太陽エネルギーで走るエコロジーなモデルだとか、マッハ555みたいに空を飛ぶクルマ(そりはさすがに出展例が無い)とか、マッハ555みたいに障害物をノコギリでなぎたおしながら走るクルマ(だからそんなの無いってば)とか、マッハ555みたいに海中をスイスイ進航するクルマとか(欲しいけど無いってば)、たしかに興味深いモデルが発表されていたりするわけです。

んじゃば........... 楽器にもコンセプトモデルがあっていいじゃないか..... というわけで、ここにクレーンホームページから堂々と提唱するのであります! 国内外の楽器メーカーのみなさん、世界中の弦楽器製作家のみなさん、実現可能かどうかは別として夢のあるユニークな、21世紀らしい発想のコンセプトモデルを発表しようではありませんか〜〜〜〜っ! パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!......(大歓声).....。

 

で、......... 毎年こういった楽器を発表できたらおもしろいだろうなぁと思っているのです。21世紀コンセプトモデルシリーズと銘打って毎年変な.....おっと、奇想天外な楽器が展示されるのは素敵なコトだと思いませんか? わたしゃ、とっても興味があります。ふだんは時代に逆行して古い時代のギターやマンドリンなどを追いかけていますが、その反面自由な発想で作るあらたな楽器にも興味があります。そうです、思うだけならサルでもできるので(サルにはできないかなぁ?)、今年は実際にアイディアを出して作ってみることにしました。まずは今年の CRANE コンセプトモデルそりは....

 

「21世紀ギター」

 

ありゃまぁ〜〜、ずいぶんハデなネーミングで恥ずかしいですが、どうせ(どうせとはなんだぁ!?)思いつきモデル.....おっと、コンセプトモデルだから夢は大きく果てしなくド〜〜〜〜〜ンと打ち上げてまいりましょう!(^_^)

 


21世紀ギター(2002 CRANE コンセプトモデル)

 

なんだ、たんなる小ぶりなギターじゃないか...... と思ったら Oh! much Guy! (オオマチガイ)

【仕様】
・弦長:455mm
・リゾネータ内蔵:キャリバー25搭載
・糸巻:木ペグ(ペアウッド)
・使用弦:ナイロン(ガット)弦とスチール弦の兼用モデル
・表面板:
・側面板/裏板:ジリコテ
・ネック/ヘッド:マホガニー
・指板:本黒檀
・フレット:ブラス・バーフレット
・ブリッジ:シャムガキ(ちなみにピンは黒檀にMOPドット入り)
・サドル/ナット:スネイクウッド
・塗装:セラック(ボディ)/アクリル塗料(ネック&ヘッド)
・裏板:バー・レス(センターシームのみ)
・ボディ - ネックジョイント:アイスクリームコーン(三角ヒール)の直付け。

 

【何が言いたいのか?】
・小型楽器ならではの音作り。
・21世紀になったらギターは小さくなるかもしれん。なってほしい(20世紀ギターは大っきくてじゃま?)。
・スチール弦とナイロン(ガット)弦のどちらでも張って楽しめるっ!
小さくてもバッチリ鳴らすための機構が付いていればいいなぁ。
・何かの間違いで機械式の糸巻きが衰退し、木ペグが見直されるかもしれん.....(それはないか?)
バーフレットをみなおそう(振動伝達特性や修理)。
・修理やトラブルはできるだけ避けたい。なるべく容易に修理できる構造であってほしい。
・調弦も好きにしよう。でも適切な弦を選ぼう。

 


弦長455mm これくらい小さくなれば楽器の持ち運びや保管もだいぶ楽になるでしょう。ビオラ程度の大きさです。怒劣奴脳吐、おっと、ドレッドノウトと比較して1/3程度の容積でしょうか。いや、もっと小さいでしょうかね? 小柄なギターは古くから多く製作されていて女性向け、お子さま向け、オクターブ楽器、あるいはテルツのようなものがありましたが現代でも合奏用ギターやお子さま向けの小さなギターはありますね。私の周囲の友人からも「小さめのギターを作ってくれないかなぁ」という声を良く耳にします。今回はだいぶ小さく作ったつもりです。
今回モチーフにしたギターはコレです。

 

で、............ ギターの場合は小さいとどうしても鳴りが芳しくない傾向があるので何らかの工夫が欲しいところ..........ホントはボディの厚さをおもいっきり厚く(深く)するつもりでしたが材料の都合で断念。そこでリゾネータの登場です。二重表面板も考えたのですが今回はCRANEオリジナルの「キャリバー25」という機構を搭載してみました。あとから気付いたのですがリゾネータ/共振棒というよりはサスティナーですな、こりゃ。

※ 二重表面板のギターは1800年代初期にはすでに存在してた(それ以前のバロック期にもあったようです)。

 

コンセプトモデルを作ろうと思い立ってすぐに小型化とリゾネータの発想は浮かんだものの具体策に迷い続けまして、当初はボルト&ナット類を使って共振棒のウエイトを可変できるようにしようと思ったのです。低音域の改善が目的です。何のことはない、親族の実家で飼っている猫(名前をミーという)と遊んでいてそのしっぽからヒントを得て作ったというシロモノです。名付けて「ニャンコ・テイル・リゾネータ」従って「キャリバー25(ニャンコ)」だっ!!

表面板の厚さは今回 約2mm で以下のようにバーとブレイスを配置してみました。
え? その効果はどうなんだって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さ、次の話題にまいりましょう....

 

 

 

いえいえ、その効果はちゃんとあるんですよ。問題はきわだって「全然音が変わった!」というのではなく補助的な音色の変化にしっかり貢献しているということです。たとえば残響の程度やコードを弾いたときの反応などです。しかしまぁ、実際に現物を弾いてもらえば納得いただけるでしょう。

 

ボディ - ネックジョイントをアイスクリームコーン(三角ヒール)の直付けにしたのはダヴ・テイルは決してベストなジョイント方法だと私は思わないからです。ジョイント方式と製作・修理時の手間暇についてはず〜〜〜〜〜っと以前から疑問があったわけですよ。製作・修理に携わるみなさん、そう思いませんか?

今回のモデルでは弦のテンションを低めで設定(前提)しておき、アイスクリームコーンの構造でしかもほぞ(ネックとボディの凸凹)を切らずにじかづけすることによって製作時の組み付けやのちの修理も容易になるかと思ったワケです。そうです、私が19世紀ギター製作でよくやる方法です。最近はアコギではボルトジョイントが一部で流行していますが、その製作や修理はどうなんでしょうかね? ボルトジョイントのデ・タッチャブル的発想は面白いのですが製作・修理において依然として厄介な作業を強いられるのでしょうか? それともらくになったのかな?

9フレットジョイントに御注目。マンドリンやリュートで行われてきたような9フレットジョイントによって全長が短くなり、これまたコンパクトのメリット有りかと.....え? ハイポジションで弾きづらいのでは? う〜〜〜〜ん、そんなコト言ってたら改革は実現しませんぞぉ。前例にこだわらずまいりましょう。ここでは迷いもなくあっさり9フレットで継ぎました。ちなみに今回のモデルは意図的に20世紀ギターの要素はほとんど入れていません。19世紀以前のセオリーや21世紀になって考案したアイディアを用いて製作しました。指板と表面板及びフレットの打ち方は古いイタリアン風。ビンディングすらもハーフだったりします....(^_^)

ヘッドはやや大きめに見えるかもしれませんがギターの起源を考慮して18世紀以前のイタリアやスペインのギターのイメージです。糸巻きを機械式にしようとも思いましたがスロッテッドはティプレみたいでこの楽器にはミスマッチなイメージになりそうな気配を覚えたのであえてスロットは掘らないことにしました。糸巻きはよっぽど機械式にしようかと思いましたがどうもしっくりこないのでひとまず木ペグです(しかもハートグリップのリュートなどで用いられるスタイル)。19世紀マーチンにも木ペグモデルがありましたなぁ、そういえば...。

 

今回の裏板と側面板は........ローズウッドでもいいし、ファイバーとかでもいいのですがひとまず今回はジリコテ(2001年にSTYLE-Lを作ったときの材料)を使うことにしました。21世紀になったらハカランダ信仰とはいったんオサラバして他のいろんな材料も考えようというわけです。楽器が小さくなれば木材も節約できるし....今までブックマッチで使っていた木材の半分以下ですむのです。ハカランダ材は今まで楽器材料として重宝され、それなりのメリットもあったわけですが20世紀後期においては過剰な伐採が進み絶滅も危ぶまれ木材の価格も高騰、しまいにはマガイ物まで市場に出回る始末......。そこで、いったん21世紀のあいだだけハカランダは使用を忘れてせっせと植樹して増やしておけば22世紀には二束三文で楽器にもハカランダが使い放題になるってワケさ!......フッフッフッフッフッフッフッ...... え? 今すぐハカランダの楽器が欲しいんだって? まぁ、まぁ、そういわず....。21世紀の科学をもってすれば短期間でぐんぐん繁殖するハカランダ品種が作れるかもしれませんよ。たとえばサトウキビと交配させるとか.............. 象牙についても同様で、ハカランダと同じ原理で「材料を使う前に育てておく」 これ21世紀のポイント! 象さんを品種改良もしくはDNA操作して、キバだけでっかくて頭や体をニワトリなみに小さくすれば鶏舎で象さんをたくさん飼育して象牙もタマゴ並に頻繁に大量にホイホイ採れる! ....... っていう寸法さ。 グッドアイディア!

 

裏板にはバーもライニングもありません。そうです、裏板にはセンター・シームこそありますがバーは1本も使っていません。こうすることで楽器にトラブルが生じたときの裏板オープン作業をなるべく容易にしようというたくらみです。裏板は今回ブックマッチしているので(端材利用のため)シームの接着はやむ終えない措置でしたが、できれば裏板は1ピースのみですませたかったのです。このサイズなら1ピースの裏板は充分可能ですので裏板オープンの修理作業はもっと容易になるでしょう。そして表面板は今回「桐」を使っています。桐のタンスの原理で楽器の木材を虫食いから保護しようというわけです(実際に長期保護の効果があるかどうかは未確認)。裏板については今回は音のことなんか全然考えていないところがのびのび発想なのです。

 

 

フレットはバータイプで真鍮製。T 型断面を持つフレットは修理で指板を引っかけがちになるので今回はバーにしてみました。

作業:はじめに真鍮角材の2辺をヤスリでおおむね丸めておき、指板にルータで幅の広い溝を掘って1本づつ接着。全体をならしてレベル調整したら研磨作業です、サンドペーパーの番手を上げてマイクロメッシュの#6000までひたすら磨きます。

のちの修理についても指板の溝はだいぶ浅めですからスチームをかければフレット交換作業で指板にはほとんどダメージもなく容易に作業できることでしょう(フレット素材の調達が問題かな?)。今回のバーフレットは1.5mm 幅のやや幅の広いブラスです、19世紀のマーチンでもよく使われていたサイズ。

 

 

スチール弦とナイロン(ガット)弦のどちらでも張って楽しめるといいなぁ。調弦だって自由でいいとおもふ。

当初はテルツのG調弦でいこうかと思ったのですが汎用性を重視して好きに張ればいいということで決定!(をひをひ) テルツギターとして弾いてもよし、Aで調弦してウクレレのごとく弾くもヨシ。そのかわり弦の選び方については慎重になるべきで、21世紀こそはぜひ、世間の皆様のスキルアップといいますか弦楽器系インフラとして弦の選び方を広めてはどうかと思うのです。もちろんギターを弾く人全員が知らなくていいのです、楽器店の店員さんやギター教室の先生たちや演奏家のみなさんにはぜひとも弦選びについて注目してほしいなぁ...。どんな弦長でも、どんな弦素材でも、どんなテンションでも、弦計算尺などを使って楽器への影響をみながら弦を自在に選べるようになればもっと弦楽器への理解が深まり、楽器の能力を最大限に引き出せるかと思います。そうすればいろんなスタイル(弦長・弦の種類など)のバラエティ豊かな弦楽器がたくさん作られ、21世紀独自の世界が展開していくかもしれません....。

 


ま、......... 21世紀中にこういった鶴田の勝手なコンセプトのギターが普及するかどうかはわかりませんが一つぐらい当たるといいなぁ、と思っています...........。21世紀と22世紀以降のギターはどうなっているんでしょうね? 私は興味津々です...。

 

 

 

・Special Thanks : ミーちゃん

 


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