BaroqueGuitar (sellas style)
LastUpdateMonday, 29-Dec-2014 04:22:23 JST 
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Made by Makoto Tsuruta in 2004.



 

CRANE バロックギター(セラス・スタイル)

さて....... 2004年の製作楽器を御紹介しましょう。2004年はまずヒョウタン・ウクレレを完成させ、続いて1本の19世紀ギターと2本のバロックギターを完成させます。1本はイタリアン(セラス・スタイル)、そしてもう1本はフレンチのヒストリカルコピーモデル。まずはイタリアンから御案内........... 。

 

 

前編

 

じつはこのバロックギターは2003年6月頃から製作を続けていたもので、今年になってその続きを作って完成させるわけです。この楽器はモールドを起こしてボディまでは2003年の作業なのです。はい、さっそくまいりましょう。まずはそのモールドを御覧あれ。ガッチリできてます..... 。

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去年の21世紀ギター(シターン)は黒檀を使ったものでしたが、じつはこのバロックギターも黒檀です、しかも縞黒檀ではなくマグロです。曲げるのがたいへんだと思うでしょう?

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ハイ、曲がりましたぁ〜〜!

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近年、私は黒檀素材に夢中でありまして、なんでもかんでも黒檀で作るのではないかという勢いです。御存知のとおり黒檀は硬くて重い(水に沈む)木材ですが、性質がわかってくると案外扱いやすい材料だと感じています。ただ、楽器に使うとなるとメイプルのようなオールラウンドな性質ではないので限られた分野(弦楽器)への使用となります。比重が大きいので薄く加工しますが弦楽器では鐘のような鳴り方をすることが多いようです。バロックギターではキングウッドのような材料が黒檀と間違われることもあるのですが、現実にマグロを使ったバロックギターも多く残っています。リブは..... あ、.... 話が逸れていきそうな気配なので製作の説明に戻りましょう......

 

 

ボディやネックの部品を作る合間をみて作業するのがアラベスク製作。そう! ブリッジの両脇にある装飾のコトね。マウスターシェと呼ぶには複雑豪華なのでここでは唐草模様(arabesque)と呼ぶことにしておきましょう。 ワタクシ、この作業が好きでバロックギターを作る大きな楽しみのひとつです。ブリッジ脇の装飾は19世紀ギターにもありますがナポリやスペインの一部のギターを除き、簡略化されたものがほとんどですね。今回の装飾..... 見覚えがあるでしょ? じつは今回の楽器は許可を得て竹内太郎さん所有のピリオドのマテオ・セラスをモチーフにしています。興味のある方はぜひ竹内さんのサイトを御覧ください(http://www.crane.gr.jp/~tarolute)。いくらなんでもあの楽器の忠実なコピーはてこずりそうなので今回は練習といいますか、試しにスタイルだけ模して作ってみようというわけです。ですから象牙装飾はカンベンしてください(笑)。

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黒檀薄板を4枚重ねて切り抜いたので2組のアラベスクが同時に完成することになります。こんなカンジ....... (次の写真を御覧あれ)。「バロックギターの装飾を限界まで省いていくと最後に残るのがアラベスクとロゼッタ」これが私の持論です。ですから一部のバロックギター(博物館や現代の製作家による楽器)にアラベスクの無い楽器が見られますが、私にいわせると本来付いているべきであって、それらは特例や紛失した楽器だと考えています。ロゼッタも18世紀には備えていないバロックギターを見かけますが、やはり最低限アラベスクとロゼッタの両方が付いているのが本来の正しい「バロックギター」だと私は考えています。

 

 

 

 

ボディも同時進行して製作しますが、黒檀の幅広い板材は入手も容易ではなく、価格も高いのです。黒檀薄板はサイズによってはハカランダよりはるかに高いこともあります。当時のギターも裏板や側面には複数のリブを接ぎ合わせて作ったものが多く見られます(黒檀に限らずですが)。リブを接いだほうが材料を有効利用できるんですよね、たしかに。

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表面板が課題なんです。オリジナルのセラスはおそらくイタリアン・スプルースに見えますが、上質なもので、同じ木材は容易に入手できません(イタリア産ならなんでもいいというワケではない)。硬さや伝搬速度の優位性がよく話題に挙がるイタリアン・スプルースですが、他の松系の板材であれば表面板の厚さを変えて作らねばなりません。このへんの理由は鶴田のポリシーですので今まで他のコーナーに幾度も書いてきましたからサイト内を探索のうえ御覧ください。

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今回は装飾を省いてシンプルな仕様でまいりましょう。ロゼッタに象牙のインレイもいんれいません...... (ぐ、ぐるじい)。

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というわけで前編はひとまずここまで。

後編も御期待あれ......  ん? また「中編」やるんじゃないかって?

 

 


中編

 

というわけで堂々と「中編」いってみましょう。ネック&ヘッドはボディとお揃いの黒檀仕様です。積層した黒檀と象牙(というわけにいかないのでメイプル)を糸鋸盤でカットします。前もってイラストレータでヘッドのトレースと形状確認を行いプリントアウトしたものを糊で貼って使います。ペグ穴の位置が問題で、オリジナルの現物楽器を目前に置いて作れば比較的作業がしやすいのですが、今回は試作的なものなので写真と記憶をたよりに資料を読みつつ形状を決めて作業を進めていきます。

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ん? なにか脇に置いてあるって? ヘッドの端材で作った「ハート」です(^_^)
このあとセラックで塗装して研磨し、仕上げました。製作のあいまにこうやって遊んでます。どうです? 遊びとはいえキッチリ作ってあるでしょ?(笑)

 

ネックはバスウッドに黒檀の突き板(黒檀マグロの薄板)を巻いて作ります。角材をスポークプレーンで削って成形しつつネックの幅を決めます。ネック幅はイタリアンの場合 私は42mm前後を基準に考えて作ります。いくつかの図面では広いもので45mm幅のものもあります。最近のコピー楽器のなかにはネック幅をモダンなクラシックギター並の広い幅で作ってあるものもみかけますが、本来は5コースのネックの幅は40mmもあれば充分なのです。

時代も地域も違いますがフレット楽器の世界において、ネック幅についてはジェラのマンドリンがよく話題にのぼります。現代のマンドリンよりもはるかに狭いのにちゃんと4コース(組)8本の弦が張ってあり、多くの奏者は弾きづらいといいます。が、....... ナポリの18世紀以前の4コースマンドリンはジェラよりもさらに狭いネック幅で4コース8本なのです(約22mm前後、つまり現代のマンドリンの2/3程度)。古楽器を作る場合、ややもすると現代人の把握する身近な楽器を基準に勝手に寸法を決めて弾きやすく作ってしまい、あとから都合良く解釈を付けてしまう例も世間にはありますが、本来なら当時の寸法感覚に頭を切り換えなければならないわけです。
 まぁ、こうやって文章に書くとカンタンそうですが実際に形にしていく過程で、そういった当時の製作家の感覚を探求維持しながら作るのは容易なことではありません。

 

さて、黒檀の薄板がうまく巻けたら、ヘッドとネックをニカワで接着し、続いて指板を貼ります。指板もマグロ(黒檀)です。黒檀材は高価なのでまとめ買いするのは経済的にも負担なのですが、私のストックしている黒檀材のなかには幸運なことに霜降りの綺麗な柾目のものがいくつか含まれています。このセラススタイルのバロックギターは2003年当初はステューデント・モデルとして製作を考えていましたが、製作を続けているうちにいつのまにかのめり込んでしまい、結果的には手間も材料もふだんより入れ込んでいます..... (製作がノってくるんですね、不思議なことに)。黒檀材を頻繁に使うようになって、意外なことに曲げや切削・接着・塗装といった作業が緻密に進められるといいますか自分の思ったように加工できることに喜びを見いだしたといった感じでしょうか.... 黒檀いじりは楽しいです。むしろ横板などは杢の出たメイプルのほうが曲げにくく、扱いにくいと感じるほどです....。

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ヒールのパーツも黒檀板を巻いて作ります。細い先端部分は巻きづらいのですが、うまくいきました。あれこれ工夫しつつ、試行錯誤しながら巻きます。資料や現存する同時代のイタリアのギターを見るとヒールの形状は両側面にフラットなパネルを持つのが本来のスタイルですが、ここでは丸く覆うシンプルな形状です。

 

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表面板にヴェラムの立体ロゼッタと装着します。そしてボディやネックなどと合体してだんだん大きくなり、私の狭い工房では作業しづらくなっていきます。19世紀ギターより多少長い程度の楽器ですが微妙に工作台からはみ出します (^_^)

 

 

接着が終わったらボディ周囲を整えて、次はビンディングの作業。例によってハーフビンディングですのでパーフリングカッタとデザインナイフ、ノミなどを使って作業します。溝が彫れたら黒檀薄板から細い棒材を切り出してパーフリング材とし、ベンディングアイロンで曲げて表面板に接着します。フラッシュボード部分は角度のついた接合にきをつけてピッタリに合わせます。

 

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というわけでビンディングもまとまり、ギターらしくなってきました。この楽器は坦々と作るのですが順調に組立作業が進むので不思議です。ネックのジョイントも理想的な角度でビシッ!と決まっています。指板とネックジョイントとボディバランスがちゃんととれていればこれだけ長い弦長であっても完成後に限りなく弦高を下げてもビビらないんです。

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はい、これがうしろ姿。まだピンも付いていなくて塗装もしておらず、ホワイトヴァイオリンならぬ..... ん? 黒いホワイトギター状態です。

 

 


 後編

 

さぁ、ようやくこの楽器の解説の最終回です。まずはブリッジ........... 大きな黒檀板から切りだして成形していきます。小さなパーツにカンナをかけるには、そう! 両面テープ。優れたクランプ(固定具)として機能を発揮まします。今となっては欠かせないアイテムです。

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高域指板にフレットを装着します。すでにガットフレットを巻いて弦を張り、弦高を見ながらの作業です。バロックギターでは通常12フレットまであれば充分なので、ここでは12フレットまで黒檀のバーをニカワで接着します。ニカワはのちの調整や交換作業が楽に行えるので重宝します。タイトボンドでもスチームをかければ充分交換作業できますけど....
やや高め(厚め)の黒檀棒材を接着し、あとは実際に弾きながらノミで高さを落としていきます。この楽器はネックの仕込みがうまくいったので限りなく弦高を下げられます。12フレット位置で1.8mm の弦高でもまだ余裕がありますが、右手が弾きにくいので最終的にはブリッジを調整してもう少し弦高は上げてあります。ちなみにこの作業はテスト用のナイロン弦を張ってテンションと同時に調整していますが最後は総ガット(羊腸)弦に交換します。

 

 

ブリッジを表面板にニカワで接着し(ここは絶対にタイトボンドは使いません)、両端にアラベスクを接着します。これもニカワを用います。ブリッジとは濃度を変えたニカワですが、やはりタイトボンドよりもうまく仕上がり、耐久性も格段に優れています。

 

 

ペグを作り、テーパを合わせたのち穴を空けて弦を張り、長さを調整したのちいったんヘッドから取り外して染めの作業です。コンポジットで摩擦調整しますが木材の痩せと初期摩耗を考慮してやや長めに設定しておきます。使用する弦のテンションによっても押し込み長が変わってくるのです。イタリアンのバロックギターや19世紀ギターには素材や形状、仕上げにフレンチとは異なる特徴があります。ちなみにナットは象牙です。

 

 

この写真はブリッジの穴の調整前の写真です。前もってブリッジの穴にはテーパを付けて削らねばなりません。そうしないと組立が終わった段階で削って弦高調整するのが難しくなります。まぁ、6単弦ギターと比較してバロックギターは1本あたりのテンションが低いので結び目をグイッと引っ張れば弦高は容易に調整できますが比較的強めのテンションで鳴らす場合もあるので、ある程度は穴を削っての調整が必要です。

 

 

細部の調整を終えたらいよいよ塗装です。この楽器はオイル仕上げです。ブレンドしたオイルを使うこともありますが製作家によって独自のレシピを持っていることが一般的でしょう。このへんのノウハウは試行錯誤で当事者のみが知っていればいいのです。文献や他の製作家の意見に頼ることも一案ですが、最後は自分で納得のいく仕上げの手法を見つけることですね。

 

 

 

あぁ...... 長かった。 完成です。
完成の祝杯は夜中(早朝)に独り工房で飲むベルギーのヒューガルデン。もう当サイトを御覧の皆様にはおなじみ。
あぁ、夜が明ける....... 。

このページではこまかい作業の解説は省略しています。実際にはおびただしい時間を費やしています。私の加入している「のみのみML」というメーリングリストの仲間によると、アコースティックギター1本と売却価格を計算すると、おおむね時給300円になってしまうとのことです。私のこのギター、たぶん時給だと200円を切るかもしれません(笑)。もうけるために作っているのではありませんが木材や塗料や資料代は製作・研究を続けるためには不可欠です......。 ちなみに2005年2月の東京・府中の展示会(ハンドクラフトギターフェス)でお披露目したあとに売却するかもしれません。

 


【完成写真】

楽器が完成したら寸法を確認してケースを特注せねばなりません。このケースも特注で、最軽量から一ランク重い仕様で製作してもらいました。耐久性と断熱性の増強のためです。といっても楽器とケースを合わせた重さはモダンギターと比べれば半分ぐらいでしょう。

指板高域の焼き印はバロックギターやリュートで見かけますが、これは20世紀以降の製作家の習慣です。本来は12フレット位置の焼印は当時の一般的な習慣ではありません(表面板の最下部ブロックあたりに製作家名を焼印することはありました)。今回、個人的な事情でCRANEの工房焼印を入れてあります。

写真1

写真2

写真3

写真4

写真5

 

 

【主な仕様】

●17世紀イタリアのセラス・スタイル・バロックギター

表面板:ヨーロピアンスプルース
側面板&裏板:本黒檀(1.0mm厚)
調弦:e',h,g,d,d',A,a'(A=392Hzにおいて)
弦長:680mm
ネック&ヒール:0.5mm厚の黒檀薄板巻き(突き板)
ブリッジ:黒檀
指板:黒檀
ナット:象牙
ハーフビンディング:黒檀
ロゼッタ:イタリアン・ヴェラムによるセラスの復元品
アラベスク:黒檀薄板による透かし彫り加工
フレットガット(羊腸):f1 to f2 : 0.80mm, f3 to f4 : 0.70mm, f5 : 0.65mm, f6 to f9 : 0.60mm,
使用弦:キルシュナー社 ガット(羊腸)弦。ルクスライン混合。

 

 

 


by Makoto Tsuruta, TOKYO JAPAN.

 

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