CRANEオリジナル・コンセプトモデル:「Concept-7」シリーズ
(My original concept model : Not historical. )
● コンセプト
金属フレットではなくガットフレットのモダンな6単弦ギター(5コースでも6コースでもない)。
ボディのシェイプを含めて、今回参考にしたのが18世紀末のフランスのランベールの6単弦ギターです。フォルムはバロックギターで、フレットガットが使われています。Concept-7(C7)は弦の種類や張力、弦高などが変わってもフレッチングをそれに合わせることで正確な音程と綺麗に響く和音を実現しようと目指したものです。古典調律にも対応。また、C7シリーズでは様々なブレイシングも試みています。今回掲載するのはC7aとC7cですが、C7bやC7dも製作中ですのでいずれ完成したら公開する予定です。兄弟楽器なので外見はよく似ていますが材料や構造は大きく異なります。
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仕様
・弦長:630mm, 632mm, 610mm〜(モデルによって異なる)
・ブレイシング:CRANEオリジナルブレイシング(モデルによって異なる)
・ボディ:メイプル単板 ランベールモチーフのオリジナルデザインシェイプ(但しビンディングレス、ライニングレス)
・ネック・ヘッド・ヒール:バスウッド黒染+黒檀ヘッドプレート フランス18世紀スタイル
・指板:本黒檀
・フレット:羊腸
・ブリッジ:モデルによっては二段の弦穴(弦高調整用)
・ペグ:フリクション式
・使用弦:ガット弦(羊腸)
・サイン:内部にはヒストリカルモデルではなくコンセプトモデルである旨を明記。
● フレットガット
金属フレットではなくガットフレットの6単弦ギターというのが、このシリーズの重要なコンセプトです。耐久性を考えるとナイロンでもよいのですが、あえて羊腸を使っています。私の作る楽器やカポタストは可能な限り天然素材を使うように心がけています(一部例外も有りますが)。昔と比べて、近年ではインターネットのおかげもあり、羊腸弦やフレットガットはだいぶ身近になりました。当CRANEでも季節ごとに弦の共同購入で募集しています。
このC7シリーズの楽器は材の特質や重量バランスを慎重に吟味しています(製作の工程ごとに重さを量って比較)。とくにネックとヘッドとヒールはリンデン(バスウッド)のムク材を黒染で使っており、軽量化を図っています。そのため黒檀などのツキ板を貼っておらず、ガットフレットを巻くと痕が残りますが、これは仕様です。19世紀以前のガットフレットのギターにも時折見られますが、柔らかい材ではやむおえないことです。様々な試みが盛り込んであるのもコンセプトモデルの所以です。
● フレットポジション
私の作ったフレット位置計算プログラム「TSULTRA フレット」を使っておおまかなフレット位置を算出します。実際には弾きながら位置調整をします。それがConcept-7a,7cの一番のウリですから。 自分の納得のいくまでコードやメロディを弾き、調(キー)の違う曲なども弾き比べ、響きの好みでフレットの太さや位置を決めて楽しむのです。なお、使用する弦の素材の違い(ナイロン、フロロカーボン、羊腸...)によってフレット位置は異なりますし、ナットの高さ、ガットフレットの太さ、ブリッジの弦留め位置による弦高、弦を抑える左指の強さ、などによってもフレット位置は変わってきます。考えてみたら、音程と和音にこんなに影響する要素がたくさんあるのに、固定フレットで済むわけがないのです...... というのがそもそもの発端。
● 長所と短所
【長所】
・自分の納得のいくまで音程や響きを調整できる。
・12平均律以外の古典調律(ミントーンとか)が試せる。
・展示会で気付いたのですが、視覚障害者の方にもフレットポジションがわかりやすいと好評でした。
【短所】
・演奏中にフレットがずれることがある(弾き方にもよる)。
・メンテナンスが必要:ガットの摩耗による交換などが必要ですが、考えてみたら金属フレットであってもメンテナンスフリーではありませんね。
・フレット交換のスキルが必要:器用な人もいればそうでない人ももちろんいます。日頃から楽器のメンテナンスを自分でやる人に向いています。慣れればどうということもないのですが..... 。
● 製作工程
Concept-7はいくつかのブレイシング・パターンを試してみたいという計画が当初からありました(2002年のLadies Guitarの頃から構想を練ってきたのです)。あわせて心地良い「サイズ」はどうあるべきなのか? 小さくても美しいシェイプでありたい。これもまた大きな関心事なのです。私の場合は小型楽器が好きで、どうしても小振りになる傾向があります。シリーズはおおむね同じ構造で似たような材料を使っていますので、以下に掲載する製作工程はC7シリーズの代表的なものとお考えください。
・工程1
ボディの材は2ピースでセンターに黒檀のスペーサが入ります。C7cは虎杢のカーリーメイプルですが、C7aとC7bの裏板は硬さの異なるメイプルを半分づつ入れ替えてあります。よく見ると赤みをおびたメイプルと黄色っぽいメイプルで裏板はできています。
・工程2
他の楽器の製作記事と似たような進行ですが、組み立て順などは今回もまちまちです。表面板には今回初の試みとして、ホウ砂の水溶液を浸透させてあります。ふぅ〜〜〜ん、だから音がいいのかぁ(笑)。
・工程3
じつはこのシリーズではロゼッタも無くしてしまおうかと思ったのですが、パーフリングと違ってコレが無いとやはり寂しい。そこで新たな試みとしてドーナツのパーツ化です。大和マークさんに特別注文してワッカの切れていないロゼッタを作ってもらいました(過去に作ったことがなくてたいへんだったらしい)。これで合理化できると思ったらオオマチガイ。ピッタリにルーターで溝を加工して、なおかつ模様面を固着させる(リングモザイクは接着してないので)工夫が必要です。ニカワを駆使してどうにか収束。
・工程4
裏板のバーはどれも似たようなものですが、表面板は様々なものを考案し、試みています。結果としては弾く人の好みが明確に分かれるほど、それぞれに個性が与えられることになりました。おおむね狙いどおりの音になっています。
・工程5
ネックはバスウッド(リンデン)のムクです。環境変化で動かないように1本の板材をあえて中央から半分に切り、方向をひっくりかえして反りが打ち消し合うようにしてから再接着しています。
・工程6
ネックとヘッドはVジョイント。ヘッドの角度はやや浅めに設定。
・工程7
ヒストリカルモデルと同様、基本的に接着剤はニカワです。一度冷めてしまうとまた温めなければならないのでタイトボンドと違って面倒なのですが、修理しやすいことと、引き締め効果をもつニカワはどうしても私の楽器には欠かせません。
・工程8
接着時に少しだけボディ全体にテンションをかけています。
・工程9
よく見るとテールの飾りの三角プレートも同じではありません。今回は珍しく3台を同時に作っています。そうしたほうがお互いに均等な工作となり、また、変えるべき部位を明確にしながら作業できるからです。
・工程10
写真だけ見ているとフルサイズの楽器に見えます。ボディ内部のライニングも外観のビンディングもパーフリングもありません。
・工程11
ネックとヒール部分の工作の様子。いつもと異なる構造にしたので、今回はネックの前後左右の角度を決めるのが非常に難しかったです。
・工程12
完成するとだいぶ軽量の楽器になることを見込んでいます。そのため強度を出しつつ、重量バランスも微妙に調整しながら製作は進行します。
・工程13
説明の写真が前後していますが、これは指板を接着する工程。重量調整のため、ヘッドもサイズやヘッドプレートの材質・厚みなど、モデルによってあえて変えてあります。
・工程14
塗装は今回はパミスとオイルとセラックを使ったフレンチポリッシュ。何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も塗ります。ヘッドは側面をマットに、前後面をややツヤのある仕上げに。ネックとヒールはテカらない程度のシブイ艶で仕上げます。
・工程15
ブリッジの材はペアウッドやハカランダなど、モデルによって多少変えてあります。これも重さを違えるためです。
・工程16
C7aのブリッジは軽量なペアウッドですが、弦穴は2段にしました。過去のリュートやバロックギターの修理の経験から弦高の調整機構を付けたかったのです。たんに2段に穴を空けただけでなく穴の角度も工夫しています。まぁ、弦の張力が非常識でない限り、弦のかがり目を引っ張ることで弦高は調整できますけど... 。
・工程17
ブリッジ両脇のアラベスク(というよりマウスターシェか)も当初は省略しようと思いましたが、ボディのフォルムを考えると、これが無ければ物足りなくて落ち着かないので付けることにしました。
・工程18
調整にはかなり時間がかかります。とくにフレットガット(羊腸)弦の直径は弦高や張力などとフクザツに関係しているので選択肢が多大。展示会ではタッチの強めの奏者もあって、部分的にビリつきやすい箇所もあったので、展示会終了後に再調整。塗装も展示会が終わってから最終仕上げですな。ふぅ.......
by Makoto Tsuruta, TOKYO JAPAN.
記事:2010年5月23日
※ Concept-7cは2011年3月に発生した東北関東大震災の義援金のために2011年8月にオークションに出品。