Concept-6 (Neo Modern Gutiar : Avalanche)
LastUpdateMonday, 29-Dec-2014 04:21:20 JST 
(C) 2008 Makoto Tsuruta /
CRANE Home Page


- My original concept model -
Made by Makoto Tsuruta in 2008.



【写真】

PIC 001 : 全22フレット 無垢黒檀のシンプルなソリッドロゼッタ、高音域フレットはセミフロート方式
PIC 002 : ネック、ヘッド、ヒールはセドロ。ヒールのキャップは象牙
PIC 003 : 表面板はアルペンスプルース、ボディは無垢の黒檀薄板、側面板底部のスペーサ2本は象牙
PIC 004 : 塗装はオイル仕上げで半光沢の梨地フィニッシュ。ハーフビンディング。
PIC 005 : ブリッジは黒檀化粧板の付いたハカランダ(ブラジリアンローズウッド)、サドルは牛骨
PIC 006 : 極深のボディ。最大12cmを超える。3ピースの黒檀裏板にはスネークウッドのスペーサ



 

CRANE コンセプトモデル2008
 (2008年5月完成)

昔の楽器のコピー/レプリカではなく、私の考案したオリジナルモデル。それが「CRANE Concept Model」であります。 シリーズもいよいよ6作目。今までの Concept 1 〜 Concept 5 の小型楽器から一転して、今回はデッカイギター。しかもモダンギターであります。よくぞまぁ、恥ずかしげもなくこんなデカイギターを作ったもんだと自分でも呆れていますが、今回もいろんな実験ができて満足しています。ただ、音はいまひとつで納得いかないところもあるので、今後この楽器をさらに改良/改造してみようと考えているところです。



どうしてモダンギター?

今さらどうして? といわれても返事に困るのですが、ワタクシ、モダンギターを持ってません。修理でたまに工房に預かることはありますが、個人的なコレクションとか、弾いて楽しむ楽器は1本もありません。あえていえばホセ・ラミレス1世の1909年製作のギターぐらいでしょうか(図面配布コーナー参照)。それもモダンと呼ぶにはかなり方向の違うもので弦長613mm、833gという小型かつ薄型の楽器です。シープレスでゴルペ板も付いてるしねぇ.... 。
だったらお店に行ってモダンギターを買えばいいじゃないの? あ、そうね。
じゃ、何にしましょ? ..... う〜〜〜ん ......
 う〜〜〜ん ......
 う〜〜〜ん ......
 う〜〜〜ん ......
 う〜〜〜ん ......
 う〜〜〜ん ......

CRANE Concept-6!


そんなもの売ってません(笑)。
ようするに、欲しいモダンギターが思いあたらず......やっぱり自分で作ろうということですな。
どうせなら、今までモダンギターに対してあれこれ抱いていた疑問やアイディアを、今こそふんだんに盛り込んで自由奔放な仕様で自ら作ろうではありませんか。モダンギター製作の世界で常識とされていることもあえて無視して自分の解釈で作る。失敗を恐れず、はりきってまいりましょう。失敗したらいつでも作り直せばいいのです。そうすればまた修理・修復の腕も上がろうというものです(笑)。


モデル名:アバランシェ[Avalanche]
(1) [[名]] <<【複】avalanches (―iz)>> なだれ
(2) 手紙・注文・客などの殺到 <an avalanche of mail (tourists),‖郵便物(観光客)の殺到

ポルシェのゲンバラみたいで速そうですね。発音のアバランシェは英語とかフランス語の読み方ですが、ドイツ語ではアバランチでしょうか。おいしそうです。




 

仕様

基本的に天然素材のみでプラスチックやセルロイド類、アクリル塗料などは使っていません。これはCRANE工房の全楽器の基本ですな。


弦長:646mm
表面板:アルペンスプルース
裏板:本黒檀(マグロ)+ スネークウッド・スペーサ
側面板:黒檀 + 象牙・スペーサ
塗装:オイル仕上げ
ヘッド:セドロ、表はローズウッドツキ板(黒染め)
ネックジョイント:セドロ、スペイン式傾斜反転継ぎ
フレット:T型フレット( 全22フレット)
指板:黒檀
ロゼッタ:黒檀ドーナツ板状
ブリッジ:ハカランダ 黒檀化粧板
ビンディング:黒檀のハーフビンディング
糸巻き:機械式ウェイバリー黒檀ボタン
ナット:象牙 約51.5mm 1〜6弦幅:42mm
サドル:牛骨 1〜6弦幅:57mm
ヒールキャップ:象牙
全長:約987 mm
弦高/12フレット位置:1弦3.0mm 6弦3.7mm
重量:1491g(弦含む)


まず、ボディは厚さを1.0mm程度まで調整した無垢の黒檀です(ベニアではありません)。そもそも黒檀はモダンギターには向いていないというのがギター界の地球規模の定説です。バロック時代の5コースギターではよく使われましたがサイズもコンセプトも違います。黒檀を使うと硬いソリッドな音になる傾向があります。しかし、今回はあえて使ってみたいのです。黒檀の側面板は幅が12cmを超えるともなれば曲げるのがたいへんでしょうって? いえいえ、もう慣れました。金属板をあてがうこともなく平然とフツ〜に坦々と曲げていきますよ。もっと幅の広い厚くて割れやすい材を何度も曲げたことがありますからね。問題はブロックが3個であるという点です。側面板は左右に加えて底部の3枚なのでお尻の両脇に継ぎ目が2つできます。ここを自然でシームレスな曲面に(象牙スペーサが入るけど)曲げるのは至難の業です。なぜブロックが一般的な上下2個じゃなくて3個になったのかって? そりゃぁ〜、そこが天才製作家のヒラメキってヤツさ! 決して材の長さが足りなかったわけじゃないぞ(汗)。


側面板が黒檀ならト〜ゼン裏板も黒檀さっ! 一枚板で裏板をなすような、そんな広い黒檀材は入手困難。そうなればブックマッチか、3ピース、もしくはマルチピース構造にせざる得ないのです。今回は3ピースにしてスネークウッド・スペーサで接続しています。なぜそうしたのかって? そりゃぁ〜、そこが天才製作家のヒラメキってヤツさ。決して材の幅が足りなかったわけじゃないぞ。(再汗)。



上の写真の黄色のテープには「注意、持つな、ワレるぞ!!」と書いてあります。厚さ1mmで硬い黒檀なので、雑に扱うと簡単に割れます。御覧のように力木は阿弥陀バーになっていて平行ではありません。さすが天才製作家のやることは違う! 決して気まぐれなんかじゃないんだぞ(激汗)。

そうなれば表面板もフツーに作れなくなってくるわけで、ありがちなブレイシングパターンなんぞ、寸分たりとも模倣するわけにはいきません。模倣したと思われること自体が許されません。それならというわけで、雨滴のごとく、河川の流れのごとく、♪あぁ〜〜、かわの、流れのぉ〜、よぉ〜〜にぃ〜..... 深夜3時に美空ひばり風に工房で歌いながら考案したのがコレだ。さすが天才製作家のやることは違う。


ちなみに表面板はブレイスの1本づつを曲げねばならず非常に面倒。高さも上が高くて下が低いように傾斜をつけて削っておきます。ロゼッタは以下の写真のように1枚の黒檀板をドーナツ状に切り抜いて、それをあらかじめ彫っておいたロゼッタ溝にハメコミます。単純そうに見えるでしょ? でも難しくてピッタリ合わせるのに四苦八苦。手順を変えればもっとらくにできたのですが、とにかく一段落。



ネックはセドロを使います。黒檀の補強が入っていますが、あとでネックを染めて塗装するので、よっぽど注意深く見ないと気付いてもらえません。ヘッドは木ペグにしようと思ったのですが、モダンということで機械式の糸巻きを装着することにしました。弦のテンションも高くするつもりはないし、ヘッドも重たくなるので好みではないのですが、今回は機械式でいきます。ボディ、裏板、表面板、ネックが一式揃えばあとはそれらの合体です。表面板と側面板の接着された状態がこれ。




この写真は、箱にしてボディ形状に裏板を整えている行程です。後ろに塗装を終えて乾燥を待つベネディットが見えます。もう一本のベネディットはヘッドをよく見るとテープで短縮カットの準備が進められているようです。6単弦でも作るのでしょうか..... 。

細かい製作過程は冗長。なので今回は抜粋ですがフレットについては少し紹介しましょう。このギターはモダンなりにT型のフレットを装着します。でもハンマーで打ち込んだり、治具で押し込んだりしません。ルーターで溝をゆるくなるまで拡張して「接着」するんです。のちのメンテナンスのことを考えてフレットを外しやすくしてみました。しかし、指板の表面はわずかにラウンドしているのでフレットベンダーを使ったり、1本づつ押さえたりで接着の作業はよっぽど時間がかかって面倒なことにあとで気付いたりして..... 。スペインではフレットの打ち込みにニカワを併用することもあります。


13フレット以上では指板が表面板から浮きます。といってもスプルースと黒檀の薄板が敷かれる構造です。ちょうどフレットの位置に黒檀帯が来るようにまえもって工作しておきます。浮かしたいんだけどフレット部分は密着させたい、これがCRANEのセミフロート指板という概念なのさ。やっぱ、天才製作家のやることは違う。これで音が良くなるとも思えないが......。



表面板から指板が持ち上がっているので当然ながら弦高は高くなります。そこでブリッジのサドルは高めに設定します。展示会では右手の爪が長いヒトもいることを想定してさらに高めにしておきました(もちろん展示会が終わったら少し下げます)。サドルだけでなくナットもプチ工夫。スカロップさせた形状は近年の製作家のいくつかで見られますが、果たして効果がどれほどあるのか? これも実験です。






【使用弦について】
Concept-6 2008年 弦長646mm A=440Hz 総テンション 36.2kg 平均 6kg

1弦(e1):ナイロン銀鱗14号 0.62mm  6.0kg やや強い
2弦(h):ナイロン銀鱗24号 0.81mm 5.8kg やや弱い
3弦(g):シーガーPVF 24号0.81mm 6.0kg
4弦(d):巻弦 ProArte LightTension J4304 約6.7kg
5弦(A):巻弦 ProArte LightTension J4305 約5.7kg
6弦(E):巻弦 ProArte LightTension J4306 約6kg 弱いが音量は充分


全体的に低めの張力です。張りの強いギターは手が痛いので嫌いです。





音はどうよ?
それで、完成して弾いてみたら音はどうだったか?
さんざんアイディアを凝らして手間をかけた楽器ですが、サスティーン(音の持続性)がやたら長く、音色は思ったよりクセが無くて、むしろおとなしいです。音量は低音域は充分ですが中・高音域ではいまひとつ? もう少しレスポンスも俊敏でありたいところ。音の分離はやはりモダン的で、これも中音域が充実すればもっと良くなりそうです。
黒檀のボディはちょっと深すぎて重いのかなぁ.... 手元の板材をギリギリまで使ってみようと思ったんです。そしたらすごく厚いボディになって、まぁ、あとから切って作り直せばいいや、と思ってました。広い材を狭くすることは簡単ですが、その逆は難しいですからね。あと、音色に関しての心当たりとしては、指板の選択を迷ったところで、軽いローズウッドにするべきか重厚な黒檀にするべきか..... やはりローズウッドのほうがバランスが良かったのかもなぁ..... 。東京の展示会(THGF2008 錦糸町)ではこの楽器を気に入ってくれたお客さんもいらしたのですが、会場の雑踏/雑音にも負けない音量が欲しいと感じました。弾きやすさに関しては好みの個人差がありますが、ネックのシェイプはもう少し削り込んでもいいかもしれません。

苦労したから良い音が出るとか、工夫したから、高い材料を使ったから、気合い入れて作ったから、良い楽器になるかというと必ずしもそんなことはありません。昔ながらの構造のギターにはちゃんと理由があるのですからね。先人たちの経験や試行錯誤が現代のフツ〜のギターの構造を創ったことを考えれば、今さら独自のアイディアや工夫を凝らす必要も無いように思いま..............


............ せんよ、私は(笑)。ジタバタして、うんと工夫して、変な仕組みでもっと良い音になりはせんかと、何度でも試みるつもりです(←いつもながらワガママでしぶとい)。そういえば10数年前にはキットを含めて何本かのモダンギターを作ったことを思い出しました。当時の記事はすでに当サーバから削除しましたが、当時はニカワの使い方もよくわからず、工作も初心者でテキトー、修理経験もほとんど無く、文献も資料もインターネットも頼れない時代、思えば懐かしくもあります。でも挑戦的な試みの姿勢は変わっておらず、むしろ旺盛になっていると自負しています。老いてますます盛んですな(何が?)。実験的な新しい試みは多くの場合はうまくいかないことも知っています。しかし、それでも自分の手と耳で確認できるというのはじつに面白いものです。手作り楽器の醍醐味ですね。

どれ、そんなわけでこの楽器、無駄な抵抗と思われつつも、今後、気になるところをいじり倒して改良/改造を試みます。次の展示会(2009年5月のTHGF)では、また違った Concept-6 が登場することになるでしょう。
あまりにも変わり果てて Concept-7 になったりして......。
道は遠い。



by Makoto Tsuruta, TOKYO JAPAN.


  

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