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 資料収集・調査   リュートに使われる材料

 

リュートに使われる材料には様々なものがありますが時代やスタイルによって傾向というものがあります。以下に参考となるようにリュート用の各部の木材などを紹介します。果樹のようなものは日本ではほとんど材木店では見かけませんが海外ではたいていの木材屋さんで扱っている一般的な材料です。古楽器を作る場合はその構造や材料や工法等について充分に吟味が必要とされています。

 

 

ヘッド(ペグボックス)

ブナ(beechwood)、カエデ(maple)、フルーツウッド(いわゆる果樹:pear、appleなど)

 

 

ペグ

主にフルーツウッド。ツゲ(boxwoodが近い)。他にはローズウッド、アフリカンブラックウッド、象牙など。

備考:リュートでは普通は黒檀(ebony)は使われずpearのような果樹を染める。メイプルはあまり使われない。樫のようなオーク系はリュートでは使われないがオルガンのパイプなどに使用されることはあった。黒檀のペグが使われない理由は重く、ミネラル粒子を含んでいるのでペグ穴を削って広げてしまうため・・・。

 

 

ネック

ムク材としてネックに使う場合:ブナ(beech)、メイプル、フルーツウッドなど。

備考1:バロックリュートでは多くの場合、スプルースを芯材として黒檀突板(1.2mm厚とか)。芯材としては他にも柳(ウイロー)、菩提樹またはシナ(basswood)が使用される。

備考2:ちなみにバロックギターではメイプルを芯材として黒檀突板で残っているほとんどの楽器は単純な突き板でなく象牙などで装飾されている。例外的にストラディバリのバロックギターはメイプル芯材にメイプル(柾目)突板というものがオクスフォードに残されている。19世紀ギターでは菩提樹またはシナ(basswood)を芯材として突板には黒檀、メイプル、マホガニー、レースウッドなどが使われる。

 

 

表面板

スプルース(松の一種でエンゲルマンスプルースをはじめとしてシトカスプルース、ジャーマンスプルースなどがある)。リュートに杉は使われない。一部ではハリモミも?

 

 

リブ

イチイ(yew)、メイプル、黒檀、キングウッド、ローズウッド、スネークウッド、タモ(トネリコ、アッシュ)、ウオールナット、アップル、洋梨(ペア)、シープレス(糸杉)。

備考:6コースにイチイは使われない。メイプルはホフマンやティルケが好んで使用した。メイプルのマルチリブは存在しなかった。象牙やクジラの骨がリブに使われた例もある。

 

 

指板

おもに黒檀、または洋梨を黒く染めたもの。

備考:まれに牛骨板や象牙板もあった。ローズウッドはリュートの指板には使われない。6、7コースではネックと一体で指板がネックと一体化されたリュートも多い。

 

 

 

ロゼッタ

基本的には表面板を彫り抜く。時代によっては「はめ込み」も見られおもに洋梨(ペア)、ツゲ、などと羊皮紙を使う。

 

備考1:ルネサンス以降は必ず彫り抜き(最後期のシェーレに例外あり)。
備考2:ストラディバリはペアで木目を垂直に交互に三層重ねたロゼッタを採用している。
備考3:バロックギターのロゼッタでは羊皮紙またはカーフスキンが使われる。
備考4:中世リュートと18世紀までのギター系のロゼッタははめ込み(必ず)。

 

 

ストラップピン(ボタン)

ルネサンス期には普通は付かない。バロック期にはツゲや黒檀、象牙などの小さなものでボディ下部のキャップやボディ上部に付けられる。

備考:19世紀ギターはストラップピンを接着しないのが作法だが、バロックリュートでは接着するのが普通。

 

 

 

ブリッジ

主にフルーツウッド、後期にはメイプルやメイプル+黒檀突板など。

 

 

ブロック

スプルース、柳(willow )、ライム、リンデンバーグ(菩提樹に近い木)

備考:メイプルなどはブロックには使われない。

 

 

 

装飾材としては

黒檀、象牙、マザーオブパール、後期にはベッ甲なども。メイプルが装飾やスペーサに使われている例も見られますが、それは後の時代に象牙の代用品として製作されたもの。

現在では長い象牙材の入手は厄介。象牙彫刻の職人さんを取材してあれこれ話を伺ったのですが、ここ数年で保護の成果もあって象は増えており、18年ほど入荷がなかったのが1999年6月には久しぶりに日本に正規入荷したとのことです。むしろアジアの象は最近増えすぎて農作物を荒らすため逆に数を減らしているらしいです、このへんはレッドブックも参照したいところ...。日本では三味線のバチなどでも知られていますがリュートやバロックギターに用いられる場合、象牙は先端部が堅く、付け根に向かって柔らかいため、ヘッドの装飾などでは牙の先端部分を使い、曲げを必要とするリブには根本部分を使用したと考えられます。骨は曲げ加工に耐えませんが象牙は加熱して曲げることができるためプラスチックの無い時代には楽器だけでなく広く造形に利用されていました。明治時代にはすでに日本でも根付けをはじめとした芸術的にも高度な象牙細工が職人によって製作されていたとのことですが昭和になってから乱用傾向が激化し、職人の腕も落ち、材料を無駄にする加工がなされたため動物保護の声が高くなったのと同時に悪者扱いされることもあったとのことです。かつては材料を無駄にしないために象牙の切り出しには象牙専門の刃物屋が昔はちゃんとあって、非常に細い刃の糸ノコやノミが用いられていました。象牙についてはいずれまた機会を見て詳しく報告することにします......。楽器製作ではメイプルや人工象牙(プラスチック)といったイミテーションで代用するのが現代の製作家では一般的です。

 

 

 

 


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