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■ 30. 調整/修正/弦の選択 最後が肝心
そうです、最後が肝心です。弦楽器は弦を張ってこそ命(アタリマエ)。
仮の弦を張った状態でややサドルの弦高が低く、ポジションによってはビビるので若干高いサドルに作りなおしました。弦を正規の適切なものに変えて弾いてみてじわりじわりとファインチューニングしていきます。
弦の選択ですが、今までは調整用に私は手元にあったモダンなクラシックギター用の弦(オーガスチンのリーガルと青)をA=415Hzで張っていましたが、これは張力がたぶん7.5kgぐらいかかっており、しかも低音のしまりがないので、19世紀ギターに適切な弦を選ばねばなりません。
この楽器を展示した1999年10月の弦楽器フェアではカルロス・ゴンザレス氏いわく19世紀のこのタイプのギターに「8kgもテンションをかけると間違いなく楽器は壊れる」と言ってました。理屈で言えば弦長650mmで張っていた同じ弦を620mmの楽器に張ればテンションは弱くなるはずですが、実際にはそう単純ではなくテンションは上がります。ひとつの理由はブリッジピンからサドル先端までの角度が極端になるという理由などが考えられます。現代の一般的に市販されているクラシックギター用の弦をそのまま張るとこういった楽器ではかなりのテンションがかかっていると思われますので、もしみなさんがお手元に19世紀ギター(またはそのタイプ)をお持ちであればチェックしてみてはいかがでしょうか。パノルモのような扇状力木の場合は比較的テンションを上げたほうがよく鳴るようですが現在張っている弦に不満を感じていたりなんとなく張りが強くて弾きにくいと感じているならば確認する意義は大きいと思います。
ともあれ楽器に合った弦をえらぶには「弦長」、「A基準音のピッチ(周波数)」、そして「張力(テンション)」を目安にします。あとはナイロンかカーボンかガット(羊の腸)か、あるいは巻弦(銀、銅他)にするかというような選択肢があるわけです。この楽器では弦長620mm、張力を6kg強に、基準音A=415Hz として選ぶことにしました。少し余裕をもってA=440Hzでも無理のないテンションを考えたほうがいいでしょう。1弦に釣り糸(シーガー)などを張り、2弦に従来の1弦を、3弦に従来の2弦を、というシフトさせるという方法もあります。弦の選択については話が長くなりますのでいずれ別のコーナーで詳しく取り上げて解説したいと思います。ここではキルシュナー社の計算尺を借りて計算し弦を選択しました。インターネット上にキルシュナー社のホームページもあります。
さて結果として以下のような弦を張ることになりました。
【クレーンラコートモデル使用弦】
1弦(e1):キルシュナー社 ナイロン弦 NR5068 6.8kg
2弦(b): サバレス社 ナイロン弦 赤(S.I.B.2/542R) 2弦用 6kg
3弦(g): サバレス社 ナイロン弦 赤(S.O.L.G.3/543R) 3弦用 6kg
4弦(d): キルシュナー社 巻弦 VN5124 6kg
5弦(A): キルシュナー社 巻弦 VN5165 6kg
6弦(E): キルシュナー社 巻弦 VN5220 6kg
1弦はあえて若干強めにしました、このほうが演奏したときの音の延びが良かったことと曲を演奏するうえではメロディラインがよく響くからです。ナイロンなどの弦は張ってから徐々に伸びて細くなるという理由もあり、1弦などは最もよく伸びて細くなるという理由もあります。2弦と3弦以外はキルシュナー社の古楽器(リュート)用の弦です。リュート用の巻弦は芯が太く、一見すると現代のクラシックギターの巻弦より太いので戸惑いもありましたが、張ってみて感激なのでありました。サバレスのガット弦やピラミッド社のリュート弦であれば国内でも販売しています。もっとも現在ではインターネットがありますから安く個人輸入してもいいでしょう。
全体的に高いなぁ.....もっと低くしてもいいのです、例えば1弦は5.5kgとか。
さて、あなたがモダンなクラシックギターをお持ちならサドルと弦の巻代部分のなす角度を比べてみてください。この角度とテンションの関係については当クレーンホームページのバックナンバーの「TSULTRA Chip」でも取り上げて解説していますのでこちらも参考にどうぞ。
ヘッドに弦を巻く場合も巻上げていくに従ってナットからの角度がきつくなるように巻きます。木ペグは弦の交換がすばやくできるので、そういった点では便利です。
ああ、長かった。完成です。ここまでです。正直いって弦が決まるまでは私もかなりナーバスになってました。安心しました。疲れがどっと押し寄せてきました。
そして.........自分の小さな工房でお気に入りの19世紀の曲を弾くのはなんともいいがたい喜びです。最初に私が弾いたのは大好きなM.ジュリアーニの曲集。そしてF.ソル、そしてそして......
え? 上の写真にはエリク・クランプトンの曲集が写っているじゃないかって?
そりゃぁ〜〜もちろん、ギターの神様はスローハンドですからね!