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 27. フレット    フレット位置の計算とノウハウ

 

さて、フレットレスギターもいいのですがたぶん19世紀にはそんなものはなかったでしょうし(笑)これからフレットを打ちたいと思います。現代でも一般的に使われている12平均律の配置ですがもっと古い時代(バロック期以前とか)にはミーントーンなどの古典調律だったりします。リュート製作などではいちおうそこいらへんのことを知っておけば楽しいかと思います。今回はよけいなことを考えずに現代のギターと同様のフレッチングでまいりたいと思います。

現在エレキギターやエレアコなども含めて広く使われているフレットは以下の写真のような断面が「キノコ型」をしているタイプで、指板に埋め込む部分にはモドリというかカエリというかいくつもの突起が付いて外れにくくなっています。

 

今回はバーのフレットにします。で、..........板状のフレットのために真鍮の板棒を購入してきたのですがこれをカットして埋め込んで調整してくにはちょっと抵抗を感じます。やたら金属粉をまきちらし、糸のこの刃を減らすのがちょっとイヤなのです。

 

面倒ではありますが、獣骨を板状にカットしてそれをフレットに使うことにしました。当時は象牙の板フレットが使われたりしていたようですが私の手元にはハンコの切りクズの短い象牙しかないので骨で代用することにします。とってもくちゃいのでマスク着用...と。骨は比較的摩耗しやすいです。

こういった薄く長い材料のカットでは必ずガイドとなる定規を添えて作業します。クランプで糸のこ盤に定規を固定し、切り幅を決めて1枚づつカットしていきますが必要なフレットの長さよりも長めにしておかないとケガの原因になりますから作業手順や方法はみなさんよく検討してください。糸のこの刃は細目を使い、送りもゆ〜〜〜っくりと作業します。

 

そうやって切り出した骨棒のフレットです。いつかは象牙でも作ってみたいのですが自然保護団体からクレームがきそうです。まあ、たしかになんでもかんでもみんなが象牙を使っていたら象さんも気の毒だゾウ。最近はアフリカなどでも外貨獲得のためか規制が緩和されているらしいです。東急ハンズで正規ルートの大きな象牙が売られていましたがとても庶民一号には手がでません、誰かおめぐみを......。あ、端材なら比較的安価で入手できます。

 

フレットはノコで溝を掘ってそこに埋めていくわけですが、その前に指板上を平面にします。オリジナルラコートにもカーブを持たせたものと平坦なものを確認していますし、スカロップをつけたものも見かけたことがあります。リッチー・ブラックモアやジョン・マクラフリンなどもやってましたね。

ここではCROWNTOOLS社のスクレーパプレーンを使って擦っていきました。もしみなさんが国内品で入手されるのであれば、だいなし...いや、台なおしカンナを用意すればいいでしょう。

 

さて、弦楽器のフレット位置はどうやって求めればいいのでしょうか? 対数関数(あるいは指数関数)を使ってノートに計算していってもかまいませんが、当クレーンホームページには「TSULTRA FRET」があります!! そいつで一発計算! はい、今すぐあなたの製作したい楽器の弦調を入力して計算しましょう。ではクレーンホームページのトップに戻ってください。それではみなさんサヨウナラ、あとは頑張って完成させてくださいね〜〜〜(笑)。


 

は、はい、放り投げずにちゃんと続きを説明しますってば。
問題はここからです。いくつか注意がありますので解説しましょう。ひとまず今回のラコートクレーンモデルでは620mm(オリジナルラコートの多くは635mm)という短めの弦長ですが、その値を前提に話を進めます。

 

(1)まず楽器のナットからサドルまでの距離は正確に設計図の620mmとして製作する(確認)。

(2)ナットから1、2、3、4、.....最高フレットまでの各フレット位置を算出するには620mmをTSULTRA FRETに入力しますが算出された表は2通りあることに気付くでしょう。各フレット位置はその下に書かれている値を使います。なぜなら押さえたときの張力により若干音は高くなるからです(弦の材料の種類でも差が出る)。その補正のための実用的な係数が99.5%、つまり0.995なのです。弦高は人によって好みもありますし、ゲージの太さにもよりますのでもっと厳密にいえば使う楽器の弦長や弦のゲージによってこの係数は変えたほうがいいかもしれません。

   620mm * 0.995 =  616.89999 (約617mmと仮定したフレット配置にする)

19世紀ギターのほとんどはブリッジやサドル配置を傾けて弦の太さの補正を行っていませんからここまででオシマイです。算出値どおり定規と鉛筆で指板にマークしていってください。もしもあなたがスチール弦の楽器を作っていたりモダンなクラシックギターを作っているのであれば以下の(3)〜(4)もお読みください。

 

(3)サドルは多くの場合は並行でもかまわないのですが弦の太さが様々な場合は厳密にはTSULTRA FRETで係数を考慮した617mmにて算出される表の最下部に書かれている以下の値で傾けてやる(弦長をわずかに変える)必要があります。

Thickgauge(太い弦の補正): = 620.90 mm (約621mm)

Thingauge(細い弦の補正): = 618.38 mm (約618mm)

 

(4)ところが最後に弦を張って調弦すると、上記のように調整したにもかかわらず、まれにオクターブピッチや高音部のフレッチングがわずかにずれることがあります。弦にはばらつきがあって製造時点で誤差を含み、全長にわたって同じ太さでなかったり(特にナイロン弦)、同じゲージのはずなのにメーカーによって太さが異なることがあり得るからです。それでもなんとか使う弦を決めて、それに合うようにサドルを削るわけです。つまりサドルの3弦部分のピーク位置だけをエンドピン側寄りにしたりするのが一般的ですね...。欲をいえば6本の弦ごとにサドルのピーク位置をずらして削れば狂いにくいことになります。最後の最後はサドルのピーク位置は弦の1本づつ調整します。

 

【補足1】そげなこというたら弦を張り替えるたんびにサドルのピーク位置を 変えにゃぁならんじゃないか?と思われるかもしれません、そうです、そのとおりなのです、理屈でいえば....。ちなみにエレキギターの多くはそれができるように なっています...実際に弦の張り替えのたびに調整してる人は少ないかもしれませんが。

 

【補足2】もし使用する弦をまったく違うモノに変えたりとか、弦高を好みで上げ下げしたいので あれば、ナットとサドルを削らねばならなくなりますが、最初に楽器に付けてあったものを削るのではなく、それとは別に作って削るほうが安全です。たんに弦高を下げたくてサドルを削っても実際にはテンションも変わって音にも変化があると考えたほうがいいですから単純ではありません。

 

 

これらのフレッチング計算と調整の方法は製作者だけではなくふだん演奏する立場の人であっても知っておけば便利なことだと思います。

 

 

 

 

 


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