工程説明ページ


 

 1. タイプの検討  具体的なスタイルと構造を検討

 


さて、そういうわけでワタシは今回ラコートタイプのギターを作ることにしましたが、みなさんはいかがですか? ここでは具体的に仕様を考え、細部の構造についてもあれこれ検討してみることにします。じつをいうと今回はいくつかの鶴田独自の実験もやってみたいと考えているのです...。みなさんも日頃から自分の使っている楽器に不満を感じたり、こんな楽器があったらなぁ〜とか力木を自分独自のもので試してみたいなぁ〜〜〜なぁ〜〜〜〜んて考えたことがあるでしょう? でしょ? でしょ? 白状しなさい、ゲロっと....。

 

 弦長:

幻聴、いや、弦長はこのタイプでは19世紀当時は620mm〜640mmが多く見られ、ガットの弦を張っていたわけですが、私は小柄なカラダつきということもあり、かつて664mmのラミレスにメゲたこともあって、おもいきって620mmにすることにしました。モダンギターの弦をそのまま張るとテンションや音のイメージがちょっと変わってしまいそうですし、当時のスタイルにのっとって製作し、弦の選択も工夫することで私のイメージに近い音になりそうな気がします(と、願っている)。完成したら弦はあれこれ検討してみましょう、どんな楽器にしても弦を変えるだけでかなり「鳴り」が変わるものです。ナイロン弦でなくガット(羊の腸の弦)もいいですぞ。

 

 ボディ:

19世紀当時はメイプルの単板のものも多く存在しましたし、パノルモのような一般的モデルとしてハカランダのムク板を使ったギターもありました。そのほうが製作も楽かもしれませんが、ここではスプルース(松)にツキ板の2層構造にしようと思います(ちょっと面倒)。ツキ板にはマホガニーやハカランダ、レースウッド、サテンウッドなど様々なものがありましたが私は今回メイプル(バーズアイ)のツキ板にします。

というわけで側面板と裏板はスプルース(松)とメイプル突板の張り合わせに決定。うまく材料が入手できればいいのですが...。

あと、ボディの形状を考えましょう。オリジナルのラコートの多くは一見すると表面板と裏板はほぼ平行に近いものも多いのですが私はわずかにアーチを付けることにします。以下の図はちょっと極端ですが意味はおわかりいただけるでしょう。

 

 表面板:

表面板は19世紀当時は杉の表面板はまったくというほど見られなかったようですからスプルース(松)にします。力木(バーまたはブレーシング)については、当時はファンブレーシング(扇状)は少数派でパノルモやスペインの製作家たちこそ採用していましたが、ほとんどはバロックギターのようなボデイを横切る配置のシンプルなものでしたので今回は後者にならうことにします。なお1820年〜1830年頃のラコートのスタイルを参考にしていますが力木のサイズ、配置、本数がオリジナルのラコートとは異なる鶴田独自のものを採用します。例えば表面板のバーの本数はオリジナルラコートの5本を鶴田は今回4本にします。また、高音フレット部の15フレットと19フレットの真下にバーを配置します、私の見たいくつかのラコートオリジナル図面ではこうなっていませんでしたが延びのいい音を期待してこの部分は変更します。第三番目のバーは傾斜させるべきか迷いましたが今回は平行にしました。現代のギター製作セオリーでは表面板と裏板の本数には偶数と奇数のような規則性をうたった製作文献なども見られますが18世紀〜19世紀においてはそういった規則が必ずしもあてはまらない楽器もかなり多いのです。

 

 ネックとフレット:

ネックは今回は菩提樹のたぐいが入手できなかったので代用品を探すかもしくはラワンでいっちゃおうかと思います。ネックとボディのジョイントは12フレット位置ですが本来ホゾ形状を「 I ジョイント」すべきところをあえて「 V ジョイント(いわゆるありほぞ方式ですね)」にしてみました。ちなみにこういった方式(ダヴ・テイルのジョイントなど)は現代のスチール弦ギターの多くに採用されています。あとヘッドとネックの組み方もV型でいきます。

そしてフレットの材質や打ち方についてですが、現代のクラシックギターやスチール弦の楽器に見られる「キノコ型の断面」を持つ金属フレットは今回採用せず、獣骨を切り出して「 I 型の断面」を持つバーフレットを打つことにします。当時は象牙フレットも多かったようですが今回、予算的にそれはムリです、真鍮板の「 I 型断面フレット」でもいいでしょう。

 

 ヘッドと糸巻き:

ヘッドの形状はその時代に各地でよく見られた逆ひょうたん型(8の字)にしましょう、グローヴェルやラミー、ラプレヴォットなど非常に多く採用された形状(もちろん微妙にシェイプは異なります)です。ラコートのヘッドはずんぐりして幅広のものを良く見かけます。今回はヘッドを軽くするためにあえて木ペグにします(ネック〜ヘッドが重いとギターは鳴りにくい傾向があるため)。もし当時のようなブラス製の機械式ペグを希望するのであればイギリスのロジャースのホームページで現在でも注文する事が可能です。リンク集を御覧ください。

 

 ブリッジ:

じつは私の知り合いのJAZZギタリストがひとつのリクエストをくれまして、その方はいつもはGibsonのアーチトップギターを弾いていますが現在のクラシックギターにはいくつか不満を感じているとのことで、ネックの角度をわずかに寝かせてブリッジ(またはサドル)を高くし、弦高を上げ、キレのいい音とフィーリングを......ということでしたので、ちょっと検討してみることにしました。結果的にはブリッジの駒は小さく軽く作り、サドルをやや高くして傾け、そしてネックの角度をほんのわずかに寝かせることにしました。こうすることで弾弦する右指のクリアランスに余裕ができる(ハズ)というたくらみです。まあ、このへんはみょ〜なコダワリということで話半分で読んでください(笑)。

備考:じつはこの方式は約200年前(西暦1800年頃)にはすでにラプレヴォットが採用しています。

で、実際にこれを行ってみた結果を先にここで述べておきますと、いちおう上記のブリッジの目的は果たしました。ただ、この事情を知らない人がこれを見ると鶴田は製作がヘタで傾いちゃったと思われてシマウマ.....。う〜〜〜ん、では弦高はもちょい高くなりますがサドルは直立させて使うもよしとしておきます。

 

 その他:

ボディやサウンドホールなどの装飾について考えてみました。当時も華やかな(ハデな?)貝のインレイは多く見られましたが、今回は欲張らずにシンプルな仕様にとどめました。なお、アバロンやM.O.Pなどのインレイは時としてノイズの原因になることがあります。

 

 音:

音のイメージとしては音量はあまり大きくなくてもいいので和音を弾いたときに分離が良く、シングルトーンでもぼやけないようにしたい......まあ、目標ですから作る前なら何言ってもかまいません(笑)。とにかく現代の出来の悪いギターにありがちなモワモワ、ダブダブした中低音だけは避けたいのであります。

 

 

 

 

 


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