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工程説明ページ


 13. 表面板

 

さあ、もう峠は肥田、おっと越えたも同然です。いつもなら表面板の接ぎ合わせは最初に行う作業ですが今回のバロックギターでははじめに難しいところを済ませてからつりかかるつもりでしたから、工房内がホコリっぽくても気分的には鼻の粉ルンルン、じゃなくてルンルン状態(死語)です。もう幾度となくブックマッチの作業はやりましたが今回もしっかり籏ガネのお世話になります。

 

 

バロックギターは基本的に細身(というより縦長というべきか)ですから上質の表面板を比較的安価で入手しやすいです。今回はイタリアスタイルのバロックギターですが、あれこれ表面板選びに迷っているとフィレンツェの製作家アンドレア・タッキさんからイタリアンスプルース(しかも厳選材)を分けてもらうことになりました。タダというのも悪いとおもって少しばかり送金したらもう1セット追加で送ってくれました、嬉しいなぁ。日本じゃいくらになるかわからない立派なシロモノですが、鶴田のしょ〜もない楽器に使うのはモッタナイような気もします。届いた板にはタッキさんが伝搬速度を計測したメモとストラディバリの表面板の輪郭が描かれていました。

 

 

あとはカンナをかけて厚さの調整です。バロックギターではバーが2本というのが基本で(例外も多いのですが)そのかわり表面板はやや厚めに作られるというのが伝統的セオリーとされています。今回は約2.4〜2.7mmでいくことにします。ワークベンチの平坦な面でひたすらカンナをかけます。ふだんから作業台の表面は傷つけないようにボール紙や布を敷いて作業していますが、さすがに最近は傷も増えてきました.....。

 

 

カンナかけや厚さ調整にもっと説明のスペースをとりたいところですが、先に進みましょう。次はサウンドホールを開ける行程です。写真のようなサークルカッターを使う方法、もしくはデザインナイフでもかまいませんし、ボール盤を使う方法やルータを使う方法もあります。ここではサークルカッターを使いますが、下手をすると1回転したら渦巻き状に円周が広がっちゃってピッタリ真円にならないことがあります.....そこのアナタ! 身に覚えがあるでしょ? おかしいなぁ〜〜と思いつつもさらに何回転も切っていくとクルクル渦巻きキャンディー「ノースカロライナ」.....(昔エバがCMやってましたっけ?)になり、いつまでたっても収束しません。そうならないための鶴田のコツはセンターのピンをなるべく深く刺すことと、最初の1回目の刃先を極端に短くすることです。

 

 

うまく真円に収束して切れたら次は飾り(まあ、いわばロゼッタの一部)を入れるための溝を掘ります。ルータを使っても良いのですが、私は楽器を量産するわけでもなく、1本だけですので今回もデザインナイフとクラフトノミでさっさと切り出しちゃいます。この作業もあわてると刃を折ったりあさっての方向へ切り込んでしまうのでじっくり取り組みましょう。

 

 

前もってベンディングアイロンで真円に近くなるように曲げた材をタイトボンドで溝に埋めていきます。溝はピッタリの厚さで掘ってあるのでグイグイ押し入れてスキマ無く仕上げます。バロックギターというとどうしてもレコードのジャケットや図鑑に頻出する豪華な白黒の装飾パターン(さきに述べた給電しよう...宮殿使用)が想像されますが、実際にはもっと質素なものや素朴でユニークなデザインのものも多かったわけです。

 

 

継ぎ目はピッタリかみ合ったかな? 接着剤が乾いたらサウンドホールをくり抜きます。何回も刃の深さを変えてキッチリと切り出しました(御覧のとおり)。

 

 

スクレーパでならします。こういった作業では両手・両腕を石鹸できれいに洗ってからでないと、いつのまにか表面板を手アカや油で汚してしまいます。

 

 

さて、ここで真打ち登場。そうです、鶴田が夢にまで見た立体ロゼッタがここに実現します。いちばん左側が鶴田作、中央がオリバー氏作、右側がエレナ女史作のロゼッタであります。これが世紀の3大ロゼッタ製作巨匠(ウソ)。ともあれ3つ並ぶと壮観?ですなぁ。バロックギターでは一般に表面板の裏側(つまりボディ内部側)からロゼッタを表面板に貼ることが多いようですが、一部の製作家やチェンバロなどでは表面板の表からロゼッタを貼るものもあります。ですから、そのどちらの方式で貼るかによってロゼッタの縁部分の直径を決定せねばなりません。

 

 

スプルースは糸鋸またはカッターで容易に切り出すことができます。このときスラッシュボード(リュートのようにネック上で指板へと接続される部分)はやや幅を広めにとっておきます。

 

まず、バーを表面板に貼る作業にとりかかりましょう。ここではオーソドックスな2本の平行なバーのスタイルとします。もう少しバーは細くてもいいでしょう。この楽器ではサウンドホールも若干大きめで製作しています。

 

 

 

表面板のバーを接着・クランプする作業です。今回は「TSULTRA クランプ」の出番はなさそうです。

 

 

今回の図面では(この写真のテンプレートに見られるように)いくつかの補強が見られますが、おそらくのちの時代の修理の際に付けられた可能性が高いです。従って私はこれらの補強材は付けていません。

 

 

 

バーの先端部をミニカンナで削ります。表面板のアンドレア氏のメモは消さずにそのまま残すことにしました。せめてもの感謝の気持ちです。

 

 

さて、これにロゼッタを接着します。

 

 

 

 


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