■ バロックギター(Baroque guitar) のガット(羊腸)弦選びの例
バロックギターにガット(羊腸)を張った例を書いておきます。バロックギターの様々な演奏技法を実現するには低めの張力が前提とも言われています。
ここでは弦長を2つに大別して書いておきます。
弦長が640mm程度の楽器の場合は基準ピッチを A=415Hz とします。
弦長が680mm程度の楽器においては、モダンギターより1音低く A=392Hz の基準で調弦します。
オクターブで張るコースは楽器を演奏姿勢で抱えたとき太い弦が下です(下記の順番のとおり)。
いちばん素朴で基本的な作りのプレーンガット(羊腸) の型番がキルシュナー社では「D」でありまして、それにニスを塗って耐摩耗性を高めたのが DL です。例えば DL 2048 は 直径0.48mm の弦でニスびきしてあります。ニスを塗らないのが欲しければ D 2048 を選べば良いのです。
● 5コース バロックギター 弦長680mm A=392Hz 【弱め】総テンション 23.3kg
調弦:e1, b, g, d/d1, A/a ← A=392Hzに基準を設定したチューナーにて。
A=440Hzしか備えていないチューナでは1音低い (1) d1 (2) a/a (3) f/f (4) c /c1 (5) G/g と調弦します。
(1) e1 シングル 羊腸コート 0.48mm DL 2048 3.8kg
(2) b x 2 ユニゾン 羊腸コート 0.52mm DL 2052 2.5kg x 2
(3) g x 2 ユニゾン 羊腸コート 0.64mm DL 2064 2.4kg x 2
(4) d 羊腸コート 0.88mm DL2088 2.5kg またはオープンワウンド(ルクスライン) LK 2088 LS 2088
(4) d1 羊腸コート 0.42mm DL 2042 2.3kg
(5) A ナイロン芯銅巻弦 1.20mm KN2120 2.6kg またはオープンワウンド(ルクスライン) LK 2120 LS 2120
(5) a 羊腸コート 0.56mm DL 2056 2.3kg
● 5コース バロックギター 弦長680mm A=392Hz 【やや強め】総テンション 28.7kg
調弦:e1, b, g, d/d1, A/a ← A=392Hzに基準を設定したチューナーにて。
A=440Hzしか備えていないチューナでは1音低い (1) d1 (2) a/a (3) f/f (4) c /c1 (5) G/g と調弦します。
(1) e1 x 1 シングル 羊腸コート 0.52mm DL 2052 4.4kg
(2) b x 2 ユニゾン 羊腸コート 0.58mm DL 2058 3.0kg x 2
(3) g x 2 ユニゾン 羊腸コート 0.73mm DL 2073 3.0kg x 2
(4) d 羊腸コート 1.04mm DL2104 3.3kg またはオープンワウンド(ルクスライン) LK 2104 LS 2104
(4) d1 羊腸コート 0.46mm DL 2046 2.7kg
(5) A ナイロン芯銅巻弦 1.36mm KN2136 3.5kg またはオープンワウンド(ルクスライン) LK 2136 LS 2136
(5) a 羊腸コート 0.62mm DL 2062 2.8kg
● 5コース バロックギター 弦長640mm A=415Hz 総テンション 23.3kg
調弦:e1, b, g, d/d1, A/a ← A=415Hzに基準を設定したチューナーにて。
A=440Hzしか備えていないチューナでは半音低い (1) d1# (2) a# (3) f# (4) c# /c1# (5) G#/g# と調弦します。
(1) e1 シングル 羊腸コート 0.48mm DL 2048 3.8kg
(2) b x 2 ユニゾン 羊腸コート 0.52mm DL 2052 2.5kg x 2
(3) g x 2 ユニゾン 羊腸コート 0.64mm DL 2064 2.4kg x 2
(4) d 羊腸コート 0.88mm DL2088 2.5kg またはオープンワウンド(ルクスライン) LK 2088 LS 2088
(4) d1 羊腸コート 0.42mm DL 2042 2.3kg
(5) A ナイロン芯銅巻弦 1.20mm KN2120 2.6kg またはオープンワウンド(ルクスライン) LK 2120 LS 2120
(5) a 羊腸コート 0.56mm DL 2056 2.3kg
★ じつはコレ、上記の2例のうちの 弦長690mmの楽器でA=392Hz の場合と全く同じ弦です。そうなんです、弦長の違うバロックギターを数本持っていたとしても基準ピッチ(張力)を管理できるのであれば1セットだけで事足りるのです。弦計算尺はそんなときにも大活躍します。持っている楽器の弦の数だけ微妙に太さの違う弦を買う必要はないわけです。やった〜〜!?
ついでに、弦長610mm なら A=440Hz で同じように使えますし、弦長570mm なら半音高い A=466Hz でも使えます。さらに 弦長 540mm なら1音高い A=494Hz でも同じ張力で使えます。論理的には。
但し、張力が同じでも弾いたときに感じる張りの強さは弦長が短くなるにつれて強く感じます。また、演奏する曲や楽器の構造や鳴り方の違いや弾きやすさなどをキッチリ考慮するならゲージ(弦の太さ/種類)の微調整をすることになるのです。やっぱりね。
鶴田は自分の楽器であればサクサク弦を交換しますが、さすがにお客さんから弦の交換や選定を依頼されると、こういったことが頭の中を駆け巡り、ただですら種類の多い羊腸弦なのにコーティングの有無や巻線の種類、異なる基準ピッチで弾くことを想定したり、奏者がどんな音を好むのか、握力はどうか、ツメの状態はどうか、糸巻きは耐えられるのか、スペア楽器はあるのか、合わせる楽器の種類とピッチは何か、次の演奏会は間近なのか、聴衆は何人ぐらいでホールの規模はどれくらいなのか、 .... いやもう、頭がクラクラしてきて、手が止まっちゃってぜんぜんはかどりませんがな ← 余計なコト考え杉。従って、ときに1本の楽器の弦交換に丸一日かかってしまうこともあるのでした(本当)。
■ オープンワウンドの弦について(キルシュナー社ではルクスライン : Kurschner Luxline )
羊の腸に細い金属線を朝顔が巻き付くように縒った特殊な弦です。銅線を巻いたのが LK です。銀線を巻いたのが LS です。
太い弦を選ばねばならなくなったときに、これなら細くてすむのです。鳴り方も違います。
もちろん手作り弦なので高価です。でも、高いから良い音になるという意味ではありません。楽器との相性もあります。
ルクスラインは計算結果よりも若干強めに張るほうが良い結果が得られます(経験的に)。
そのかわり鶴田の場合はコースで組になるオクターブ弦は張力を少し下げることにしています。
例えば銅単線羊腸縒り LK 2088 (2.5kg) は LK 2094 (2.8kg) を選ぶ。
または銀単線羊腸縒り LS 2120 (2.6kg) は LS 2128 (2.9kg) を選ぶ。
【注意】
・巻弦を使わず、すべてプレーンガット(羊腸)で張ることも可能です。但し、ブリッジの弦穴サイズやナットの拡張が必要になることがあります。
・A=440Hzしか備えていないチューナではA=415Hz基準は半音低い (1) d1# (2) a# (3) f# (4) c# /c1# (5) G#/g# と調弦します。
・まったく同じ弦長、同じ構造、あるいは同じ製作家の楽器でもセッティング(サドルやナットの状態)でテンションは変わります。
・表記の弦はあくまで参考ですので、実際に自分の楽器に張って弾いてみて、状態をみながら納得いくまで弦を選びなおすことが重要です。
・くれぐれも過大な張力で楽器を壊さないように御注意ください。当方では一切責任を負いません。
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