|
● 世界中探しても片手を数える人々にしか価値のわからないレア・アイテムを入手・紹介し、いかに鶴田がバカバカしい出費を重ねているかを御覧いただいて楽しむというコーナー。それが「私的素敵頁(してきすてきぺい)」です。
さて、今回のPAYはギターのペグ(糸巻)です。.......... と、なにげに紹介していますが一般的なギターのペグなんぞを購入・紹介しても面白くありません。スローンやフステロやライシェルなど話題のペグメーカーは数あれど、それらはCRANEではもはやありきたりの存在です。かのロジャースですらだいぶ昔に当サイトで紹介していますし。
では、ここにきてひとつレア度の高いといいますか、難易度の高いペグの話をしたほうが、よりCRANEらしいではないか! と思ったわけですよ(難易度ってなんなのよ?)。
19世紀のBAKER, JEROME, EON, EON&FILS, VR, HANOLD, Parker..... こういった世界中の糸巻き関連資料は現物を含めてウンザリするほど手元に蓄積してありますので、今回はそれをもとに「19世紀ギターの糸巻きをなんとか作りたい(買いたいではない)」ということにしました。........ が、御存知のとおりイギリスの手作りペグメーカー「ロジャース」がすでに製造・販売しているので、そこに注文して入手しても面白くないのです(過去にいくつも買いましたがこまかい指定も以外と難しい)。そこで、フライス盤を買って作れる範囲内で自作できないものかと資料を集めてみました。しかしどうしてもネジ切盤が必要であることに気付き、たくさん作るわけでもないのでコスト的に見合わないということになりました。ギアのモジュールの計算などをこねまわすのも楽しいかもしれませんが完成がいつになるかわからないのでやめましょう。やはり自作は難しい?
それなら.......... ということで、せめて採寸して図面を描いて寸法や素材を指定して特注品をいうことでしかるべき専門家(職人さん)に製作してもらおう、ということにしました。あれこれ探してギア関係の会社や工場に片っ端から問い合わせ、採寸して描いた図面を見てもらったり、写真を見せたりして見積りをとってみたのです。探せばかなりの数の会社を見つけることができます。
図面はさいしょにスケッチ程度のもの(↓ポンチ絵ね)を描いてコメントを書き、そのあと詳細な寸法入りになおしていきます。機械製図・電気製図の実習経験ははるか過去の話ですが、やはり私としては慣れたMacとAdobeイラストレータでサクサクと描きます.....
【テキトーなポンチ絵】
こちらの図面の指示通り作ってもらうと、とんでもなく(予想通り)高額になることが判明。たとえばBAKERスタイルの糸巻きを1セット特注すると、おおむねの工場で約20万円の見積りでした。精密加工で名高い技術大国ニッポンは高精度・高品質なものを作れてもそれを売るということになると(採算ベースで実現しようとすると)、現実的には「作れない」のです....... とってもタイヘンってコト。どこの世界にギターの糸巻きに20万円もかける人がいるでしょうか? まぁ、100セットまとめてボリウム・ディスカウントも期待できますが、このコーナーでいう「私的素敵」とはかけ離れたPAYになっちゃいます.....。
ど〜〜〜〜〜〜〜〜〜しても、欲しい糸巻きがあるのです。それが今年製作予定の「イングリッシュギター」のウォッチ・キー方式糸巻きなのです。ひとまず前記のBAKERスタイルは保留(あきらめたわけではない)しておき、構造的に比較的作りやすそうなウォッチ・キー方式を! 幸いなことに18世紀当時の楽器PRESTONも手元にあることですし、さっそく採寸して図面を描き、詳細な写真を撮影して仕様をまとめました。 問題なのは、さきに問い合わせたような精密加工の会社に依頼しても安価には請け負ってくれないので、今度は方針を転換。いったん海外の加工業者や職人を捜したのですがそう簡単には見つからず、例えばイギリスの職人さんに依頼した場合も安くないということがわかり説明したり交渉も面倒、ということで世界中を探しまわったあげく、またまた日本国内の近所の零細町工場を探し出して相談することにしました。
さっそく電話帳で探して調布の某工場に電話をかけて現物の糸巻きを持ち込み交渉開始 ............ しかし、 ............. 18世紀の総ブラス製による重厚なウォッチ・キー糸巻を見るなり担当者は.....
東京タワーの吉田茂状態であります。
鶴田:「難しいですか?」
担当者:「・・・・・・・・・・・」
鶴田:「見慣れない物ですけど、なんとかなりませんか?」
担当者:「・・・・・・・・・・・」
鶴田:「費用はだいぶかかりますか?」
担当者:「・・・・・・・・・・・」
鶴田:「や、やっぱり難しいですよね? あは、あは、あはははははは........ 」
担当者:「・・・・・・・・・・・」
鶴田:「こ、こりは、あの、その.............. あは、あは、あはははははは........ 」
ひとまず笑ってごまかしつつなんとか気をとりなおし、担当者にギター歴史概論の講義を行ったのち、18世紀にはイギリスを中心に金属弦の小型ティアドロップギターが大流行し、その糸巻きであることを説明するに至ったのでした。もちろんアフリカのカリンバでないことも補足説明したのです。
先方もナルホドと理解を示し、あれこれ作業工程や素材について話を進めるうちに納期と費用の話になったのですが................ 小回りの利く小生産の工場とはいえ、やはり相応のコストはかかってしまうとのことで「最低でも10万円以上」という結論。
この国の物価や賃金を考えると当然ですね。ワンオフのコテコテ特注品を3万円で作ってくれとは言えません。商いはボランティアではありませんもの.....そりゃそうだ。肩を落として帰路につく私を御想像ください.........
。
さて困った........... 振り出しに戻ってしまいました。
こういうときはどうするか? そうです、鶴田の「チルチル・ミチル・ジョー・ミチルの法則」によると探しているものは身近にあるのです。職場の先輩に今までの経緯を話して相談したところ.....
なんと、........ その弟さんはライフルのパーツやバンジョーの部品を自作するのだそうです。そんなかんだであっけなく加工職人を見つけてしまいました。もちろんプライベートな依頼なので予算的なところもうちあけ、半ボランティアで御願いすることになったのです。その尊敬すべきマイスターT氏に図面と写真とメモを兄上経由で渡してもらい、あとはその兄上(私の職場の先輩)を介して詳細を決めて作業を進めていったのです。基本的にはこちらから素材や寸法の指示を出しますが、あとは現場にまかせるのがよいと察して最後はおまかせしました。
数日が経過してそのマイスターT氏から連絡がきて、どうやら当時の金属加工にも詳しい方のようで加工機械や素材はヒストリカルにやりたいとのこと。素材はブラスといってもちょっと硬めでしょうか? 一部にスチールのネジがあり、そのピッチも問題です。ネジ固定部分はフライス盤よりむしろロウ付けした可能性が高いとのことで銀ロウの配合率などについて議論......... 。完成まで時間がかかりそうな気配ですがこちらは特に急がないので私は現物の状態を伝えつつさらに数週間待ちます.....。
さて! 完成品が手元に届いたときは感激でした。なんたってオリジナルのプレストンの糸巻きよりもダンゼン精度が高いのです。爪パーツひとつにしても真鍮を削り出してノッチも忠実に再現。動作もなめらか。現時点ではこういったヒストリカルなウォッチ・キー方式糸巻きのコピーは世界でも例が無いでしょう(2004.2.29現在)。
おお! アコガレの世界初! レアアイテム! CRANE 万歳! これでこそ真の「私的素敵頁」っ!!
で、............ 気になる価格は? じつは次回作も期待しつつ当初の予定よりも多めに払ったと思ってください。今回は半ボランティアで無理に御願いしたこともあって価格はあって無いようなものです。表記しても意味がありません。そのマイスターT氏いわく、「職人さんに正式に依頼すると確実に10数万円以上はかかる」とのことでした。
う〜〜〜ん、いかにネットショッピングが便利な世の中になったとはいえ、やはり隣人とは仲良くせねばいけませんね。今回はインターネット万歳というわけにはいきませんでした。マイスターT氏とその兄上にはあらためて御厚意に感謝申し上げまする........。
・どなたかBAKERスタイルの糸巻きを作ってくれませんか? できれば半ボランティアで..........
■ 私的素敵頁に戻る