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弦楽器製作工房には必要なものだからと、もっともらしい大義名分を盾に、好き勝手なものを思いついたままに作っては悩み、試行錯誤して、うまくいったと思いこんでは自己陶酔する.... それがCRANEの私的素敵頁(してきすてきぺい)のコーナー。
今年の春も静かに熱くナイス・ペイっ!
● 今日の私的素敵PAYは「折りたたみ式拡張テーブル」です。
私が弦楽器を作り始めたのがいつ頃であったのか、明確な記憶がありません。たしか1993年頃にキットのギターを作ったような気がしますが、中学や高校生の頃からギターの調整やら改造やらは日常的にやっていたので、「製作歴は?」などと質問されても即答できないのが本音です。ただ、この「クレーンホームページ」は1995年7月から公開しているので、今年で18年になりますかね? 従って、製作歴はそれ以上ということになります。思えば楽器作りの初期は賃貸アパート暮らしだったので、食卓で作っていた(いわゆるキッチンテーブル・ルシアーですな)のですが、それでも充分楽しかったのです。楽器作りでは食卓のサイズなんて小さすぎて、ほんのニャンコの額のようなものですけど。やろうと思えばなんとかなる.... 。
しかし、本格的に弦楽器製作や修理をやるようになると、必然的に専用の工作台が欲しくなるのです。できれば完全防音のアトリエ(工房)もあったらいいなぁ.... そう夢見ていたら、十数年後にはそれらが現実のものとなっていたのでした。
何をどう間違えたのか、薄給と貯蓄の苦労が実ったのか? 騙されて無茶な住宅ローンを押しつけられたのか? ともあれ防音の整った工房が完成し、中型の木製ワークベンチ(工作台)を購入して工房に据え付けました。なんとかなるものですなぁ....。ただ、この工作台は決して充分なサイズではなく、使い続けて年を重ねるごとに「もちっと大きいといいんだけどなぁ... 」などと、ゼイタクを言うようになるのでありました。
クレーンホームページでは弦楽器の図面(設計図)を無料で配布していますが、じつはそのほとんど全ては、自宅の廊下や玄関などのフローリングの床に寝そべって描いていたのです。楽器のシェイプをトレースするにはロール紙(トレーシングペーパー)に楽器を置いて、ボディに鉛筆をあててグルリとなぞることになります。緻密な図面を描こうとすると時間もかかり、腰が痛くなります。身体だけでなく、モチベーションを保つためにも広い平面は貴重ですな。広いテーブルがやはり欲しい。ここ数年間はそう思っていたのです。
それで、最近ようやく作ったのがこの「パタパタ式拡張テーブル」です。写真をとくと御覧ください。どうです? いいでしょ? さすが、天才製作家は違う。
● 使用木材
天板:ゴムの木の集成材です(ホルマリンを含まない100%植林木)。しかも安価で丈夫。
脚:モミに似た針葉樹の栂(ツガ)
留板:
収納時に脚を固定するための留板は杉です。テキトーに切って接着しただけ。
● 構造:以下に略図を示します。元あったワークベンチ(工作台)に3つの蝶板でつないで拡張しています。脚も蝶板でパタパタと動く可動式。あえて2つの脚を平行に配置していないところに御注目。
折りたたみ式というのが重要です。固定式の脚をもつ丈夫で安定した構造のほうが良いに決まっていますが、大きな作業台は室内が狭くなります。でも、室内は広くありたい。そんな相反する思いがこのカタチになりますた! 狭小住宅の普及した日本的な発想ですな(笑)。
以下の写真で実際の構造が理解できるでしょう。写真の脇に当工房の考案したニカワ鍋(TSULTRA GLUE POT)が写ってますな。
部分的に困ったのが、畳んだときの脚をどう固定するか、という問題でした。何かで抑えないとダラリと2つの脚が開いてしまいます。シンプルな構造のままで済ませたいのに、余計なものを付けざる得ないのです。やむなく工房に余っていた杉の角材をチョチョイと加工して脚を留めることにしました。蝶板の遊び幅を利用した単純なものです。まぁ、主に図面を描くための拡張テーブルなので、こんなものでヨロシイ。
蝶板でなくとも脚を付ける方法はあるのですが、天板は永久的なものではなく消耗品、いつでも貼り替えるつもりでいます。でも、こうやって完成品を見ていると、案外、長持ちしそうな気がします... 。
脚が外に開いてしまうのではないか? いえ、ひとまず蝶板で防止できています。より強度を増すには2つの脚に横木(格(こ)または段)を追加すればいいのですが、脚を斜めに配置しているので、これに横木を追加するにはテクニックを必要とします。いまのところ、このままで不自由しておらず、強度的にも問題なく使っています。
ほかにも天板の反りを防ぐために補強の板材を接着するとか、思いつくことはたくさんあるのですが、畳んだり広げたりを手軽に行うためにも、余計な手間をかけない簡潔な構造がよろしかろうと思っています。いずれ必要を感じたら横木の追加も検討しましょう。
● 今日のPAY
さて、今日のペイです。
・ゴム集成材(910 x 600 x 20 mm): 3,580円
・栂(ツガ)材(910 x 100 x 20 mm): 1,350円 x 2本
・杉材(910 x 20 x 16 mm): 250円
合計:6,530円
個人に都合の良いちょうど良い大きさ。そんなのなかなか売っていませんねぇ。自作の良さは個人的な好みや都合に合わせていくらでも工夫できるところにあります。
手間暇を惜しんでは良いものは作れませんなぁ。
記事掲載:2013年5月22日
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