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些細なコトでも書いておけば地球上で年間3人ぐらい誰かが見つけて役にたつかもしれないシリーズ。以前書いた記事の MAMIYA16 は意外にも多くの方が御覧になっているようですごく嬉しいです。
今回の道具はさほど難しくはないのですが、知らないと悩む部分もあったり壊してしまうこともあるので、個人的には備忘録です。
Javaらしき....あ、いや、蛇腹式カメラの使い方です。
蛇腹式のカメラいいですね。写真機と呼びたくなります。
蛇腹式カメラは使わないときはレンズがボディに収まってフタが閉じているのでかさばりません(コンパクト素晴らしい)。
しかもこの時代、プラスチックはまだ普及せず、ほぼ金属とガラスと革と紙のような天然素材で構成されているのも味です。
明治時代や江戸時代の大判カメラのように、いかにもイイ写真撮りまっせ! というムードが蛇腹からあふれています。
蛇腹カメラ、いいねぇ ...
かつてポケットに入れて携帯するサイズの蛇腹式のカメラはたくさん作られたのです。
しかし、現存する蛇腹式カメラは大判とか、中判/ブローニ判(6cm幅のフィルム:120判とか220判ともいふね)が大多数なんですね。
しかし、蛇腹式カメラのうち35mmフィルム(135判とかライカ判ともいふ)のカメラも作られていました。
しかし、蛇腹式35mmフィルムカメラの多くは目測で焦点/ピントを合せます。うまく合わずピンボケも起こりがち。
しかし、蛇腹式で35mmフィルムで距離計と連動して前玉(レンズ)が動くものもありましたがシャッターボタンはレンズ脇に付いてました。
しかし、蛇腹式で35mmフィルムで距離計と連動して前玉(レンズ)が動いてなおかつ距離計連動で二重像合致式なんてのも少数派ですが、あったのです。
少数派 ... 私の好きな言葉です。ほかにも稀少とか限定とか、絶版とか、入手不可とか、ワクワクしますな。
で、上記の条件に合致するカメラですが ...
ライカ判(35mm)の蛇腹といえばすぐに思い出すのはドイツコダック(ナーゲル社)の「レチナ」ですな。レンズ交換式で IIIc モデルに至っては露出計まで付いてました。でも、レチナに関してはいろんな文献も出ていますし、他に良い解説サイトもあるでしょうからウチではそんなメジャーなものは書きません。
ドイツのアグファ社によるカラート36やスーパーリゾネッテ(アンスコ スーパーレジェント)、ツアイス・イコン社のコンティナ、ウエルタ社のウエルチニ、日本製でもアルコ35(Arco)なんてのがありました。
少数派と前述しましたが、一時期は各社からけっこう出ていたんですね。
しかしながら技術革新が急激に進んだ最中にあって35mmフィルムの蛇腹式スタイルは、まもなくボディ一体型レンズ(固定鏡胴)に、そして一眼レフの時代に移行してしまったのです。戦争の影響で品質がガクッと落ちた苦難の時期もありました(モデルによっては状態の良い個体を探すのにちょっと苦労します)。
さて、今回のカメラを作ったツェルト社は1902年にドイツのドレスデンで創業したカメラ会社です。
フツーのカメラ好きの皆さんは御存じないカモしれませんが、クラシックカメラ好きなら誰もが?知ってるメーカーです。
ツェルト/ツエルト/チェルト社が35mmフィルムのモデルを作り始めたのが1935年で、蛇腹カメラ「ドリナ」のシリーズは1930年代から1950年代(東ドイツ時代)まで製造されました。
当初の仕様は距離計も付いておらず前玉回転式ピント調整、そのうちボディ上部(軍艦部)にピント調整ダイヤルが付いて、
そのあと距離計が追加され、ピントダイヤルがボディ右側に移動したのち、二重像合致式を備えて機構的にはシリーズの頂点に至りますが、そのあと機能を省いた廉価版でドリナシリーズは幕を閉じました。
カメラに限らず、戦後はどのメーカーもコスト競争に翻弄されるのですな。
長く続いたモデルには機能とデザインが最高点に達する「買いモデル」が作られた限られた時期があるのだ、ということでしょう。
車や時計やファッションや楽器もそうですね。
今回のモデルの特徴をまとめておきます。
・ピント合わせが独特でボディ横のフォーカッシングノブを回します(これがたまらん!)
・35mmフィルムを使う(入手しやすくボディサイズもコンパクト)
・蛇腹式である(もちろんレンズシャッター:SYNCHRO - COMPUR B 〜1/500) ※ 1/500秒は少なく1/250秒タイプが多い
・シャッターボタンがボディ上面/軍艦部に付いている(ボディレリーズ式)
・充実機能にしては小型でコンパクト(カドのとれた重厚なダイキャストボディ)
・距離計連動二重像で正確なピント調整ができるにもかかわらず可愛い小窓の距離計まで付いている。
・レンズはカールさんの Carl Zeiss Jena 50mm F2.8 のテッサー型です! シャープに写ります。100mを10秒で駆け抜けます。
・古すぎず、新しくもなく、微妙な時代感のレトロなデザイン
・重量:476g このタイプとしては小型軽量
このモデルは1951年以降1953年頃の製造と思われます。発売は1951年です。
もちろん、DOLLINAシリーズの特徴であるフォーカシングノブがボディ右側に付いています。これを回すとレンズボードが前後します。スムーズで正確です。
シャッターボタンがボディ上部に備わったことで、とても撮りやすくなりました。
古い時代のドリナ(たとえばスーパーの付かない名前のドリナII)は黒色ボディで二階建て構造が人気ですが、レンズが3群3枚のトリオターであったり、状態の良いものは限られるうえに値段も高くなります。
スーパーの名前が付かないドリナIIに関しては写真工業のシリーズで使い方の文献が出ていますたので、ここでは書きませんが、蛇腹式35mmカメラという意味ではおおむねこの スーパードリナII と同じです。
各部に英数字/記号を振っておきました。例によって写真をクリックすると大きな画像を表示します。
分類上は折りたたみ式/フォールディングカメラの仲間ですが、レンズがバネでピョコン!と出るこのテのタイプをスプリングカメラと呼ぶのでしたな。メーカーによってはフタが横に開くか下に開くかといった違いがあります。
フタの近くにあるボタンを押すとフロントカバーが下に(垂直から水平に)開いて蛇腹が伸びてレンズが前に出てきます。
ボタンが摩耗してゆるい個体も多いので、テーブルにコトンと置いただけでバカッ!と開いてびっくりすることがあります。
不意にレンズボードが飛び出すと思わぬ事態を招くので御用心あれ。
スプリング式カメラは全てそうですが、必ず手を添えて前カバーをそっと開く習慣をつけましょう。鉄則です。
フィルムが負圧で吸い出されるリスクがあるので(とくにブローニサイズは顕著)、ゆっくり開くべきです。蛇腹ってオルガンのふいごですからね。
このカメラは基本的にはフィルムが入っていないとシャッターが切れません(空打ちの方法は後記)。
しかし、最初に正常な動作を説明しておきたいので、まずフィルムが入っている状態の実際の撮影の手順、巻き上げとシャッターの操作説明をします。
まだフィルムを入れてはいけませんぞ。最後まで読んでください。
・ボディ中央の上にある P ボタンを押して前フタを開いてレンズをそっと出します。
・シャッター速度設定ダイヤル(2)を回してシャッター速度を決めます。ちょっと硬いかも。
・絞り(3)はバネが効いているので少し外周へ引くように回しながら設定します。
フタが下に開くため絞り数値がレンズ下側の刻印で見づらいです(赤い数字ではありません、黒い数値に絞り(3)の△先端を合わせます)。
※絞り範囲が制限されるタイプのレンズシャッターであることに注意(希望の絞り値まで回せないときはシャッター速度を変えます)
※赤い数字は環境光の明るさLV (LIGHT VALUES) を広範囲に表した目安です。おおむね2から18ぐらいまで刻印されることが一般的です。
・巻き上げノブ A を矢印の方向に回転させるとフィルムを1コマ分巻き上げたところで止まります(フィルムが入っていないと止まりません)。
・シャッターチャージレバー(1)を下へ押し下げてチャージします。
・本体上面のシャッターボタン C を押してシャッターを切ります。
※ シャッターは自動でチャージされません(セルフコッキングではありません)。
※ これら一連の操作では (5) の部分に触れてはいけません。
※ フラッシュ の接点 (4)は必要に応じて Y, X, M を選択されたし。たいていはXでよろしいかと。
ピントの合わせ方を説明します。
・本体裏側の M のファインダー穴(すごくちっちゃい!)からのぞくとフレーミングできます。
実際に使ってみると使いづらいことはありません。すぐに慣れてしまいます。
・次に N の小穴を覗くと拡大像が見えます。
二重像になっているはずなので像が合致するようにボディ右側の F ノブを前後に回します。
※ 前フタは開いた状態でも閉じた状態でもフレーミングとピント合わせができます!
フィルムが貴重な時代(今もそうか?)の設計、便利です。ホントによくできています。
やっぱり近すぎてフレームからはみ出すしピントも合わないから撮るのをやめた、とフィルムを節約できます。
※ 最短撮影距離は約 1m です。距離計の目盛は m の場合と ft の仕様とがあるようです。
日本人ならフィートはなじみが薄いのでメートル m 表示のほうが直感的かもしれません。
※ ピントが合ったところでボディ上面の左にある扇型の小窓 G を見ると距離が表示されています。
焦点調整とレンズボードが連動していない構造のカメラ/モデルではこの距離を読み取って自分の手でレンズを回して距離/ピントを設定する必要がありますが、
このモデルでは自動的にレンズ位置を決めてくれるのでこの距離計目盛は要らないのです。しかしまぁ、付いているものは仕方がありません。昔のモデルの名残りでしょう。じっくり見つめて楽しみましょう。二重像の機構が壊れたら出番です。
あるいは移動体を置きピンで撮るときには役にたつかもしれませんな。
さて、上記の操作を頭に入れてから、フィルムを入れます。思わぬトラブルが待っています。
ありがちな症状と対処法も書いておきます。
・ボディ側面の Q の部分を上にずらして裏ブタを開きます。
・巻き戻しノブ B を引き上げます(巻軸 H も上に上がります)。
・そこに35mm判フィルムを入れます ..... 入りません!!
じつは縦に細長いバネ付きパネル J を手前に開かないとフィルムが入りません。フィルムをしっかり固定するための構造です。
・フィルムを K の部分をくぐるように(本体スプロケット/爪軸にフィルムの穴/パーフォレーション)が噛み合うように通します。
・巻き上げ軸 L の溝(スリット)にフィルムの先端を挿します。少し入っていれば充分です。
市販フィルムだと最初の数cmが舌状に細くなっていますが、自分で長尺から切り出したフィルムは細くベロをカットしておきます。
・巻き上げノブA を矢印の方向に少し回転させてフィルムを軸に巻きつけます。1コマ分を巻き上げると止まります。
・フィルムがたるんでいたらフィルムケース(パトローネ)側に押し込んでやります。フィルムが全体的に平坦になっていればOK
・巻き戻しノブ B を下げて元に戻します。
・裏ブタを閉じてボディ側面の Q の部分を下にずらしてロックします。
・前フタを開いてレンズを出し、シャッター速度、絞りを合わせ、シャッターチャージレバーを押し下げます。
・シャッターボタン C を押してシャッターを切ります。
・フィルムカウンターを時計回りにつまんで回してゼロにしておきます(つまみにくいです)。
さぁ、ここから撮影開始!
撮ろうとして1コマ巻き上げて、レンズ側のチャージを行わずにボディのシャッターボタン C を押してしまうと再びシャッターは切れなくなります。あわててあとからチャージしてもいったん切れそこねたシャッターは再度切れないのです。二重露光(同じコマで2回シャッターを押して重ねて写してしまうこと)の防止機構です。
★そんなときはボディ裏面の E ツマミを左に動かします(動かしたあと少し右に戻る)。そのあとチャージして C ボタンで再度シャッターを切ることができます。
※ シャッターボタンを「半押し」にした場合にも同様の症状が出ることがあります(デジカメに慣れていると、フォーカスロックのクセでついやってしまう)。
※ レンズシャッターを使ったことがある方は御存じでしょうけれど、本来のシャッターレバーが(5)であって、このカメラではシャッターボタン C と(5)のレバーをリンクアームで連動させている構造です。凝ったつくりですね。フォールディングカメラでこれを作るのは難しいですよ。
絞りやシャッター速度を設定しているうちに、(5)のレバーに触れてしまって本体の C でシャッターが切れないこともありました。マミヤC33などの二眼レフでもよく見られる症状ですね。噛んじゃった状態ともいいます。撮影していると気付くと思いますが、このタイプのカメラでは E ツマミが神のごとくアリガタイのです。
動作確認のため、シャッター速度が設定に応じて変化しているか、絞りが問題なく変化するかを確認したいことがあります。
これはチャージとシャッターを切る操作のたびごとに E ツマミを左に動かす、ことにより連続して空打ちができます。
もちろんフィルム無しでも可能です。 A ノブも巻き上げる必要もありません。
あまりE ツマミを乱用したくはないのですが .... アリガタヤ E ツマミ。
上記のとおり基本的には二重露光の防止機能を備えていますが、
フィルムが入った状態でシャッターチャージレバー(1)を押し下げて、E ツマミを左にずらすことで何回でもシャッターが切れます。
そうなんです。このカメラ、やろうと思えば多重露光の撮影もできるんです。イダイナリ E ツマミ。あ、また乱用。
クラシックカメラの世界ではフィルムを入れないとシャッターが切れないカメラ、よくあります。
故障していないか店頭で動作確認するときなどは、無理に力を入れて壊さないように気を付けましょう(お店の人に確認してから)。
まぁ、ネットで買うことがフツーになると今度は、届いたけど壊れているんじゃないか?と思うこともあるかもしれません。売り主も使い方を知っているとは限りませんしね。
古いカメラを趣味とする方はテスト用フィルムを必ず持っておくべきでしょう。
撮り続けるとフィルムカウンター D が撮影枚数を示しているので、おおむねわかりますな。
・巻き上げノブA を巻き上げられなくなったら終わりです。
・巻き上げノブA を持ち上げて時計回りに少しまわすと浮いた状態で止まります。
・E のツマミを左に動かしたまま、巻き戻しノブ B を矢印の方向に「ひたすらひたすら」回していきます。
・巻き戻しが終わって完全に軽くなったら Q をスライドさせて裏蓋を開きます。
・巻き戻しノブ B を上に引き上げてフィルムを取り出します。
・巻き上げノブA を反時計回りに戻します。巻き戻しノブ B も押し下げて元に戻します。
巻き戻しは丸いノブで折りたたみレバーは付いていません。巻き戻しはとても長く感じます。とくに36枚のフィルム。ひたすら巻き戻します。
くれぐれも途中で裏蓋を開けないように。途中で誤って開いてしまったらすぐに閉じて最後まで巻き戻します(けっこう救済できます:経験者)。
夏休みを利用して都内で撮影してきました。そのなかからいくつか掲載しておきます。
なお、社外品のグリップを改造してコシナ社の露出計を装着して撮影しています。
今回は珍しくカラーネガフィルムです。カラーフィルムは環境次第であらゆる色に転ぶので私はあまり好きではありません。
しかしながら、撮影直後に駅前の写真店に出すと1時間もすれば現像されて便利です。スキャンとCD焼きもやってくれますしね。
2011年5月が使用期限のちょいと古いフィルムを使いました: Kodak GOLD 100 x36枚撮り
業務用のカラーネガフィルムで当時280円でした。2018年8月に撮影。製造から10年ぐらい経過してます。
35mmFilm, Tessar 50mm/F2.8 , Kodak Gold 100 color negafilm ISO 100
やっぱり多少の色かぶりもありますがフィルムらしい発色ではありますな ...
前回説明したエクサクタ ヴァレックス / Exakta Varex もそうですが、初めて使うとワケワカラン仕組みというのは世の中にけっこうあります。些細なことでも知っているのと知らないのとでは全然違います。
ネット上を検索して断片的であれ使い方がヒットすれば幸運ですが、レア物だと過去にあったはずのサイトやブログが消滅していたりして...残念感が倍増。
まぁ、ウチのクレーンホームページは1995年からしぶとく運営していて、まだ私も死なずにやっていますし、がんばって(がんばらなくても)ダラダラ運営していくと思いますが、突然死ぬかもしれないのでこのページを見つけた方々は見つけ次第すぐにダウンロードしてローカルディスクなりクラウドのストレージなりに保存したほうがいいでしょう。
死ななくてもボケる可能性は高いので、記事に間違いや勘違いがありましたらメールでヤサシク教えてください。
記事がお役にたてれば本望です。
記事:2018年9月15日 2019年8月9日 部分更新
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