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■ Title: L'ENCYCLOPEDIE "LUTHERIE" /
1767 Paris /Copperplate engraving
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しばらくぶりに版画コレクションコーナーの更新です。今回はちょっと珍しい作品が登場。
1767年に印刷された楽器に関する文献のなかの1ページ。当時のこの文献は管楽器、打楽器、鍵盤楽器、弦楽器といった広範囲の楽器図鑑的なもので、ガンバやチェンバロも掲載されていました。全てのページは銅版画による片面印刷で、それを糸で綴って本にしていたもので、今回紹介しているのはそのなかの弦製造に関する道具の1ページです。
インターネット上で海外の弦楽器の版画に関する情報を集めていると、時々この文献の一部が版画作品として流通していることに気付きます。散逸した文献を元通りの1冊に戻してみようか?と思い立ち、18世紀当時に印刷された断片を地道に私は集めていました。例えばオルガンやハープの紹介されたページ、あるいは管楽器のページなど、いくつかを所有しています。
ところがその後、復刻本が出版されたことを知り、ちょっとショックでした(笑)。 フランス/パリの出版社による2001年に発行された復刻版の書籍は現在でも入手できます。多くのページが見られるので、考えようによっては今後のコレクションの不足を調べるのにも役立ちますけど....(←ポジティブ志向)。
「L'ENCYCLOPEDIE」DIDEROT & D'ALEMBERT LUTHERIE
私はその復刻本を2003年にアメリカの学術書専門店から $28.95 で購入しました。フランス語が読めなくとも図鑑として十二分に楽しめる内容です。復刻本はA4サイズより若干大きめのサイズで構成されていますが、オリジナル(当時)の版画による文献はB4程度のサイズであり、楽器によってはおよそB3サイズを折り込んだ大きなページも含まれています。つまり、復刻本はだいぶ縮小印刷されていることがわかります。
知る人ぞ知る有名な文献でもあり、この冊子に掲載されている図版は現代の楽譜や音楽雑誌に引用されているのをよく見かけます。イギリス(製造販売はアメリカ)の羊腸弦メーカー「ガムート社(Gamut)」はこの版画のなかの巻弦製造の図を自社製品のパッケージに採用しているほどです。
この版画をよく観察すると昔の楽器の弦(羊腸)がどのように作られていたかを知るヒントを多く見つけることができます。
巻弦に関してはGibson社の古いカタログからもわかるように、古来より1920年頃までは、基本的に巻弦の製造は「手作業で芯線に金属線を巻き付けていた」ことが伺えます。また、今回の版画のなかの Fig43,49,50 のようにガット(羊腸)弦を均等な太さに加工するために、鮫革でクランプして弦を回転させて研磨していたことも推察できるでしょう。同様にキャリパーやクランプツールの類が多く見られることから、当時も弦の精度確保に苦労していたことが考えられます。現在、私もときに羊腸から弦を作りますが、今も昔も同じような悩みと工夫があるのだと深く共感します。
版画に登場する道具のいくつかは用途(使い方)が想像できるのですが、その他の謎のツールの数々を見ていると、おそらくは現代の私達が想像する以上に高品質で精度の高いガット(羊腸)弦を当時の人々は作り出していたであろうことに驚かされます。現在楽器店で入手できるナイロン弦のなかには0.03mm程度の誤差が含まれるブランドも少なくありません。私の限界はせいぜい精度0.01mm。しかしノウハウを持つ昔のメーカーであればより高い精度でガット弦(羊腸弦)を作ったでしょう。21世紀の高度な加工技術を有する現在社会に生きる私達は、まだまだ18世紀の弦製造職人達の域に達していないのかもしれません。また私個人も、そこそこの精度の弦が作れることに満足している自分が恥ずかしくなります。
それともこんな版画を見て一喜一憂する私は頭がおかしいのでしょうか(笑)。 道は遠い..... 。
印刷面サイズ
350mm x 205mm