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■ Title : GRACE(孔雀/優美)
画家:Herbert 彫師:John Sartain (1808 - 1897) 銅版画:メゾチント/エングレイビング
Artist: Herbert/ Engrave(Mezzotint, Engraving) / Ca.1850
● 孔雀(優美)
メゾチント技法による銅版画。印刷面サイズ:145mm x 113mmですから、おおむね「絵ハガキ」サイズですね。
宮殿の中庭?らしき所でお嬢さんがリュートを弾いていると、飼っている孔雀様が「そろそろ腹がへったよ〜〜〜、昼御飯にしようよ〜〜」と騒ぎだし、優しいお嬢さんは「よし、よし、わかった、わかった、イイ子でちゅねぇ、お昼にしませう.... 」となだめている様子... に見えます。違うかな?
● 楽器
で、毎回のごとく楽器を見てみましょう。 あれ? 今回は裏側だけ? おそらくリュートに見えますが、リブは11枚。ヘッドは略されており、ペグは7本ぐらいしか描かれていません。ボウルに光沢があることから塗装はグロス仕上げでしょう。ヘッドに紐が結わえてあり、床を這っておそらくはエンドピンに伸びていると思われます。ネックに対してヘッドが傾いていますが、これは元の絵がそう描かれていたのでしょう(パースが少しおかしい)。 楽器に被さっている冊子は曲集/楽譜(タブラチュア)に見えますが、四つ角を革のプロテクタで装丁されていることから、貴重な文献として大事に扱われてきたものかもしれません。よく見ると1枚の手紙らしきものがこの曲集に挟まっており、たぶん恋人からのラブレターと見るのが絵画的解釈でしょうな ... 。
元の絵は Herbert が描きましたが、彫ったのは John Sartain。衣裳のキメのこまかさ、シルクの光沢、肌や影部分の自然なトーン、そして背景の雲や木立の陰影.... スバラシイ。 このお嬢さんの顔の拡大画像を御覧ください。顔の直径は約1cmです。 ドットで輪郭を彫り、眼や帽子は引っ掻いていますが、首元や髪の中間トーンがじつに巧みに表現されています。彩色されていないのでヴァーニッシャーのような道具で彫った(磨いた)のでしょうけれど、いったいどうやったのか詳細は不明です。 これはもう、彫ったSartainさんを賞賛するべきでしょう、パチ!パチ!パチ!パチ! あなたはエライ!!
● メゾチント技法
メゾチントは銅版画の技法のひとつで、ドライポイントと同様に引っ掻いて描画していくことから、直刻法(直接法)といいます。銅版画というと、一般にはいわゆる金属板を腐蝕するエッチング技法が広く認知されており、それは腐蝕法(間接法)と呼びます。直接彫るか、腐蝕させるか、で作成過程や表現手法も大きく異なることから、銅版画の世界では対照的に用いられ、評価されてきました。私もメゾチント技法を始めてわかったことは、エッチングとはまったく別世界で、とりわけ明暗の中間トーンが表現しやすいことから、人の手技がより大きく作品に反映される技法、という印象を持ちました。 ただ、2013年現在では、国際的にみても少数派の技法かと思います。現代ではエッチングが大多数ですからねぇ....。
メゾチントは日本では20世紀中期頃から人気の高い技法で(日本人向きの技法なのかな?)、長谷川 潔や浜口陽三などがよく知られています。ただ、大家や巨匠と呼ばれる彼らの作品ですが、私はまったく興味が無く、むしろ19世紀以前のこういった銅版画作品でメゾチント/直刻法(直説法)を知ったので、現代のメゾチント作品を見ても、なんだか輪郭がぼやけて、全体に暗いなぁ、という印象を受けます。おそらく美大などで「長谷川潔や浜口陽三は巨匠である」と刷り込まれていないこともあるのでしょう。なにしろ私の場合は独学ですから、直感的で自分に偏った見方になるのだと思います。
彫り師のJohn Sartain はアメリカに於けるメゾチントの先駆者。 1808年、John Sartainはイギリスに生まれ、早くから絵画や版画を学び、メゾチント技法は18歳の頃から取り組んでいました。22歳でアメリカへ移住し、10年間ほどは象牙に小さな肖像画を描いたり、紙幣のデザインの仕事をしていました。 1841年から「グラハム・マガジン」という刊行物の挿絵を彫るようになり、それをきっかけに仕事も増え、評価も高まり、成功していったと記録にあります。19世紀の当時、大規模に絵画の複製やイラスト等を手掛けており、それら膨大な挿絵の版はおそらく彼一人で彫ったわけではなく、職人を雇い、ひとつの工房/企業としての「John Sartain」として製造していたものと思われます(当時の弦楽器工房と同じですな)。彼の多くの作品において、紙幣の図柄を彷彿せる非常に緻密で高度な技術をみることができます。
● 彫り師のJohn Sartain http://en.wikipedia.org/wiki/John_Sartain
紙のサイズ:225mm x 145mm
印刷面サイズ:145mm x 113mm
裏面:ブランク
備考:メゾチント