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ちょっと油断してると、すぐにくだらないことを思いつき、一人でもがいて製作し、完成品を自ら傑作と讃え、悦に浸る.... それがCRANEの私的素敵頁(してきすてきぺい)のコーナー。
今年の夏も静かに熱くナイス・ペイっ!
● 今日の私的素敵PAYは「蚊取り線香スタンド」です。
私は蚊取り線香が好きだ。
仏壇に供える線香やアロマオイルはわざとらしい香りがどうも苦手。女性が使う香水のたぐいもたいていダメ。つまり臭いや香りには自分でも驚くぐらい激しく敏感。蚊を退治するならベープマットみたいな電子式もありますが、あれはすぐにノドが痛くなります。それで、永いこと緊張、じゃなくて、金鳥の蚊取り線香を使っていました。緑色のアレね。定番ですな。独特の香りと煙で、蚊もポロポロと死んで落ちていきます。気に入ってます。
ただ、.... そのスタンドが残念。
金鳥の純正蚊取り線香スタンドは今まで何度も改良されてきてはいるんです。オマケみたいなもんだから、これでいいじゃない。という見方もあるでしょう。たしかにそうです。でも、私はこの金属の線香台を見ていると、子供の頃に蚊取り線香で遊んでいて(←遊ぶなよ)、これで指を切った苦い経験を思い出したりなんかして、..... あ、いや、それ以前にカッコ良くないですね。味も風情もあったもんじゃない。
というわけで作りました。工房クレーンが蚊取り線香台を作るとこうなります。
【作品:冷奴】 写真1 写真2
どうです。ちょっとクールで、ヒンヤリ涼しげでしょう? 裏には工房焼印入り。象牙は例によって19世紀のピアノの鍵盤から採取したもの。四隅は45-45度に加工してます。 金具はギターのバーフレットにも使っている洋白(ニッケルシルバー/洋銀)です。
金具の先端部分で挟む構造が特徴です。従来のスタンドは挿すだけでしたが、CRANE方式だと挟むのが面倒ではありますが、かなり安定します。加えて高さを低く抑えたことで低重心とし、結果として台座を小さくできるのです。
情けないことに、自分の作った線香台を見て冷奴が食べたくなりました。モデル名は冷奴「ひややっこ」と名付けましょう。
写真に出ているように、このテの作品は皿も重要です。上の写真に写っている白い皿は直径16.3cmです。平均的な渦巻き蚊取り線香の直径は10.5cmであることを調べ、それに見合うような皿もあるべき、と考えて調達しました。かなり傷んで使用感に満ちていますが、皿を重ねて焼いて癒着した痕跡もあります。味ですな。朝鮮半島の昔のスタイルの皿でしょうね。焼き物には詳しくありませんが、コーディネートは悪くないと悦に入りつつ、気に入ってます。
従来の蚊取り線香スタンドには無い重厚感を無駄に求めてみました。
NHKの石澤典夫アナウンサーの声で、「さかのぼり日本史」風に読んでください → 国宝「黒檀象牙蚊取線香台冷奴」(ウソ)
● その他の蚊取り線香スタンド
直方体のほかに丸形も作ってみました。
【作品:オレオ】 写真1 写真2
オレオは直径52mm。メイプル材の両面を本黒檀でサンドした台座です。おいしそうですねぇ ... 。もちろん、裏には弦楽器工房CRANEの焼き印があります。ハワイアンは台座の底部は本黒檀ですが、上はハワイアン・カーリー・コアです。2002年に作って海外でも話題になったダブルネックのウクレレ「CRANE Harp Ukulele」の端材から作っています。希少で高価な木材ですね。
ウチの工房で製作したどの蚊取線香台も、先端は基本的に挟む構造です。
え? 従来の線香スタンドみたいに短くなったり折れた線香は使えないの?
いえいえ、ちゃんと先端形状を工夫してあるんです。デザインを凝らしても、機能を損なってはならんのですね。
あえて欠点を挙げれば、最後にわずかに残った線香の端部が下に落ちて、台座が焦げる可能性があります(笑)。
ま、それも味ということにしておきましょう ... 。
● 人に害のある蚊取り線香?
蚊取り線香あってのスタンドです。
蚊とり線香は、そもそも除虫菊(ジョチュウギク/シロバナムシヨケギク)という植物に含まれる ピレトリン という成分で蚊を懲らしめているらしいのです。天然の成分で、虫は苦しむけど人間には基本的に害が及ばないってヤツですね。そういえばウチの花壇の菊族には虫食いがまったく無いなぁ。昔の人はうまいこと考えたものです。金鳥の創業者である上山栄一郎が蚊取り線香の発売を始めたのが明治23年(1890年)ですから、もう120年以上も使われているわけです。
あっというまに全国へ普及(海外でも愛用されてたりする)。会社も大きくなって大日本除虫菊株式会社として金鳥ブランドを国際的に確立しています。大阪の会社なんですね。
ところが、この金鳥の蚊取り線香、戦後に改良がなされて、かなり強力になったとか ... 。現在は除虫菊の天然成分ピレトリンはほとんど使われておらず、住友化学の化学合成された殺虫剤成分 ピレストロイド/ピレスロイドを使用しています。金鳥以外のメーカーやブランドの蚊取り線香でも同様にピレスロイドもしくはその同類のアレスリン や メトフルトリンが使われています。私も子供のころから金鳥の定番製品をずっと使ってました。緑色のよく見かけるタイプですな。上の記事の写真にも写ってますね。
しかし、近年話題になっているのが、この ピレスロイド系 って、人体に害があると... 。でも、たいして害は無いという人もいるし、ライオンケミカルの蚊取り線香は「安全で効き目の強いピレスロイド」と謳って販売しているほどです。今まで私が愛用してきた緑色の蚊取り線香は、人体に有害な殺虫剤のスプレーを室内で噴射し続けるのと同じだった!? ひゃ〜!
金鳥ではこの事に対処すべく? ずいぶん前からホントに天然成分の蚊取り線香だよ、と謳った別の製品を販売しています。そう、金鳥自身も蚊取り線香はピレスロイドとピレトリン の2種類を販売してるんですね、これが。
それなら、ということで、
アマゾンで検索すると、出るわ、出るわ .... どこのメーカーもブランドも、近年は一斉にピレトリン系の製品に力を入れていることがわかります。
【ピレスロイド /アレスリン / メトフルトリン 系の商品例 】
【天然ピレトリン系の商品例 】
夕顔なんかはフツーの夕顔、新夕顔、最高級夕顔なんてのもあります(笑)。そこで、私も試しに天然素材のものをひとつ、と思って、まずは金鳥の天然ピレトリン蚊取り線香を買ってみたんです。昔ながらの臭いがけっこう好きなもんで.... 。でも、届いてみたら外箱には成分らしきことは書かれておらず、かわりに箱を開いたら不自然な箇所にビッシリと説明が印刷されていて、しかもピレトリン系のはずなのにピレスロイドだと書いてあるんです。謎です。
ウ〜〜ム、なんかおかしいなぁ... と思いつつ、信用できるピレトリン系の蚊取り線香は無いのか? と考えました。で、...このほかの数社の製品を買って試してみたんです。どこのメーカーも黄色というか、枯草色というか、黄土色です。緑色はありません。そしてたいていは香りもほとんど無い。なんだか木材を焼いているような臭いです。そのかわり刺激臭もなく、煙の量なども含めて各社、性質に大差無いようです。
実際のところ、使ってみて感じたのですが、ピレトリン系の蚊取り線香は蚊を殺せないんですよね。「遠ざけることはできてもピレスロイド系みたいにポロポロと蚊が死んで落ちてくることはない」というのが現時点の私の感想です。ははぁ.... だから金鳥さんも苦労してるんだ。
しかも、市販されている多くのピレトリン系の蚊取り線香は製造国が日本と記されていても、原料は中国やケニアで栽培・加工されています。「だったら、従来のピレスロイド系のほうがいいじゃないか」と感じる人もいるかもしれませんね ... いったい、どれを買えばいいんだろう? 困ったもんです。
どなたか、オススメの蚊取り線香があれば教えてください(笑)。
● 今日のPAY
というわけで、今日のペイです。
黒檀も象牙も、ハワイアンコアも昔作ったギターの端材です。人は端材と呼んで軽視しがちで、捨てられることがほとんどですが、ウチの工房はほとんど捨てたことがないです。ストックしておいて、かなり小さくなるまで木材は使います。
で、今回のPAYは金属材料ですな ..... 。
洋白板1枚: 0.5 ×100 ×180mm 1350円 でした!
じつはこれもギターやマンドリン等のバーフレット材料として、工房にストックがあるのですが、値段のシールが付いたままでしたので、価格も書いておきます... 。 デザインの段階で銅や真鍮も考えたのですが、今回は洋白にしてみました。
記事掲載:2012年6月17日 各製品の最新情報はメーカーサイト等で御確認ください。
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