|
● 過ぎ去ったブームをほじくりかえし、あらたなスッタモンダを提起するコーナー、それが私的素敵頁(してきすてきぺい)。
● 今、なぜかアナログでテキトーなカメラ
2001年頃からでしょうか、じわりじわりと、しかし確実にファンを増やしているのが「ピンホールカメラ」。一時はかなりの人気でワカイ女性相手に通販(フェリシモ)が盛況だったことも記憶に新しいです。一過性のいわゆるブームかと思っていたら今年になって新製品が発表されたり、写真コンクールも盛んになったりと、ひとつのジャンルとして確立されそうな地道な勢いです。そういえば近年、鉄カメラが再注目されているようで、フィッシュアイの超広角レンズでペットをクローズアップ撮影して鼻デカ写真を撮るとか.... たしかにアナログカメラの遺産は莫大なものがあり現在のデジカメはまだレンズやアクセサリのラインナップ(多様性というべきか?)といった面では立ち遅れています(2004年5月現在)。かくいう私も一度はアナログカメラをすべて処分しましたが最近は何を血迷ったのか? 再びアナログな世界にひたっております。先日、十数年ぶりに新宿のカメラ店(もちろん中古ショップ)に出掛けたら店内に入れ替わり立ち替わりでワカイ女性がやってくるではありませんか。昔は写真趣味なんていうとオジサンか機械ヲタクの代名詞のようなものでしたがなぜかここへきて雰囲気が違います.....なんで?
で! デジタルカメラ全盛へと確実に向かっている昨今、「ピンホールカメラ」が人気を得るのもわかるような気がします。とってもアバウトでありながらしっかりアートできちゃったりするのです。ヒミツはやはり長時間露光とパンフォーカスでしょうか。デジタルカメラって、どれもキッチリ撮れて冷静に見るとつまんないんですね。だからこそ腕やアートの感覚が問われるのかもしれませんが......。
今回はロモグラフィック・ソサエティ・インターナショナルが開発した「ロモグラフィ」を紹介します。直径0.2mmの穴が空いているだけのガラスのレンズをもたないカメラ(ちなみに絞値はF=138)。カメラの起源とされるカメラオプスキュラの原理そのまんま。暗箱の壁に小さな穴を開けると逆さまに像を結ぶというモノですね。かつて各社からいくつものピンホールカメラが発表されてきましたが、おそらく「ずっと使いたい1台」となるとこのロモグラフィでしょう。
・ブローニサイズフィルムの採用
・1台づつ木製の手作り(シリアル番号付き)
・比較的キッチリ、ピントが合う(限度はあるけど)
・6 x 6 の正方形のフレーミングの魅力と魔力(同社6 x 7 モデルなども有り)
まずは次の作例4つを御覧ください。これらの作品は私がロモグラフィを使って実際に撮影したものです。画像をクリックすれば写真が別ウインドウで拡大表示されます。
↑クリックで拡大画像
【写真左上】
・ふだん見慣れたフィルムのサイズといえば36mm x 24mm
が一般的ですが黄金分割比うんぬんもさることながら正方形もなかなかのものでしょう? このピンホールカメラはブローニサイズフィルムを6cm
x 6cm
でフレーミングするため、スクェアな構図が新鮮に感じます。私は個人的にこういったカメラに正方形はお似合いだと思っています。今回はモノクロフィルムの作品のみ掲載していますが、カラーでも撮影しました。モノクロのブローニフィルム(120フィルム)は200円ぐらいですから案外手軽でしょう。あと、このカメラにはビューファインダーが付いていませんが正方形でのフレーミングは案外難しいものです。これほど撮影者のカンを刺激するカメラも珍しいでしょう。
参考写真:一般的な35mmカメラとブローニ6x6の画角比較(人物も比較あれ)
超スローシャッターが基本です。絞りの値は使い捨てカメラ(レンズ付きフィルム)では F=8 ぐらいで固定ですが、同じ固定絞りでもこのピンホールカメラは F=138 ということで...... 露光にやたらと時間がかかるのです。1枚目の作品(写真左上)は新宿駅南口の階段を下りた地点から東口方面に向かって撮影しています。晴天で日差しは強めであったのですが、露光時間(シャッタースピード)はASA100のフィルムで約4秒。立ち話をしている中央の3人(キャッチセールスともいふ)は比較的像がはっきりしているものの、周囲の人々はさすが新宿、足早に横切る人がほとんどのため雲のごとくぼんやりと写っています(ほとんど見えない)。わずか4秒のあいだに数十人がカメラの前を横切って..... それはモヤのごとくかろうじて影を残すのみ...... 。
【写真右上】
・ピンホールカメラの特徴として、コントラストが低く、ピントもソフトフォーカス気味になる点が挙げられます。手ブレもひとつの味といえましょう。この写真は交通量の多い甲州街道(国道20号)をたくさんの車が走っていて、手前には放置自転車とバイク、そしてわずかな生垣が風に揺れています。太陽はビルの端からまさに逆光となって私の正面に挑み、画面全域に容赦なく光を浴びせているのです。ここは南フランスか?(謎) 動体の流れるような動きと微少な手ブレによる光のにじみはさしずめ印象派を感じさせます(^_^)。 ぜひともカラー撮影も試すベシ! 写真なのに色がカンバス上でかきまわされているように描写されるのです。ヒトもクルマも自転車も生垣もお陽さまもみんなでたわむれるのであります.......
。それにしても激しい太陽ですね。
【写真左下】
・手元から無限遠までピントの合う、いわゆるパンフォーカスにかけてもピンホールカメラの独壇場。露光時間(シャッタースピード)はおよそ5秒。幅約2mの路地は両壁が見上げるほどの高いビル....
これもまた新宿。ゆるやかな坂道をこちらに向かって降りてくる人物はシャツの白さだけを帯のごとくフィルムに留め、それがどこの誰であるのかはどうでも良いと.....
これもまた新宿。見上げると薄暗く物騒なこの路地には昼間なのに街灯が点きっぱなし.....
これもまた新宿。
【写真右下】
・新宿西口から都庁を望む......
午後5:15 夕暮れから夜へと移りゆく横断歩道前にて。露光時間は約20分間
.........
家路を急ぐサラリーマンがひっきりなしにここを通り過ぎていきますが、開きっぱなしであるはずのシャッターは人物をとらえても描写していません。みんな忙しいんですねぇ....。路面のタイルや建物の輪郭に見られるようにカメラを固定することでかなり輪郭のしっかりした像を得ることができます。とくに夕方や夜間の長時間露光で10分以上、あるいは20分以上にわたる撮影ではカメラ自体を放置、おっと、固定したままにすることでこのような像を得るのです。ピンぼけだけがピンホールカメラの魅力ではないのです。よく見ると街路樹の枝葉が揺れているのがわかるでしょう、まさに風が写っているのです。完全に動体を抹殺するカメラでありながら見えないはずの風の動きは描かれる........
じつに不可思議なピンホールカメラの世界。
● 現像して...... そのあと引き延ばして紙焼きするもよし。お気に入りは額に飾るという古くからの習慣もよいですね。でも私はラボには現像のみを依頼して、フィルムをスキャナから取込んで使うことがほとんどです。そのほうがお金がかからないんです。フィルムからの取込ですが、我が家のスキャナは恐ろしく安価なモデルで透過原稿用のユニットなど付いていません。そこで、ライトビューワ(ライトボックス)を使ってムリヤリ取り込んでいます。光量はフィルムとライトのあいだに紙を挟み、その枚数でコントロールします。フィルムを保管できるのは大きなメリットと考えていますが実際に使うのはホームページ、もしくはリサイズしてプリンターからの出力だったりですから...... 。紙焼きが必要な場合は「ベタ焼き」でラボ(D.P.E)に依頼することはあります。ポラロイドのピンホールカメラは手軽で面白いのですがやはり色味やシャープさの点ではネガ・フィルムがお薦めです。露光に慣れてきたらポジ・フィルムもいいですね。
しっかり撮影.... といっても手ブレが味でもありますが、ピントをしっかりとりたければ三脚があったほうが良いでしょう。カメラの基本原理として絞りがある程度を越えて極端に小さくなると光の回折現象が起こります。ピンホールカメラではこれがボンヤリ感を演出する原因であるわけです。あと、フランジバックがフィルムの反りであやふやになりがちなので私の場合はアジャスタブル・プレートをボール紙で自作して使っています。フィルムを装着したあと、裏蓋とのあいだに挟みます。これで平面度はだいぶ改善されます。もうひとつ、ついでに露出補正表を縮小プリントしてカメラに貼っています、これはとても重宝します、いちいちマニュアルを引っ張り出さずにすみますから。
● さて、気になるお値段は...... 現地?価格で US$165.00 らしいです。送料やら関税やらを含めると2万円ぐらいでしょうか。 この$165.00が高いか安いか? 真鍮パーツで1台1台すべて手作り。細部を見ると随所に試行錯誤の跡がうかがえます。簡単な構造ですが実際に作ってみないと、巻き上げ精度など思うようにいかないものです。製作したのはZernike Au 氏で保証書が付いています。もちろん、工作好きの方は自作してもいいですね(そのためにもひとつ現物が欲しかった)。
● 次は自作でしょうか............ 。
【関連サイト】
● Lomographic Society International(←へんてこカメラばっかり作っているのだ)
・http://www.lomography.com
・http://shop.lomography.com/microsites/pinhole/
●
ポラロイド社もなぜかピンホールカメラに力を入れてます。ピンホール80などの新製品も!
インスタントフィルムはランニングコスト高!....
と思ったら失敗作交換サービス登場!?
・http://www.polaroid.co.jp/
・http://www.polaroid.co.jp/product/business/pinhole/pinhole80.html
記事:2004年4月30日公開 2019年9月14日 部分修正
■ 私的素敵頁に戻る