■ ブリッジプレートの除去/修正(切削編)
● ブリッジはトラブルの起こりやすい箇所であるためその修理や調整で様々な手が加えられることがあります。歴代のオーナーが変わるたびに幾度にもわたりブリッジの剥離と再接着がなされたり、張りの強い弦で表面板ブリッジ周辺を痛めたり...... 外観ではわからないのですがブリッジプレートの追加は以外と頻繁に見かけます。
さて、今回のギターは19世紀初期のフレンチでヨーロッパの著名なプロの修復家によって近年修復されたものです。とても上品な楽器でプロポーションも良く雰囲気の良い楽器です。持ち主いわくブリッジの補強板が修復時に貼られているとのこと(次の写真を参照)。ブリッジ接着部の裏側(ボディ内部)の写真です。補強方法としてはシルクテープを使うこともありますが、それが困難な場合や充分な強度を得るためにやむおえずこういった補強板を貼らねばならないこともあります。
さて、写真のとおり補強板はなぜかトラ杢のメイプルで厚さは1.8mm〜2.0mm程度。ブリッジのサイズよりも少し大きな面積の長方形でカットされ強固に接着されています。さすがにプロの仕事でもあり、これは容易に剥がしてやりなおせるようなヤワな状態ではありません。さらによく観察すると濃いめのニカワを使って接着したようです。依頼を受けたのはこの厚みを減らして欲しいというもの。このぐらいの厚みでは強度的には充分ですが、たしかにやや過剰な補強であり、メイプルはこの位置には重い材料ですから半分の重量(厚み)へ修正することにしました。杢の入ったメイプルは経年変化で変形しやすいのであまりこういった箇所に使うべきではないと私は考えます。
ミニカンナを使って削って厚みを減らすか、もしくはこれぐらいの厚みであればサンディングして調整できます。今回は杢のはいったメイプル板なのでカンナをかけると逆に痛める可能性があります。後者のサンディング法でいきます。
雑な仕事をすると周辺を痛めてしまうのでまずはマスキングします。次の写真は補強板の周辺にガムテープを貼ったところです。ガムテープは表面をコートしてあるので摩擦に対して丈夫で粗目のサンディングにも充分耐えますが、そのまま貼るとあとで剥がすときにベリベリッと表面板の繊維まで剥がしてしまいます。ですから私の場合はいったん自分の腕にガムテープを貼って剥がして皮膚の油脂で粘着力を弱めてから使うようにしています。この「TSULTRA
マスキングテープ法」は他の作業でも両面テープや絆創膏などに私は幅広く用いている手法です。腕の内側でやるのがコツです。腕の表側とかスネとかでやると「たんなる脱毛テープ」になるので注意が必要です。
ベリベリッ........... ギャ〜〜〜! 痛い! 痛いっ!
もっと正確に厚みを出すには厚手のボール紙に 口 の窓をあけてそれを貼るか、もしくは凹型にボール紙を切って貼ることもあります。つまりボール紙の厚みの分まで削ってそれ以上削れなくなったら終わり。私はどんな作業も下準備をちゃんとやれば作業は正確に安全に行え、想定外のトラブルも回避できると考えています。何事にも準備や計画というのは大事だと思います。
さて、先にも述べたようにプレーンな木目のメイプル板ならカンナをかけますが、今回は杢の出た材なので120番のサンドペーパを使います。木材の堅さや厚みによっては80番や150番などを使い分けています。ブロックに両面テープでサンドペーパを貼りサウンドホールから手を入れてなるべく表面板と平行に手を動かします(なおかつ1弦と6弦のブリッジと平行)。ゴシゴシっと.....。時々指先で厚みを確認しながらの作業です。根気のいる作業で手も痛くなりますから休み休み作業します。時々手がつります。周囲をよく整理しておかないとギターを振り回して思わぬ事故になるので整理整頓しておきます。
ブリッジが剥がれている状態であればハックリンガーのシックネスゲージで厚みを定量的に測ってチェックしながら作業することもあります。
約1時間。目標の厚みを確認できたのでサンディングをやめ、マスキングのためのガムテープを丁寧に剥がします。見えない箇所を作業するのでサンドペーパのブロックは必ずしも思ったように動いていないものです。御覧のとおりガムテープの表面は削られて粗くなっています。
というわけで厚みを約0.9mmまで削る作業が完了。およそ半分の厚さですが強度的には充分です。もっと薄くしてもいいのですがブリッジ側の損傷の度合いが明確でないのでこのぐらいが無難です。重量もおそらく8gぐらいあったものが4g程度まで減っているはずです。写真のようにマスキングテープの効果によって本来の表面板にはダメージはありません。
● こういった作業は腕がゴツいと困難なのでいったん減量してから修理にとりかかるといいでしょう(ウソ)。
● サウンドホールから手を突っ込んで作業するのでサウンドホールから手が届く範囲内であれば有効な方法です。周辺に斜めのバーがあったりブリッジ位置がボトムに寄っていると手が届かないので他の方法をとらざる得ません(裏板のオープンなど)。