■ 全塗装(剥離と再塗装):擦弦楽器チェロ編
● 作業完了
オリジナルERAやヒストリカル・コピーの楽器であれば塗装どころか些細な修理でも絶対に私は引き受けませんが、今回の楽器はモダン楽器ですから存分に遊ばせてもらってモダンCRANE風に仕上げます(なんたってパーフェクションペグまで付いてます)。
塗装を極薄に仕上げ、全体はマット調になります。光沢が出る塗装はある程度の厚みがなくてはなりません。オーナーがどうしてもと希望するなら光沢仕上げも不可能ではありませんが、無数の傷などを削ったり埋めたりしたのち研ぎながら薄く塗装せねばならないので、塗装の工程と費用が増えて乾燥期間や納期も延びることになります。
とにかく前の塗装は厚かった。本来の楽器の塗装膜の20倍以上(私のふだんの塗装の60倍以上)の厚みがありました。剥離した塗料の廃材は剥離剤込みで洗面器2杯分。そのおかげで傷も埋まってピカピカに光ってたワケです。前の塗装ではラッカーが厚くて傷が埋まっていたので全体にわたって傷はほとんど気にならなかったのですが、今回はよく見ると傷もあります。
さて、楽器をタッピングしてみると、なかなかヌケの良い音です。再塗装前とはゼ〜〜〜〜ンゼン違います。アッパー・ブーツからウエスト〜ロアブーツへとタッピングしながら反応をみます。また、チューナを使って共鳴点を模索しつつ弦を弾いて弓で弾いてレスポンスをチェックします。
【各部分ごとの比較】
作業前と作業後の比較写真を掲載しましたので参考にどうぞ。左の写真が作業前、写真右側が再塗装後です。
【今回の作業で気付いたこと】
・ゴム手袋は選ぼう。
・チェロは指板構造上、楽器をうつ伏せの状態にして作業できないので厄介。
・一般の奏者は(チェロに限らずギターも)塗装の厚さや塗装の意味というものが充分に理解できていない(たぶん)。
・チェロは想像以上にデカイ!
もし、あなたが現代のクラシックギターを大きくて弾きにくい楽器だと一瞬でも感じたら、お店に行ってチェロをギター風に抱えてみましょう。おそらくほぼ全ての問題が解決するでしょう。