■ ブリッジのリペア各種(その2)
● ブリッジのトラブルといっても様々です。他の例も紹介しましょう。
● このギターの場合はブリッジの両脇に奇妙な突起というか四角いアクセサリシューのような?形状になっていて、もしかしたらここに装飾があったのかもしれませんが、現在は両方ともニカワがハガレて浮いている状態です。ま、いってみりゃ、フローティングブリッジだわな(ウソ)。ブリッジ右側はこのようにひとまずサンドペーパーで接着面をならしてやります。かなり磨耗・破損していますが全体を剥がして新しいブリッジを創らず、現状を可能な限り修正していくのが鶴田流であります。はっきりいって、新しくパーツを作って交換したほうがはるかに手早く、楽器の操作感も向上することはありますが......。
この狭い隙間にニカワをナイフで注入し、クランプで固定します、これは難しくない。このまま乾いて硬化するのを待つだけです。
さて、もう片方はブリッジが割れているだけでなく、一度剥離したパーツを傾けて再接着しちゃっていますのでいったん剥がす必要があります。この写真だと傾きはわかりにくいのですが、このままではミットモナイのです。
水をひたしてときどき水を加え、数時間〜1日ニカワを溶かします。そこへ塗れた布でスチームアイロン攻撃!
ナイフでちょちょいとやればうまく剥がれます。間違っても力づくで行ってはイケマセン。
亀裂と余計な老廃物を除去し、整形します。過去のテキト−な剥離と再接着でパーツの一部は欠損しています。ローズウッドの小片で微少パーツを複製し、組み込んでやります。壁画の復元作業みたいだな、こりゃ.....。
材料がよくわからないのですが、おそらくローズウッドに近い木材だと思われます。こういったブリッジの形状は18〜19世紀頃にスペイン界隈で見られます。
あとは接着角度と接合部を確認してニカワにて接着・クランプすればOK! 翌日には硬化完了。このウエーバリー社のクランプは非常に使いやすいです。
● もうひとつ参考までに。
海外のショップではパーラーギターというと、ちょっとお気楽な?ギターという軽いイメージらしいのですが、小ぶりで細めのボディを持つ古いギターは、よっぽどの高級品と認知されない限りはたいていそう呼ばれてしまいます。これは20世紀初頭のスチール弦のギターですが、オリジナルのブリッジは紛失し、かわりに白木のブリッジを黒く塗装してボルトでバッチリ? 表面板に固定してありました。しかもご丁寧に裏側からスチールのサンドイッチプレートまで付いていました。表面板の大きな割れが数箇所、側面やその他の大きなクラックが数カ所、ビンディングも剥がれ、糸巻きも付いていません........普通ならとっくに捨てています.....このギターが、かの Washburn と気付かなければ......。
サドルはフレットが打たれていますが、ここのフレット自体は比較的最近の(30〜50年ぐらい前)ものです。19世紀ギターなどでも当時オリジナルでサドルに金属フレットを使った例はありましたが後世になって修理のときにモダンなフレットに交換されてしまうことが多かったようです。
歴代オーナーによって可愛がられて?数十年........このブリッジは幾度となく剥離、せん孔、接着を繰り返し、クタクタになって最後にたどり付いたのがクレーン工房。なんとしてでも元の状態に戻してやらねば......。
過去の数回にわたるブリッジ交換歴のなかでいくつものオプション?ホールが開けられており、6弦ギターのはずが大小12個の穴を持つに至りけり....ああ無惨.....。ひとまず柳(ウィロー)の丸材を使って穴をふさぐことにしましょう。
開けられているブリッジ穴の角度は直角(90度)ではありません。従って、この丸材の埋め木は最初に先端を斜めにカットしておき、このように差してから内側に手を入れて長さを決め、エンピツでこちら側にカットラインをけがきます。糸のこでカットしてタイトボンドで埋め込みます。これを繰り返すわけです...。
紛失しているブリッジの形状を資料をもとに復元します。Washburnの当時の特徴はこのようにピン穴とサドル位置が異常に接近していることです。両脇のエグレはこのような均等なスカロップかもしくは舌(ベロ)の形状に斜めにスカロップさせたもの(おもにローズウッドかハカランダ材の場合)とがあったようです。ちょっと精巧に作りすぎたかな?
さあ、表面板のブリッジ剥離部分をお湯で絞ったタオルで拭きあげ、きれいにしておき、ニカワで接着します。表面板に傷を付けないようにクランプの足に保護コルクを貼っておくことを忘れずに.....。
ブリッジが接着完了したところです。表面板のクラックと側面板のクラック、ビンディング修正、フレット修正などを同時に行っています。表面板のクラックの色合わせは周辺の塗装と色を合わせるのでまだ作業途中です。
まあ、あとはせん孔してピンを打ち、弦高調整(別項参照)と仕上げていくわけです。
ふぅ...............。