■ クマラエウクレレ(傷だらけのクラック兄弟 編)
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ちょっとごぶさたのリペアコーナー、今回登場するのは亀裂だらけのヴィンテージ・ウクレレでございます。歴史的なウクレレ(Historical
Uke)といえばもうヌネス、カマカ、熊谷次郎直実(正しくはクマラエ)の御三家。いずれ劣らぬ名器たちでありますが、この御三家のなかでヴィンテージに属する(カマカの新しいものは除く)時代のウクレレを比較してみるとクマラエは他と比べて傷みの激しいものが比較的多いように感じます(皆さんどう思います?)。 クマラエは表面板のバーに特徴があって、ブリッジの少し上あたりに平たい板が貼ってあるのですが、これがバー(力木)と呼べるようなシロモノではなく非常に薄い板なのです。こういった構造の特徴もあってか、百年近く経過したクマラエは表面板がへこんできているものをよく見かけます。今回紹介する2本のクマラエも70年〜80年を経過しており、やはりそういった症状が見られます。どちらにも表面板の多少のへこみと亀裂、裏板にもいくつかの亀裂を持っていました.........ここでは2本の修理をならべて紹介します。さあ、まいりましょう.....。
入門テスト:ここに2本の兄弟ウクレレを示します。今回の修理を終えた2本ですが、各部の特徴を比較してどちらが兄さんでどちらが弟くんかわかりますかね?
● クマラエお兄さん(1916〜1920年頃製作)
作業前のチェック
まずはお兄さんから.....。表面板にはこの写真のように木材の収縮によって生じた亀裂があります。もうひとつブリッジの下部に木目に沿った亀裂がありましたがヘアラインクラックでうまく写真が撮れなかったため、のちほど修理後の写真を紹介します。
むしろ....問題は御覧のような裏板に見られる大小7箇所にわたる亀裂でしょう。ギターの場合でも古い楽器はこのような亀裂の例は多くみられます。過去に誰かが修理したようで、木パテを埋めた痕跡が広域にわたって確認できます。もちろんパテで亀裂を修理できるわけがありません。おそらくは当時の処置の数ヶ月と経過しないうちに木材の張りと取扱いのさなかで軽い衝撃によってパックリ口をあけたに違いありません。その後、だいぶほったらかしになっていたようで亀裂各所にはゴミやホコリや劣化した接着剤のクズなどがはさまった状態でした.......。中央のバッサリ斬られたような大きな亀裂はギャップの幅が約 2mm あります。
修理過程
割れてすぐに対処するほうが作業はらくですが、ここまでゴミが詰まっていると面倒です。まずは古いパテやゴミを除去します。デザインナイフや消灯....おっと(暗くしてどうする)、小刀を使って切り取っていきます。亀裂は斜めに走っているのでこれらはケースにもよりますが一般的には表面板と垂直に切り込むことが多いです。ルーターを使って一気に作業してもよいのですが私はのんびりナイフでやります...Zzzzz......(寝てどうする)。ホントは深夜の作業なので電動音の大きいルータが使えないだけなんですけど。ギャップの狭い亀裂は接着剤を浸透させてふさぎます。
次はおなじみのうめき声、おっと、(と、定番ネタもおさえつつ)、埋め木用のスリーブを作ります。ストックにあったハワイアン・コアの端を細く切り出しますが、スプルースやイチイなどと違ってコアは粘りの乏しい崩れやすい材料なので木目に注意してカッターを入れます。心配なら糸ノコでじわじわ切ってもいいでしょう。それを使ってギャップを埋めます。接着剤が乾いて硬化したらボディ内部より細長い帯状のパッチをあてます。このパッチの木目は亀裂と直行するようにパッチ自体の木目をとっておきます。こんな感じです。包帯みたいでちょっとハズカシイですが、アンバーのセラックでコートしておいたのでいずれ茶色っぽくなるでしょう(いつじゃ?)。
次に裏板のカーブ(裏板はわずかにふくらんでいるわけです)に沿ってノミでならします。そして240番〜400番ぐらいまでサンドペーパーでサンディングします。しばらく乾燥させます.....Zzzzzz....(夜中の修理は乾燥待ちでボ〜〜ッとしたり、うたた寝するんです)。亀裂のギャップを完全にスリーブだけで埋めるのが困難な場合はコアの粉末を接着剤に溶いてとのことして埋めてもよいのですが、あくまでピンスポット的な処置です。
さあ、あとは塗装作業です。今回はセラックのアンバーカラーを使います。塗布しては乾燥させ....を繰り返します。数回塗って翌日まで乾かし、また塗って......セラックも乾燥してからわずかに縮むので私の場合、様子をみながらのんびり作業することも多いです。裏板の塗装を終えたら、あとは表面板のクラックを埋め木とパッチで同様に修理し、部分的な塗装を施します。あと、ネックの痩せによるフレットの突起をならして部分塗装し、細部を仕上げて修理を完了します。
● クマラエ弟くん(1920〜1930年頃製作)
作業前のチェック
はいはい、そして弟さんでございます.....。これまたヒドイですね〜〜〜〜、キャッ! キャッ!(なぜかはしゃぐ私)。ここまで立派に壊れていると気分がいいものです(わたしゃ特異体質でしょうなぁ)。このテの亀裂(というか破壊ですね)はよく見かけますよ。原因はウクレレをうつ伏せ状態にして踏んづけた場合が多いのですが、ギターにも同様のケースを時折見かけます。じつはこのクマラエは側面も割れていました。親のカタキみたいに「ウォリャ〜〜っ!」とやられちゃったんでしょう...。2つの亀裂とブリッジ部分の写真も御覧ください、ブリッジのハガレ(紛失していないだけまだマシ)もポピュラーなトラブルです。
もしやと思って裏を見てみると....はいはい、期待どおり? 大きくて長いクラックがあります。
修理過程
表面板の短い亀裂のほう(1弦側)は過去に誰かが修理した痕跡がありました。木工用の白いボンドでテキトーに塗りたくってそのまんま...というじつにラフな補修のようです。その剥離に手間取りました....。
修理過程を掲載しようと思ったら、前例の解説とほぼ同じですので、すっとばして結果だけを掲載することにしました(手抜きともいふ)。裏板は割れてさほど年数が経過しておらず、下手な修理もされていなかったのでらくに対処できました。さきのお兄さんクマラエでも述べましたが割れてすぐに対処するほうが作業はらくな反面、誰かが修理したあとに対処するのは非常に厄介なのです。ですから修理痕のあった亀裂は私が修理を終えても多少の窪みが残ってしまいます。そんなの削って平坦にすればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、ヴィンテージ物のウクレレの表面板は1mm程度のものも多いので注意が必要です。修理を終えたあとの表面板の2箇所の亀裂を比較してください、御覧のように過去の修理の再修理を行うと汚れやすいのであります。あっ! 今気付いたのですが側面板や細部の修理(ブリッジ、底部、肩部分など)や塗装過程の写真を写し忘れていました......。
■ 修理完了写真1 修理完了写真2 修理完了写真3 修理完了写真4
・というわけでクマラエ兄弟はどちらも負けず劣らず立派な破壊状態であったものが、ひととおり修理にこぎつけて現在ではバッチリ(死語)、ハワイア〜〜〜ンな音色でポロロンと鳴っております。