■ ヘッドのリペアと糸巻き
● 古い楽器ではヘッドだけが交換されていたり、糸巻きが交換されているコトはよくあります。弦楽器ではいちばんよく動かす部分ですからパーツ交換は奏者の好みも手伝って現代でもよくみかけることですね。糸巻きは別名マシンヘッド(はいはい、そこのアナタ、ディープパープルなんてシャレてたら歳がバレますよ)とかペグと呼ばれることもあり、交換すると固定用の木ネジの間隔が変わってくることが多いのですぐにわかります。まあ、量産楽器はモデルと時代ごとに使われる糸巻きもだいたい決まっているわけですから......。手元の楽器のペグが壊れたり具合が悪くて交換する場合、注意としてまず巻軸(ストリングポスト)の間隔つまり軸間距離も計ってからショップに行かないと、メーカーによっては製造していないこともあります。現代の一般的な軸間は35mmですがラミレスのように39mmだったりすると注意が必要です。じつは計測して35mmだったとしてもヘッドに空けられた取り付け穴の位置が微妙にズレていたり巻軸の直径によっては素直に交換しにくいこともあるのです。19世紀の糸巻きには軸間33mmとか32mmとか31.5mmなんてのもザラにありまして巻軸も太いものから細いもの、あるいは形状も円柱でなく円錐に近いものなどじつに多彩です。、そして巻軸(ストリングポスト)自体の長さも一般的なガット用は29.5mm、スチール弦用で28mmが多いのですが20世紀初頭までの古いタイプでは27mm以下のものが見られ、これが長すぎる場合はネジ止めできなくなってしまいます。........とまあ、糸巻きだけで本が一冊書けてしまうでしょう。
糸巻きは修理といえば穴を埋めなおしてペグを交換というのが一般的な方法ですが、ここでは幾度も交換を繰り返し、骸骨のようになったヘッドの修理を紹介します。少なくとも3回以上は糸巻きが交換されていまして、そのつどしっかり古い穴を埋めてあればよいものをほったらかしにしてありました......すごいぞこりゃ......。ヘッドごと作りなおしてすげ替えたほうが早いかもしれません.....しかしまぁそうもいきませんなぁ.....。
まずはプレート固定用の穴を柳の楊枝で埋めていきます。あれこれ試したのですが、梨の木もしくは柳の楊枝が埋め木の堅さとしてはよろしいようです。先端部分は細くて使いモノにならないので切り落として捨て、ナイフでエンピツのように削って太さと深さに合わせてから打ち込みます。わずかに出っ張るように糸のこで楊枝をカットしたのちハンマーで軽く打ち込みます。この写真のネックのジョイントを見てドイツスタイルの楽器であることが想像できるアナタはクレーン通......。
このように片側だけで爪楊枝は9本も使って埋めねばなりませんでした。
プレートのコブがあたる箇所と巻軸(ストリングポスト)周辺の破損個所は梨の木で埋めることにしました。まずはクリートを切り出します。
梨の木のクリートは窪みの形状に合わせて彫刻刀で成形し、タイトボンドで接着して埋めます。それぞれの破損個所は形状が複雑なのでやたら時間がかかってしまいます。古い楽器の修理でナットから先のヘッド部分を切り落として交換されたギターもたくさん見たことがありますが、ここではオリジナルパーツを残すようにしています。
クリートを接着します。ちいさなクランプがあれば便利で確実に接着できます。隙間のある不完全な接着にしておくとあとでコブ用の窪みを掘るときに周辺を破損しやすくなります。
接着剤が硬化したらノミで平坦にならしていきます。え? エポキシでダァ〜〜〜〜ッと埋めちゃえば早いのにって?
リーマ等で穴をならしたのち塗装しておきます。このあとコブのある糸巻きであれば丸刀で加工していきます。コブのないタイプならすぐに糸巻きを装着します。
さて、プレートにはギア固定用の突起(さっきから書いているコブのこと)がついていることがあります。昔のギターでも現代のギターでもこのコブを無視して強引にその突起をヘッドに押しつけてネジ留めしてあるもありますし、丸ノミで突起と合わさる部分を削ってからネジ留めしてあるものとが見られます。 このまま装着すると隙間が生じるわけであります....。
もっとも次の写真のように最初からコブが出ていない構造の糸巻きもあるのです。これはよく考えて作られたプレートです。この写真を見ただけでメーカーがわかるアナタはクレーンホームページ検定2級です(謎)。
ここまでくれば一安心....とおもいきや、あとは組み付けでの注意がありまして、昔のペグはすべてマイナスネジで固定されています。現代のペグは基本的にプラスですから一応参考までに。真鍮製の皿ネジでマイナスってのはどこに売ってますかね? ウェーバリーやロジャースは買った時点で専用ネジがパッケージに入っているとして紛失したらどこぞから調達したいですけど....。ひとまず古い時計などのパーツや過去の修理などでとっておいたネジがあれば代用も可能....。キリで下穴を空けてからしっかりと固定します。
注:以下のギターは上記過程の楽器とは異なります。
参考までに....オマケの写真.....これはVRの糸巻き。御覧のとおり王冠マークが刻印されているのだぁ.......各部のつくりの良さをとくと御覧あれ。150年以上経過しても今なお現役...それどころか現代の糸巻きより具合が良かったりします......。
緻密に模様の掘られたプレートが美しいです、当時の職人さんのウデはなかなかのもの......。