■ バンジョーヘッドの交換
● さて、今回はバンジョー族の楽器におけるバンジョーヘッド(ボンバーヘッドではない)の皮の交換であります。とはいえ今回はじめて張り替えをやるのでちょっと不安というのが正直なところ...。私はバンジョーは弾けないのですがバンジョーウクレレは大好きでして、Gibson の UB-1 という楽器を一時期は4本も持っていました(あらら〜〜〜)。そのうちの1本がそろそろくたびれてきたようで皮の端が破けていまして、今回はそれをなんとか自力でなおそうというワケです。
補足:Gibson の UB-1 は1926年に登場し、1942年にかけて製造されたウクレレバンジョー(Gibsonの場合はバンジョーウクレレとは呼ばない)。楽器の全長は約57cm、ボディは6インチ(直径約15cm)とあってUB-2〜UB-5よりもかなり小柄。しかしながら木製のリゾネータを持ち、糸巻きはスプリング式のたいへん凝ったものが奢られていた。厳密にいうと糸巻きの直径や種類、弦長やボディ直径寸法、ドットインレイ、リゾネータ、テールピースなどの仕様が年式によってわずかづつ異なる。つまり常に改良を施し、マイナーチェンジがとめどもなく製品に反映され、ギブソン社がバンジョーメーカーの誇りをかけて本気で作ったベイビーGibsonなのだ!....と、鶴田は病的に惚れ込んでいる。
0. チェックと交換の準備:
さて、まいりましょう。まず弦やブリッジやブラケットフックをすべて外し、問題の皮も剥がして状態のチェックと交換の準備です。このウクレレバンジョーは皮(カーフスキン:牛皮)の端が破けており、なおかつ皮交換を行っていなかったせいか(あるいはコートしてなかった?)ワイアリング全周にわたってかなりのサビが噴いていました。
アメリカのStewmac社からバンジョー用の牛の皮(プラスチックとかファイバーとか他の素材も売られていますが)を購入しました。私はバンジョーについては専門家ではないので詳しく知りませんが、何たって S.S.Stewart ですからバンジョー関連商品についてはこの会社もこだわりがあるんでしょうね。皮を買うとA4サイズのプリントが付属してきます。いわゆる皮交換のインストラクションマニュアルでございます。これ、よく見ると解説文のフォントや図がレトロな雰囲気だなぁ〜と思ったら Copyright 1887 と印刷されています。つまりその当時の説明書が現在でもそのまま使われているわけです。う〜〜〜む、マンダム、ガンダム、黒部ダム.......百数十余の歴史を感じずにはいられません。私がこうやってスッタモンダやりながら皮交換をやってる100年前には同じプリントを見て同じ作業をやってた人たちがいたわけですから....。さて、今回はアリガタイことにこのインストラクションマニュアルを参考にしながら作業を進めることにしました。
1. まず皮をボディ(リム)直径より1.5cmぐらい大きめにハサミを使って丸く切り抜きます。そして水をつけたタオルで全体を軽くしめらせます。このとき水を吸わせすぎてだらしない柔らかさにならないように注意します(...と書いてある)。2〜3分待つと皮がやわらかくなります。皮の性質にもよりますが、厚手のものは数秒間水をくぐらせて手早く水を切ると良いでしょう、私もそうしました。皮は水にしめらすととても柔軟になります。やや硬めの春巻きの皮を想像していただくとよいでしょう。
2. 皮をリムにあてがい、太めの針金のようなワイアリング(フープともいふ:図中の白矢印)でフタをするようにかぶせ、少し押し下げます。ワイア・リングにはセラックかワニスを塗っておけばサビの発生を防ぐことができます。次に皮の端をめくり上げ、その皮の端をトーンリング(厚みのある金属環:図中の黒矢印)にくぐらせます。つまり、うまいこと言いくるめて文字通り丸め込むわけです。このとき太鼓のようにトップがピンと張った状態にするのでなく、ややたるませておきます。
3. トーンリングにブラケットフックをかけます。大きなバンジョーでは長めのフックで仮掛けして作業を楽にすることもできるようですが、この楽器の場合は小さいので手で押し込みながらそのままフックをかけていきます。フックはトーンリングに沿って円周に順番に掛けていくと皮が引きずられて全体がゆがむので飛び飛びにかけていくほうが良いでしょう。このときワイアリングに巻かれた部分の皮はトーンリングに挟まれてシワになったり、よじれたりしているはずなので指でそれらのシワを指でつまんで引っ張りながら整えていきます。
4. 徐々にブラケットフックを締め上げていきます。このときもトーンリングの外周に沿って順番にナットを締めていくのでなく飛び飛びの位置を交互に締めていきます。時々タッピングして張りのバランスや音色を伺いながら作業しても良いのですが、この時点ではまだ皮はしめって柔らかいので過激に締め上げてはイケマセン。皮が乾いてくると張りは強くなることを覚えておきましょう。
5. トーンリングからはみ出した皮をカッターかノミで切り取ります。あとは皮が乾くのを待って弦を張り、音色をみながらブラケットフックを調整します。解説書にはさらにその日の天気(おもに湿度)によって張りを調整し、さらに弾いてるうちに最初は皮がゆるくなりやすいので好きに調整せれと書かれているようです。事実、部屋を変えただけで温室度が異なるため張りの強さはゼンゼン変わります。逆にいえば様々な音色を1本の楽器で手軽に楽しめるということでもあります。UB-1万歳!!
補足:インストラクションマニュアルには、良い皮は破けやすいものなんじゃい、とか、おひさまに皮を照らす時間や気温、メンテナンス、寿命についてまでアドバイスされていておもしろいです。機会があればみなさんも御一読あれ(英語ですけど)。
さあ、バッチシ(死語)張り替えも調整も終わって弾いてみたら、イイのよ、なかなか、我ながら....新しい畳の気分です。マルコメみそというか手前味噌なんですが、前よりはるかにいい音。さて、バンジョーといえば私がすぐに思い浮かべるのが田代耕一郎 氏と有田純弘 氏であります(また一緒に飲みましょう:私信モード)。お二人ともギター関連の月刊誌等ですでにおなじみですが、皮の張り替えがうまくいって嬉しいのでさっそく田代氏に電話でバンジョーの皮について電話で聞いてみたら......
田代:「バンジョーの皮ぁ? あいかわらずマニアックだねぇ〜〜」
鶴田:「ガ〜〜〜〜ン!!」
そうなのです、いまどきバンジョーヘッドに天然皮素材を使う人はほとんどいなくて、ファイバー(プラスチック)製のヘッドを張るの一般的なのだそうですぅ....う.....う、ううううううううう〜〜〜〜.....。しかしまあ、UB-1
は当時天然皮でしたし、現存する楽器もたいていは皮を張ってあるので(ずっと張り替えてないという話もあるが
^_^; )まあ良しとしましょう。
それから、田代氏いわく、張りの強さには時代の流行もあってパンパンに強く貼ってキンキン弾くのが流行したり、けっこうゆるく張る人たちもいたらしいのですが、最近は比較的標準的な張りの強さで弾くようになっているのだそうです。あまり強く張ると案外かんたんに破けるそうです、ご注意あれ。まあ、そんときゃまた張ればいいんですけど....。
参考:バンジョーのことならイギリスのサイト....HALSHAW MUSIC ここが頼りになります。でも日本語で、かつ日本国内のショップなら東京・お茶の水:イシバシ楽器店 ロックサイドの藤野実 氏を訪ねてみるのが正解でしょう。今回このページの記事も監修いただきました、ありがとうございました。また、強力な業界コネクションでふだんからなにかと御協力頂いている田代耕一郎 氏にもあらためて感謝であります!