■ 修理・修復前の準備
【観察・記録】
● 私の場合は修理前の状態とその過程と仕上がりの状態を可能な限り写真で記録として残すようにしています。楽器の修復は本来モノクロ写真で撮影するものらしいですが、私は最近はすべてデジタルカメラを使っています。現像の手間も露光のチェックもその場で手間要らず! フイルム代もプリント代もいらずCDに焼いて永久保存.......なんて便利な時代に生まれたのでしょう。私のバヤイは年中「忙しい。忙しい...」といいながらカラダはいうことをきかないわけでして、従来の銀塩フィルムの魅力も捨てがたいものがあるものの、時間の都合もあってこまめに撮影してどんどん作業を進めるには余計な手間はなるべく軽減したいのがホンネです。
修理をはじめる際には問題の箇所だけでなく全体をくまなくチェックして、必要ならあらゆる箇所を治すことにします。場合によっては修理前に採寸して図面をとっておきます。
● 問題となるのは.....
● 具体的には
・塗装の状態(ニスの種類、リフィニッシュの有無、退色度)
・クラック(割れ)、剥離、
・ネックの反り、交換、指板の状態、弦高など
・時代とタイプ、本来指定された弦が張られて使われてきたのかどうか
・内部の力木(バー、ブレイシング)の配置やハガレ
・フレットの材質・形状・磨耗度
・内部のニカワの劣化の度合い、パッチの状態
・ナット位置とサドル位置の弦の配置幅
・その他の改造歴など
海外から入手した楽器はたいてい内部はホコリが分厚い層となって堆積しており湿気の影響もあったと考えます。磨耗しやすいブリッジやペグの交換はよく見られますが、古い楽器でよく弾かれているものだと交換せざる得ない場合もあるでしょう。楽器として機能させることを優先するのであればオリジナルの部品は剥がしてとっておき、あらたに作りなおします。もし、人に譲る場合はオリジナルパーツも一緒に渡してあげるという提案はいかがでしょうか? 現実には紛失しちゃったりしてなかなか難しいでしょうけど....。
木ペグやブリッジピンはほとんど非オリジナルということが多いのですが、一見してオリジナルと思ってもじつは入れ替わっていることが案外多いようです(削り痕やテーパをチェックします)。テーパの異なる木ペグ(たいていヴァイオリン用に装換)はよく見かけますが、そのまま使うとヘッドに亀裂を生じます。事実、そのような楽器をいくつも治しました。
表面板のクラックは「割れてむしろあたりまえ」と私は考えていまして、古い楽器(といっても楽器の種類によっては厚く割れにくいタイプもあります)の多くはいずれもその可能性を持っていると考えています。.....で、鶴田はそんなときどうするかといいますと、積極的に「埋め木」......あああぁぁ...うううぅぅ〜........のうめきではなく細い木材をクラックに挟む方法で対処します。製作家によってはクラックの処理は埋め木はいっさい行わず表面板全体を交換し、バーもつけなおすという方法の方もおられるようです。
内部はよく見えないのでサウンドホールから手を突っ込んで、まさしく「手探り」でバーの状態などを触診していくわけですが洗面台(おしゃれにドレッサーといふべきか)などに使われるプラスチック製のミラーを入れたり、ランプで照らしたりして観察することも必要です。
表面板に内部から手をあてればブレイシングの配置や高さもおおむねわかります。ストリングCAMなんてのは鶴田の興味本位から出たお遊びですからみなさんこんな高価なモノを揃えて内部を撮影する必要はありません。も〜〜、最近鶴田は「歩く興味本位」と呼ばれています....。撮影画像の一例はコチラ。
【下準備を開始】
● あまりにも修理箇所が多い場合は製図用テープなどでマーキングして作業の段取りを検討します。検討といってもあきれかえって「あ〜〜あ、こんなにあるのか......」と呆然と立ちつくすだけですが.......。下の写真はマークをはじめたばかりで実際にはこの2倍ぐらいの問題箇所がありました。
● 必要に応じてパッチ(クリート)を準備します。プロの製作家やリペアマンに具体的なパッチのことを尋ねたことはないのですが、私の場合はパッチにもクラックの埋め木にもスプルースかイチイを使います。海外のリペアの参考書を読むとギター内部の側面板に布を貼る方法も書かれていたりしますし、実際頻繁に見かけますが私はやったことはありません(まあ、それもひとつのセオリーなのかもしれませんが)。パッチは木目に注意して薄板から切り出しますが電動糸ノコでは切断面が荒れるので私は面倒であっても手ノコかカッターをなるべく使うようにしています。文献によるとパッチの形状や厚さにもいくつかのセオリーがあるようでして、菱形や正方形はよく見かけますがその木目のとりかたにはいく通りかあります。すでに過去の修理でパッチが貼られていたり、さらにそこが不適切な処理、もしくは経年の劣化で再度割れを生じているものもよく見かけますね。
● フレットは磨耗していてもバーフレット(I 型)ならば交換せずに、埋める高さを変えて再びそのフレットを打ちなおすことにしています。交換するのであればいっそのこと全てを打ち換えたほうがいいと考えていますが、その場合は1mm厚さの真鍮板を金工ノコで短冊状にカットしていきます(面倒くさい.....)。
Tタイプのフレットの場合は高さ調整して打ち直せないので部分的に、あるいはすべてを交換します。Tタイプフレットは指板に埋まっている部分の状態が古いものと新しいものとでは細工が異なります。あと、ついでに.....Tタイプフレットといっても歴史をさかのぼると30種類以上はあるので選択はちょっと面倒です、なるべく類似したものを探します。GibsonやMartinなどは純正部品?なる指定のフレットがあるわけですがそれも時代やモデルによっては微妙に異なるので注意が必要です.......従って正直なところTタイプのフレットはいじりたいくない私.......。スチール弦の楽器ではほとんどが指板面はラウンドしているのでフレットもアーチをつけてから打たねばなりません。いずれにせよ必要に応じてなるべく当時のオリジナルに近いタイプのものを手配します。知り合いのプロのジャズギタリストにいわせるとフレットの太さはレスポンスやサスティーンや音色に思いのほか影響するのだそうです(気になる人にはモノスゴク気になるものらしい...)。
【鶴田式では....】
● いまのうちに言っときますが、私の場合一見して問題と思われる箇所であっても、演奏に支障が無くたんに見てくれが悪いだけならば手を付けずそのままにしておくことが多いです。従って、リペアが「終わった」あとでもピカピカの新品状態にはならないのです。弾いて生じたスクラッチはまずそのままです。