■ ギター、リュート、ウクレレの弦を選ぶまえに
冒頭でも述べていますがどんな弦楽器であっても「楽器のスタイル」、「適切な弦」そして「弾き方」、これがマッチすることが楽器の音を最終的に決定する三大要素と鶴田は考えています。 ところがなかなかそうならないのが現実であり、多くの場合はこの三者がアンバランスになってしまうわけです。このコーナーの目的はせめて適切な弦を選ぶことで他の2要素のバランスがとりやすくなってシアワセになれればいいなぁ、という願いから開設・公開したものです。
楽器の弦というのはたいていのものであればショップで入手できるわけですが、音色や弾きやすさにこだわったり、ちょっとヒトとは違った楽器が弾いてみたいとか民族楽器に手を出してみたり、よりマニアな?楽器に興味を持ったりなんかすると、楽器店に弦が置いてないとか、置いてあっても選べないということになるのです。しかし、そこはそこ、上手に探してちゃんとその道をたどっていくと弦(弦に限らず楽器ごとの専門的な情報も)は必ずというほど入手できるのです。せっかくでっかい百科事典兼イエローページ兼カタログであるインターネットをみなさん使っているわけですから根気よく探しましょう。国内だけを探していたのでは現時点では御マニア様を満足させるようなマトモな情報は少ないのが現状......。ひとつがんばって大海原を越えて海外にも目をむけませう!
Lute/バロックギター等:海外のホームページには「6コースルネサンス用」とか「5コースバロックギターセット」とか「13コースバロックリュートセット」なるものも売られています。しかし弦長や張りの強さを考慮すると「楽器に対して適切な弦」という意味では弦の計算尺があったほうがダンゼン有利です(計算尺の使い方については第4章で説明しています)。あるいは楽器専門店と相談して決めてもいいわけですし、通っているリュート教室の先生に分けてもらうというテもあります。購入した時点でちゃんとゲージをメモしておいたほうがいいでしょうね。最近はホームページ上でも1本づつ選択して弦を購入できるサイトもあるようです。弦の計算尺についてはこのコーナーで紹介している世界中の弦メーカーに問い合わせてみてもいいでしょう。あと、Windows版ゲージの計算ソフト(イギリスの製作家のオリバーさん作)もオンラインソフトとして利用できるようです。当クレーンホームページのリンク集やショップ情報のコーナーも参考にどうぞ。海外とのやりとりができれば様々な種類の弦の入手が可能です、むしろ国内のショップ等だけで検討すると弦の選択の幅は在庫に左右されて厳しいといえます。弦計算尺はピラミッド社やキルシュナー社が販売しています。NRI社では計算のしくみの解説されたチャートが1ポンドで販売されています。おもいっきりマニアな弦にハマるもよし....。
Uke:ウクレレの弦はじつはとても豊富です。ショップではたいていセットで販売されていますが最近はローG、つまり4弦めをオクターブ低いG(ソ)で調弦することもポピュラーになってきており、ギターの4弦を代用します。この場合もなるべく楽器に合った適切なテンションのものを選ぶほうが音も良く楽器にも優しいといえます。理想をいえばウクレレであっても弦の計算尺を使って計算しつつ弦を選ぶほうがいいでしょう。え?面倒だって? はははは.....まあ、そのキモチはわかりますが弦によって鳴りは大きく変わる楽器もありますし、自分の楽器にいったいどれくらいのテンション(張りの強さ)がかかっているのかを計ってみるのは興味深いことでしょう。最近お店をのぞくと1800年代末のオールドウクレレなんてのも見かけます。そういう場合にも計算尺があればガット弦を張ってみる、なんていう楽しみが増えるわけです。やみくもに弦を選ぶことは時間とお金の無駄です。
Modern Guitar:一般的にいうクラシックギター(クラシカルギター)はすでにプロアルテやオーガスチンをはじめとする様々な種類の弦を選べるようになっていますし、入手も容易です。しかし自分の楽器の弦長、サドルの高さ、弦の仰角、弦高、音色などにこだわりはじめると......あまりの選択肢の多さに困惑したりするものです。時としてプロの製作家や演奏家でも自分の楽器にどれだけのテンションがかかっているかをご存じでない場合もあります。実際に弾いてみたときのフィーリングは大切ですが、同時に比較対象して弦を選ぶという意味では弦の材料や張力を知ることは重要なことだと思います。音と操作性と楽器に心地よくてやさしい張力をバランス良く選出するのは想像するだけでもむずかしそうです.....う〜〜む.....。おおむねモダンなクラシックギターの場合は最大で8kgを越える場合も珍しくなく、6本で45kg〜50kgを越えるものもあり、しかも近年は張力が増大する傾向があるようです。ローテンションと呼ばれる比較的張りのやわらかい弦のセットでも40kg以上の張力がかかっています。メーカーによってハイテンションとかロー(ライト)テンション等の基準が異なるため、同じローテンション表示でも張力は異なるのが普通です。
19c-Guitar:当サイトで押している19世紀ギターもまた弦選びにこだわりたいところです。一般的なクラシックギター(モダンギターとでもいふべきか?)の弦をそのまま張るとテンションは強すぎる場合がほとんどです。ですから張りの適切な弦(必ずしもヘナヘナの弱い張力が良いという意味ではありません)を探したほうが楽器のためにもよろしいのです。お店や個人売買も含めて、19cギター購入時にモダンギターの弦を張ってあることは多く、その場で試奏すると力強い音?を得られますが使い続けると楽器の故障の原因になります。本来19世紀ギターの多くはやさしいタッチで充分な音量や遠達性を発揮します。楽器保護の意味からもリュートやバロックギターで使われているような弦を選択するという手段がありますが弦長やテンション(張りの強さ)の計算をしたほうがいいでしょう。あとはモダン・ギターの弦のなかから張りの弱い(ローテンション、またはライトテンション)ものを選ぶという方法があります。入手が難しい場合はモダンギターの1弦を19世紀ギターの2弦に張る、というように1本づつシフトさせるという方法も一案です(その際は最高音の1弦には釣り糸を使います)。ギターの弦にナイロンが登場したのは20世紀のことですから、このコーナーでは別章にガット弦についての説明も記しておきました。ガット弦は古楽器ショップで販売されていたり取り寄せも可能です。あとはドイツやイタリア、アメリカなどの弦メーカーから直接輸入するという方法もあります。
なお、19世紀のギター全部がすべて弱いテンションというわけではなく、なかにはモダンギター並の張力で使われたと思われるギターも残っています。一説によると1本あたり10kg!!と推測されるシェリーのギター(NRI社のホームページを参照)なるものもあるといわれていますが、レアケースも含めて様々なタイプのギターはいくつか存在したようです。
以下の写真は19世紀のフレンチ・ギターですが、おそらくはスチール弦を張ったために生じたと思われるクラックが生じています。表面板の両脇と指板面のジョイント部、あわせて4箇所にダメージが見られます。この楽器はブリッジも激しく破損していました。
Steel-Str.Gutar:そうそう、スチール弦やエレキギターの弦選びも例外ではありません。メカニカルな?構造のブリッジやロック機構などによって比較的調整が楽で狂いにくいと思いきや、チョーキングしたり逆にテンションの低い弦でのトラブルなど、これまたスチール弦の世界にも頭の痛い問題があれこれ存在するわけです。民族楽器のなかには4本とも同じ太さ?の弦を張るようなものもあったり.......。スチール弦にはかなりの張力がかかっていて、私などは太いゲージだとコード押さえるのに歯をくいしばったりなんかして......コードチェンジのたびに、うりゃ〜〜! とりゃ〜〜! .......。なお、スチール弦のギターは1903年にはすでにGibsonがアーチトップギター(L-0とかね)で採用しています。太めのゲージも多かったようで当時のギターのなかには恐ろしく太いネックのモデルもあります。
マーチンも1900年代初頭にはすでにカスタム・オーダーでスチール弦ギターを作っていましたがレギュラーモデルになったのは1922年からで、世の中にスチール弦ギター(昔はピックギターなんて呼んだり、1970年代以降にはフォークギターと呼ばれているヤツね)が広く普及しはじめたのは1920 〜30年代といわれています。
真鍮線などはそれ以前にも存在したようですが産業革命によってピアノ線が発明されると急速に弦楽器の世界に普及していきます。1900年代中頃に19cギターがあまり演奏家の感心を集めなかった時代にフォークギターと勘違いされてスチール弦がラコートやシュタウファーなどに張られ、強いテンションで楽器を壊していったと推測されます。現在でもマーチンの19c初期のギターに当然のごとく張りの強いスチール弦(アコースティックギター用の巻弦だと1本で15kgというゲージも市販されているぐらいです)を張ってある例も多くみかけます。マンドリンなどもマキシマはクラシック系ボウルバックでは人気が高いようですがmartinのSTYLE-AやGibsonマンドリンでは楽器の弦長やブリッジの構造などもまるで違うことが多いので注意が必要です。マンドリンの世界でも現存するバロックマンドリンにとんでもない弦を張っている演奏家を見かけることもあり、プロですら弦選択の意識の低い演奏家もみられます。
スチール弦は想像を超えるテンションがかかり、これを張るにはネックにロッドを入れたりブレイシングもXにするなどといった構造が前提とされています、D-28にも見られるように時代ごとにX点の位置はマーチン社でも試行錯誤されています。ちなみに昔弾いた友人のD-28はとても張りが強くて私には弾くに耐えませんでした(トホホ....)、やはり私はガット・ナイロン系体質なのかな? ところで、その昔チェンバロや一部のキタローネなどに金属弦が張られていたようですが果たしてギターは19世紀以前はガットのみであったのでせうか? キタッラバッテンテやギターに類似する楽器もいくつかあったとは思いますがこのへんの可能性も興味のあるところです。金属弦についてはさらに調査が必要ですね......。
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