【私はいつもどのように弦を選んでいるのか】
あらゆる弦長と異なる構造、異なる材料、異なる時代の楽器を毎日のように修理して、製作して、壊して? 調整して、弾いてきたわけです。イヤでも弦選びのコツはなんとなく身についてきます(それでも謎は多いのですが)。
私の場合は楽器に弦を張るときは、まず最初に1弦のみをナイロンに交換します。クロマチックチューナをONにしたまま「ゆっくり」巻き上げつつ指示を読み取りながら注意深く弦を弾きます。楽器と弦の相性の良い点はどこかに必ずありますからいきなり ミ(e1) の音まで巻き上げてはいけません。いきなりそこに合わせるとオイシイ共鳴点を見逃してしまいます。ゆっくり巻き上げて「注意深く」その点を耳で確認しながら探し当てることが重要です。ギターの場合でいえば、すべての6単弦ギターの1弦が A=440Hz、e1 にて良く鳴るように作られているわけがないのです。
巻き上げていく途中で良く響く音の高さをチューナで読み取ります。同時にそのときの張力(kg)を弦計算尺で読み取ります。なおかつ、右手と左手で弦の張りの感触も確かめます。
その楽器の良く鳴る点(音色もしくは音量)は一つではありません。共鳴点というのは低い音や高い音の数カ所に起こり得るものです。しかし、実用的なその点を見つけましょう。そのときの張力と素材に注目することがベストな弦を選ぶヒントになるわけです。同様に2弦〜6弦を選びますが、傾向としては1弦がやや高めのテンションで、あとは同じ程度に設定することが多いです。ナイロン弦で最良の音色と音量を確認したら次は素材を変えてみることにします。
素材ごとの比重についてはCRANEサイトの弦のコーナーにも書きましたが、
金属 > カーボン > 羊腸 > ナイロン
です。CRANEホームページには比重を測定したグラフも掲載してあります。音色は弦が同じ張力でも素材によって変わりますが、比重が大きいほど(重いほど)鉄弦に近い音になり、比重が小さいほど(軽いほど)ナイロン風のやわらかい音になります。事実、カーボン(シーガー)をスチール弦のアコースティックギターに張ったことがありましたが、ほとんど違和感がありませんでした。
楽器がいちばん良く鳴る基準ピッチは必ずしもA=440Hzではありません。楽器ごとの個体差があります。そしてそれはその楽器が弾かれた時代のピッチに合わせれば必ずしも良い結果が出るわけでもありません。この辺りが難しいところだと思います。楽器の鳴りは
楽器の構造(ヘッドの角度やボディ寸法)
楽器の材料
基準ピッチ(A= Hz)
弦長
弦の素材
弦の張力
ナットやサドル、フレットなどの素材とセッティング
糸巻きの重量(楽器の重心位置)
気温と湿度
弾き方
などによって変わります。逆にいえばこれらの条件のバランスが崩れると
楽器が鳴らない
弦が切れる
楽器が変形する(ネックの反りなど)
楽器が壊れる(表面板の亀裂や接着面の剥離など)
弾きにくい
音楽として調和しない
などの問題が起こるわけです。このへん、わかっていても計算尺など使ってあれこれ弦も変えたりして充分に試す人は少ないですね(面倒がって、あるいはどのように条件を選べば良いか複雑で)。その結果、多少なりとも不満や不具合を残したままになってしまうと ... 。楽器のトラブルにはたいてい前兆があります。でもよっぽど注意深く楽器と接していないと気付かないことも多いです。それはつまり楽器への愛ですな。
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