おそらくこんなコーナーは世界中探しても見あたらないと思われますが、文字どおり弦楽器のモールドに特化したコーナーです。たぶん世界初かもしれません.......(う〜〜〜ん、感動しない)。まだコンテンツは少ないのですが気長にのんびり、それこそ誰にも期待されずに気長に続けようというコーナーです。ホントはこのコーナーのタイトルを公にしたいがために設置したという説もあります。
しかし、じつはみなさんから以外と質問の多いのもこのモールド製作についてです、ギター製作用のモールドは市販品なんてそこいらじゃ見かけませんしねぇ....。ここでは過去の記事などもあれこれ引用しつつ構成しています、新しいモールド情報が入り次第(そんなにあるのか?)、じわじわと更新してまいります。皆さんも「これはっ!?」と思われるモールドを見つけたら(見かけないだろうなぁ)御一報ください。
■ なぜモールドのコーナーなのか?
ギターやマンドリン、あるいはヴァイオリンやウクレレといった弦楽器製作では側面板やリブを組み上げる工程においてなるべくシェイプに忠実に、型通りに組み上げていく必要があります(実際には補正しながら手加減しますけど)。型が無くとも弦楽器を作ることは不可能ではありません。しかしながら同じ形状の楽器をたくさん製作したり、作業を正確に手早く進めるには非常に効果的な治具であるといえます。側面板やリブだけでなく表面板や裏板を接着する工程でも使えますしライニングの接着でも使えます。また、製作だけでなく修理においても重宝します。そしてまた、私はギターの側面板はベンディングアイロンでおおまかに曲げておき、最終的にはモールドの内側に押しあてながらベンディングしています(写真参照)。こうすればイヤでもピッタンコにフィットします........こういった使い方もできたりして、有ればトッテモ便利なモールドということなのです。従ってゼヒみなさんにも自作をオススメしようと思い立ったわけであります、弦楽器製作家必読!...(でもないかな...)。
楽器の型(モールド)はいったいどこで売っているのでしょうか? ダイクマとか東急ハンズとかローソンには売っていません。サークルKやベスト電器やカニ道楽にも置いてないと思います。多くの弦楽器製作家の場合は木材を買ってきて自作するか金型加工業者に特注(高価)することになります。たしかアメリカには楽器の図面を送ればモールドを加工してくれるショップがありましたよ(安くないし送料もかなりかかる)。そういえば海外のオークションでMarinのドレッドノウトなどの型を見かけることもできます(決まった型しかなく送料もだいぶかかる)。ヴァイオリンの型は弦楽器材料店などで比較的入手しやすいようですけどねぇ...。量産ギターのような一般的な楽器のモールドならともかく、私の場合は作るたびにタイプの異なる楽器なのでどうしてもそのつどモールドは作らざる得ないのが実状です。
しかしまあ、当サイトでは今までの楽器作りで紹介しているように簡単に安く作れるものであれば自作することをオススメしていますし、はっきりいってカンタンです。私も過去にあれこれモールドを作りましたが(全部の写真が残っていない)ここにちょっとだけ紹介します。モールドを作るとなると、何らかの参考資料が欲しいものですが、これまたどこでも見かけるというシロモノではありません。いかにもホームページらしい、マニアな小さなコーナーなのです。参考なんか無くったって独自の創意工夫で作ってもヨロシイのですが、ここのサンプルや資料がみなさんのお役にたてれば幸いです。
■ モールドのいろいろ
はい! というわけで当サイトの過去の記事で紹介したものや以前入手したマーチンのモールドなどを列挙してみました。よくみるとモールドにクランプをかけないで使う構造のものも見られます。スペイン式の製作法では表面板や裏板は最後にゴムバンドで縛りながら接着してハコにしてますよね。マーチンなんかもそういった工場内の作業写真を見たことがあります。私はフツーのギター製作にはモールドとクランプはセットで考えることが多いです。
● 水原洋 大先生のバロックギターのモールド 写真1
● 山下暁彦 大先生のモダンギターのモールド 写真1
● 黒澤澄雄 大先生のモダンギターのモールド 写真1 写真2
● すっとこ鶴田のミニギターのモールド 写真1
● すっとこ鶴田のバロックギターのモールド 写真1
● すっとこ鶴田の19世紀ギターのモールド(最近はこのテのタイプをよく作る) 写真1
● マーチン社(Martin)で使用されていたモールドを次に3つ挙げます。その昔マーチン社の従業員が工場からもらい受けたものをアメリカのアンティークショップが買い取って今日まで保管していたとのこと(もともとマンドリンのモールドなどが6つセットになっていた)。モールドは当時マーチン社にはいくつかあったわけですが古いものはほとんどすべてが破棄され、ここにあるのは運良く残った貴重なものです。恐ろしく古いモノで、博物館に置いたほうがよさそうな気もしますが折角ですからこれを使ってギターを作ればおもしろいじゃないか、というわけです。それにしてもでっかくて重くてじゃまです(笑)。ひとまず我が家は狭いので友人に預かってもらったりレンタルして対処しています。私がこれでギター作るのはいつになることやら...。ちなみにマーチンの大昔のマンドリン・モールドは日本国内の某氏が所有しているようです。
【STYLE-1】
その昔(19世紀)、マーチンの製作したギターはモデル番号がSize-1とかSize-2とかSize-5といったようなシリーズでラインナップされていました。この写真のモールドは寸法からいうとおそらくSize-3であろうと思われます。裏面にかすかなサインが残っていることから、たぶんマーチン社がO.Ditson社向けにOEM供給していたギターの製作に使われていたものでしょう(推定:ディットソン・スタンダードモデル用)。19世紀ギターとほぼ同じサイズというのも興味深いところです。モールドの厚さは約60mmで、ムク材のガッチリしたものです。
【MODEL-O】
いわずと知れたオーケストラモデル。シングル・オーのモールドでございます(お〜〜〜!)。 裏側にOのサインもあります。歴代のOはこれによって作られたんでしょうなぁ....。まあ100年ぐらい経過(もっと古いかな?)しているので亀裂などをだいぶ修理しましたが、まだまだ現役で使えます。5層構造のたいへん凝った作りです。木目の使い方に注目。
【MODEL-OO】
いわゆるダブル・オーですなぁ。これもお店には売っていません。周囲にはニカワもしくは塗料による汚れがだいぶ付着しており、型の外側の摩耗もかなり激しいです。これにも裏側にOOなどの刻印が彫られています。上下の固定板はボルトで脱着できます。7層構造。レアもレア........。
■ モールドを作ろう!
さあ、それではみなさん早速作りましょう。手順は次の通り!
(1)合板もしくは集成材を調達する。
私はファルカタ集成材がお気に入りです。バルサ並の重量でありながら強度は充分。そういえばケース作りのコーナーでもファルカタ集成材を使っています。ギターの場合はモールドの厚みは2cmもあれば楽器は作れます。同じ型で量産するのであればもっと厚いものが良いでしょう。私はギターの場合は15mm厚の板を2枚重ねるか、もしくは20mmの1枚板を使うことが多いです。ムク板は加工しずらく、のちに変形したり亀裂が出やすいので合板か集成材を使うわけですが、適度な堅さの木材があればムク板でもかまいません。もし2枚を貼り合わせて厚みをかせぐのであれば木目が直行するように接着できればベターです(木材の種類やサイズにもよる)。
(2)楽器のシェイプを型紙かセルロイドに書き写し、板に転写する。
ようするに楽器の輪郭を板に書き写すわけですが、もし手元にある楽器のコピーモデルを製作するのであれば直接その楽器を板に押しあてて鉛筆でその輪郭をなぞってもよろしいのです........文字通りダイレクトプリントですなぁ。ちなみに現存する古い手工楽器は左右非対称のものが多いのです、ピッタリ左右が鏡面対象なものは希といっても過言ではないでしょう。世界中から入手できる楽器の図面でも明らかに左右非対称とわかるものもなかにはあります。特徴的なシェイプを左右のどちらに象徴的に持っているかを検討しつつ作業します。
(3)糸ノコもしくはバンドソー(ジグソー等でも可)で切り抜く。
電動工具があればあっという間にカットを終えます。手挽きの糸ノコでもかまいませんが、予算次第といったところでしょう。予算があっても近所迷惑を配慮して電動工具が使えない場合は泣きながら手ノコで挽きます。このテの木材はやわらかくて加工しやすいです。シェイプはゆっくりノコを移動させればきれいにカットできますが多少ズレてもなんとかなるものです。なめらかに、あるいは凸凹を補正して仕上げたい場合はこれに丸棒のヤスリをかけてもいいでしょう。多少ラフでもOK!
OK!
(4)クランプ用の溝(または穴)を加工する。
ギターの場合のモールドは側面板と表面板の接着などに威力を発揮するわけですが、接着剤を塗布してそれを固定するためにクランプを併用することが多いです。ライニングの接着ではクランプは不要ですがやはり型に固定しておけば作業はう〜〜んとらくになります。できればボデイ内側からウエスト両脇を固定するための「つっぱり棒」も作っておくとよいでしょう。
(5)必要に応じて補強や留め具の加工。
モールドはかさばるので保管がたいへん...そう思った私はギリギリまでコンパクトな型を作ったりしています。だいぶ細くなるので補強も工夫します、使用にあたってはクランプはモールドの内外両方から掛けます。中央で半分に分割できるので収納にも優れます。留め具はボルトで締め上げるようになっています。20mmのモールドの厚さでギター側面の厚さ70mm〜100mmにうまくあてがうことができるのか? と思われるかもしれませんが、たいていうまくいきます。心配なら下駄をはかせるという手段もあります。どうです?コンパクトでしょ? こんなに細くてもちゃんと楽器が作れてしまうんですねぇ....。考えようによってはエコですなぁ。
・さあ、もうこれでモールド作りは万全です(ウソ)! マンドリンやバロックギターなどボウルバックの楽器ではウレタン樹脂のモールドもあれこれ試しているのですが資金(コストというべきか)の問題もあり、かつ、廃棄するときの環境への配慮などを考えると天然素材でエコにいきたいところです。過去に凝った仕組みのモールドも作ったり考案したりもしましたが楽器を量産するわけでもないですし、凝ったものはお金もかさむのです。上に紹介した集成材のモールド(というよりホントの簡易的な型ですね)はギター1台のモールドなら1000円ぐらいで自作できます。
参考になりましたでしょうか?