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■ 035:チェシャ/cheshireさん 「11コース バロックリュート(弦長675mm)」
■楽器名:11コース バロックリュート(弦長675mm)
■製作者:チェシャ/cheshire
写真:ロゼッタ 写真:ボウル 写真:ペグボックス 写真:透かし彫り
● 仕様と材料
モデル:ハンス・フライ風(イギリスのリュートソサエティの図面を基に一部変更)
スケール=弦長675mm
表面板:アルパインスプルース(LMIのやつ)
ボウル:シカモア(スペーサは黒檀)
ネック:ホンジュラスマホガニーの縞黒檀べニア巻き
指板:縞黒檀
ブリッジ:ペア
ペグボックス:ビーチ(バックはココボロの透かし彫り)
ペグ:ココボロ
塗装:ボウルはシェラックの刷毛塗り(色は染料使用でバイオリン風)。ネック,ペグボックスはオイルフィニッシュ
● 製作過程など
・写真1:スーパーロングベンディングアイロン(自作)
・写真2:リブ削り用の鉋です。1台鉋を犠牲にして専用のものを作りました。
・写真3:リブの接着です。モールドはスケルトンタイプです。ゴムバンドで押えるのがミソ。
・写真4:ロゼッタ掘り。私は表面から掘ります。裏側は別の紙で補強しています。
・写真5:力木接着。以前はカムクランプでしたが,効率が悪いのでゴーバーデッキを作りました。ゴーバーは竹です。
・写真6:ブリッジの位置決めです。神経を使います。
・写真7:ブリッジ接着。箱型の簡単な治具を使用しています。
・写真8:塗装1... 初めにガンボジで黄色に着色しました。
・写真9:塗装2... ガンボジとドラゴンズブラッドで着色したシェラックで刷毛塗りです。
・写真10:表面板の接着。接着の当てものには,子供が昔使ってたビート板(水泳の)を活用。
●コメント
早いもので初めてクラッシックギターを制作してから10年以上たってしまいました。その間,ウクレレ,バロックギター,13コースバロックリュート,7コースルネッサンスリュート,19世紀ギターと、こつこつ制作してまいりました。皆,自分が弾くために作ってまいりましたが,どうやらやっと使えるものが出きるようになってきたかなというところです。
リュートの制作は,ギター類より手間がかかりますが工作としてはとても楽しいです。しかし,弦高の調整がなかなかうまくいかず,いつも悩んでいます。塗装は今回初めて染料を使ってみました。バイオリンの塗料によく使われるガンボジ(黄色)とドラゴンズブラッド(赤色)を使用してみました。結構いい色になったと満足しております。
リュートやバロックギターなど作っていると黒檀のべニアをネックに巻く作業が出てくるのですが,市販のベンディングアイロンでは長さが足りず困っていたため,ベンディングアイロンも自作しております。名づけて「スーパーロングベンディングアイロン」。(なんと650mm長!)オーブントースターのヒーターと調光器のキットを組み合わせて作りました。
参考になれば幸いです。
【鶴田より】
今回はバロックリュートの投稿です。このテの楽器の製作記事は国内でネット上を探してもギターに比べると少ないので、今回お願いして製作過程の写真を追加してもらいました。
どうです? 各部にコダワリと熱意がにじみ出ていますね。ハンス・フライ風ということで雰囲気も素晴らしい。ペグボックスの裏の彫り抜きもお見事。ペグもココボロですか、これもいいですね。
図面を分析して、しっかり木型を組んで補正・調整しながら作ってあるので全体のフォルムが整っています。専用のリブカンナ台やクランプを自作するなど、作業段階ごとに慎重に作業された様子がうかがえます。リブ組みの黒いバンドはタイヤのチューブでしょうか。ゴーバークランプ台には「竹」の押さえ棒です。過去の製作の経験も活かされています。
塗装の色艶も美しく、ニスの研究もされているようです。ガンボジ(gamboge) やドラゴンブラッドレッド、各種天然樹脂はヴァイオリン系あるいは古楽器の製作でよく用いますが、産地や処理方法によって特性が異なることも多いので、これも経験を積むことが必要ですね。うちの工房にもあれこれ置いてはありますが、顔料や染料、樹脂などは種類も使い方も使い方も多岐にわたり非常に奥深い世界です(ニスの研究だけで一生を終えてしまいかねないので注意しましょう)。
ここで登場する様々な自作の治具や工具類は今後リュートを作ろうとする方々の参考になろうかと思います。「スーパーロングベンディングアイロン」は、かつて私も「こんなのあったらいいなぁ」と思ったのですが、ここにしっかり作ってしまった人がいたんですね。
いまやネット上で探せば、あらゆる作例や画像(動画ですら)といった製作資料が手に入りますが、やはり最後は自分で工夫して作るという姿勢、これがとても大事だと思いまする ... 。
記事:2015.1.21