|
■ 024:「桃尻」
■楽器名:「桃尻 / Momojiri 」
■製作者:ウィリアム・マリネッロ(William Marinello) さん ヴェネツィア / ITALIA
● 友人のアルベルト・フェスティと共同で開発し、去年11月に完成した2作目のギターです。細い胴回りと人体(日本女性が正座した時の後姿のフォルム)のような丸みをおびたロアブーツが特徴。
ブレイシングはブリッジを中心として周辺に音が分岐するようにしました。ブリッジは最小限のサイズにしてあります。ネックとヘッドストックが縦の線で木の繊維が途切れる事なく一体になるように、フィエンメ谷のモミを薄板にして重ね合わせカーブをもたせてあります。
表面板はカラマツの薄板を重ねたもので、厚みは、1.5mmから3.5mm。トップに薄板を重ねる方法は、(アルベルトの反対にもかかわらず)1作目のギターと同様です。実験的な意味で行いましたが、余りにも時間を取り過ぎたのでこれが最後になるでしょう。結果として音色は甘くバランスがとれ、リッチなハーモニーで‥‥ ええ、ええ、もちろん、これは作った私本人の感想でして、でも、めずらしく今のところ出来に満足しているのです。
・写真1(ブレイシング)
・写真2(側面:高音側)
・写真3(側面:低音側)
・写真4(裏板)
・写真5(裏板バーとヘッドインレイ)
【使用材】
表面板:カラマツの薄板を重ねたもの
サイドとバック:ニセアカシア
指板とブリッジ:ブラジリアン・ローズウッド
ヒール:洋ナシ
ビンディングとサウンドホールエッジ:パドック
【鶴田より】
このコーナーもいよいよ国際的になってきました。今回はイタリア(ヴェネツィア)からの投稿です。
ヴェネツィアで建築や修復の仕事を営むかたわら、ギター作りに没頭しているというウィリアム・マリネッロさん。日本人の奥様からメールをいただきました、「主人はもともと木が大好きで、ずっと木で色々な彫刻のオブジェを作っていましたが、ギター製作に出逢ってからは、それに没頭しています。目の焦点があってないなあ、と思うとだいたい次のギターの事を考えている有様... 」とか。ウン、ウン、わかる、わかる。私だって気がつけば遠くを見ながら次に作るギターのコト考えてるもん。
それにしても、なんて独創的なんでしょう。自在に掘り出されたブレイシングはまるで樹木の幹や根が伸び育つ様にも見えます。様々な箇所に彫刻作品をイメージさせるものがあります。 「桃尻」、なるほど確かにこのギターのフォルム、西洋人ではなく日本人だなぁ。 ウエスト部分は曲げるのがたいへんだったでしょう。 エンドブロックもちゃんと桃のカタチに2つに分かれていますし、 どこからみてもちゃんと桃(オシリ)のカタチですね。使われている材料や音にかかわる構造など、あらゆるところに マリネッロさんのこだわりが出ている傑作。一度見たら二度と忘れないキョ〜レツなギターだと思います。
※【桃尻】とは
「ももじり」 [1] 桃の実が、すわりが悪いことから 馬に乗るのがへたで、鞍(くら)の上に尻がうまくすわらないこと。〔補説〕 桃尻にて落ちなんは、心憂かるべし〔出典: 徒然 188〕 [ 大辞林 提供:三省堂 ]
と、ありますが、なかなかどうして、マリネッロさんのこのギター、スタンドが不要なほど座りがよさそう。
ちなみにマリネッロさんの1作目のギターは娘さんのために作ったという「琴乃」ですが、独特のヒールをもつこのネックは脱着できるそうです。1作目も2作目も木材の扱いや加工にはさすがに手慣れた感が覗えます。コブや杢を上手に使った作風はたしかに彫刻家を思わせますねぇ。写真では楽器もさることながら背景に写った工房内の木材に目が釘付けになることうけあい。木を使った造形には並々ならぬコダワリが感じられます。
【オマケ】
私の高校時代にはユニークな名前の友人がいました。「尻無浜」君です。さて、なんと読むのでしょう?
答えはそのまんまの「しりなしはま」君なんです。今頃、どうしてるかなぁ......
記事:2010年5月23日